「他者」へのまなざし
「他者」とは、一言で表すならば、自分とは違う存在、自分とは違った立場にある存在のことだと思う。『質的社会調査の方法』より、社会学者の岸政彦さんの言葉を借りるならば、「他者」とは、大まかに言うならば、周辺的な人びとや、マイノリティの人びとのことを意味する(岸・石岡・丸山, 2016)、とも考えられる。
岸さんによれば、私たちは、他者を「完全に」理解することは絶対にできず、他者を軽々しく理解しようとするのは、暴力である。しかし同時にまた、私たちは私たちの隣にいる「他者」の人びとを、なんとかして理解しようとする営みをあきらめてしまってはいけない(岸ほか, 2016)、と言うのである。
岸さんのこの考え方が、このスタンスがとても好きだ。この考え方には慣れ親しんでいて、殊更驚くことではなかったけれど、とても大事だと思った。
『はじめての沖縄』で、僕ははじめて、沖縄の問題に対する岸さんの立ち位置の取り方、距離感を知った。この本を読んでいて、僕はとても胸が熱くなった。タイトルにあるように、沖縄の話がメインなのだけれど、彼の考え方は、他の問題についても必要、かつ非常に重要な見方だと思った。そして、あらゆる差別や抑圧への立ち向かい方、マイノリティの人へのまなざしの向け方に共通する話だと思った。
いやいや、そんなに大きな話にしなくてもいいんじゃないか。むしろ、自分の目の前の誰かのことを考える上で、必要なのだと今思う。
こんな考え方は、常識にならなければいけないと考えているけれど、まだまだそんな社会ではないのだろうと思う。
僕たちは、変えていかないといけない。変わっていかなければならない。
参考文献
岸政彦・石岡丈昇・丸山里美(2016)『質的社会調査の方法——他者の合理性の理解社会学』有斐閣
岸政彦(2018)『はじめての沖縄』新曜社