自治体戦略2040構想研究会 第二次報告「新たな自治体行政の基本的考え方」の内容を大阪の現状に当てはめてみる
自治体戦略2040構想研究会とは、平成29年10月に当時の野田聖子総務大臣が主催した研究会のことです。平成30年6月まで計16回開催され、第一次報告および第二次報告と二度の報告がなされました。
このうち、第二次報告では「新たな自治体行政の基本的考え方」として、以下のように述べられています。
本記事では、この第二次報告の内容を、我田引水を承知の上で、今の大阪の状況に当てはめてみるというものです。
いきなりの結論
自治体のあり方は、人口縮減時代のパラダイムへ転換しなければならない。
つまり、大阪市の人口拡大時代の成功体験は、今後はもはや通用しないということですね。人口縮減時代には、それに合った新しい考え方が必要だということです。
そして、おそらくその考え方とは、従来の政令指定都市としての大阪市の維持・存続ではないのだと思います。
大阪市の古き良き時代
これまでの人口拡大期には、人口増加や都市の拡大に伴い増加する行政課題を、個々の自治体が現場の知恵と多様性によって生み出した新たな政策によってそれぞれ乗り越えてきた。
はい、これがまさに人口拡大期に政令指定都市として大阪市がやってこれた理由ですね。都道府県並みに与えられた財源と権限に基づいた「現場の知恵と多様性によって生み出した新たな政策」が、なんとか功を奏してきたということです。
いわば独立した自治体による個別最適の追求が全体最適をもたらした。
これまでは、都道府県とほぼ同格の政令指定都市として大阪市のことだけに注力していれば、結果的に大阪府全体のためになっていた(少なくとも大阪府トータルとしての損にはならなかった)ということですね。
大阪市個別最適追求至上主義の終焉
しかしながら、人口縮減期を迎え、行政の課題解決手法が成熟し、自治体同士がネットワークで結ばれるようになった今、行政サービスの質や水準に直結しない業務のカスタマイズは却って全体最適の支障となっている。
人口拡大期は、それに伴う右肩上がりの税収増もあって、多少の損が発生しても税収の自然増によって帳消しされていたわけです。ところが人口縮減期になると、何もしなくとも勝手に税収が増える、なんてことは無く、限られた財源しか用意されなくなるわけです。
つまり、無駄な行政サービスや過剰な権限・財源に依存した大阪市独自の業務カスタマイズといった個別最適の追求は、大阪府域の全体最適の観点からもたちまち無視できないデメリットになってしまいます。
今後の自治体は、行政サービスの質や水準に関する自律的な意思決定を行う主体であることを前提としつつ、その機能を存分に発揮するために、標準化された共通基盤を用いて、効率的にサービスを提供する体制を構築することが求められる。
例えば、大阪府全体としての広域行政を扱う自治体として「大阪府」があるのだから、これを広域行政に関する「標準化された共通基盤」とみなして大阪市の権限のうち広域行政部分を大阪府に移管する。
あるいは、人口規模が過大な大阪市を4つの基礎自治体に分割しつつも、大阪市域全体としてのまとまりが必要な部分については一部事務組合や機関等の共同設置という「標準化された共通基盤」に移管する、というような新たな体制を構築することなんかが考えられますね。
いずれにせよ、「標準化された共通基盤」を上手く利用して、自治体として個別最適を追求できる部分についてはできる限り小さくし、全体最適の支障にならないようにすることが重要なポイントになるわけです。
二元行政から大阪府との協調路線へ
人口縮減時代のパラダイムへの転換は、個別自治体における対応にとどまらない。
大阪市という1つの自治体の問題ではなく大阪府との関係性という点においても、人口縮減時代ではこれまでの「大阪市内は大阪市、大阪市外は大阪府」という二元行政的な考え方を変えていかなければならないということですね。
人口の縮減とともに、都市圏が維持できるサービスや施設の全体量も縮減する。
人口減少すればサービスや施設の利用者も減るわけで、当然、それに合わせてサービスや施設そのものも減らしていくことになります。
勘違いしている方も多そうですが、これは行政サービスの低下でも何でもありません。(もちろん利用者数が減っていないのにもかかわらずサービスや施設の数を一方的に減らせば、それは行政サービスの低下だと言えますが・・・)
基本的には人口減少すればサービスや施設の全体量も減少していくはずです。
個々の自治体が短期的な個別最適を追求し、過剰な施設の維持や圏域内での資源の奪い合いを続ければ、縮減する資源を有効に活かせないまま、圏域全体、ひいては我が国全体が衰退のスパイラルに陥る。
大阪府全体として利用者が減っているにも関わらず、大阪市が大阪市のことだけを考えて大阪市の権限・財源に物を言わせてサービスや施設の絶対量に固執してしまうというのは、むしろ大阪府全体の効率化・最適化とは逆行します。
そして、結果的に大阪府全体の非効率化・衰退のスパイラルに落ち込んでしまうだけです。
これからの大阪の仕組みの一例
現在の自治体間連携を超えて中長期的な個別最適と全体最適を両立できる圏域マネジメントの仕組みが必要である。
①大阪府域=事実上の大阪都市圏域を一体的にマネジメントするために、大阪府が全体最適を計画・調整する。
②この大阪府の全体最適にとって支障となってしまう大阪市の政令指定都市としての権限・財源については大阪府に移管する。
③人口規模の観点からも行政サービスの質や水準に関する自律的な意思決定を行う主体にふさわしいように大阪市を4つの特別区に分割する。
④財政調整制度などによって特別区間の格差を平準化することにより、人口縮減時代における資源の奪い合いのような大阪府の全体最適にとっての支障を無くした上で、それぞれの特別区でそれぞれの個別最適を追求できるようにする。
⑤各特別区において共通する部分については「標準化された共通基盤」である一部事務組合や機関等の共同設置を用いて、効率的にサービスを提供する体制を構築する。
自治体戦略2040構想研究会 第二次報告「新たな自治体行政の基本的考え方」を大阪に当てはめてみると、これからの人口縮減時代にはこんな仕組みが必要となるのかもしれませんね。
・・・あれ?この仕組みってどこかで見たような?たしか今年の11月に大阪市の住民投票の対象になるのって・・・
【参考】
本記事は、「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」とともに、以下のサイトの内容も参考にいたしました。
おかげで、フルセット主義の象徴とも言える政令指定都市よりも権限・財源(税目)が少なくなるという、いわゆる「格下げ」が、必ずしも住民の「不利益」にはならないということを、あらためて認識することができました。
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