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特別区設置による「行政コスト増大200億円」の根拠

■行政コストのスケールメリット

今回の大阪市の住民投票で問われている「大阪市廃止・特別区設置」ですが、1つの自治体を4つの自治体に再編するということで、「スケールメリットが失われる!」という主張があります。
「スケールメリットが失われることないので行政コストの増大も0だ!」などと言うつもりは毛頭ありませんが、それでは、一体どれくらい増えるのでしょうか?
ここで、「行政コスト」の定義を「地方交付税制度における基準財政需要額」とします。まあ、この定義にはいろいろ議論があるかと思います。基準財政需要額は所詮は理論値であって実際の行政支出額を反映していない、とか。ただ、ひとまずここではそういう定義とします。
なので、大阪市としての基準財政需要額と4特別区それぞれの基準財政需要額の合算値を比較して、その差額を「行政コスト増大分」ということにします。

■8年前の試算と同額って本当?

自民党大阪市議団は、この「行政コスト増大分」を200億円だと主張しています。

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当初、この数字の根拠はよくわかりませんでした。
法定協議会でも議論されましたが、200億円という結果だけが示され、この数字がどのようにして算出されたのかは、正直よくわかりませんでした。

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その後、2020年10月21日の討論会イベントにおいて、自民党の川嶋市議が、8年前に当時の大阪府市統合本部が第30次地方制度調査会に対して200億円の行政コスト増になる資料を提出したという旨の発言をされました。

この第30次地方制度調査会に提出された資料の元ネタというのは、第6回大阪にふさわしい大都市制度推進協議会会議資料のことなのですが、現行の大阪市24行政区を法人格を持つ24特別自治区(仮称)に再編した場合の行政コスト増大分を200億円と試算したものです。

また、この大阪府市統合本部の試算は、今から10年前の平成22年度大阪市決算の数字がベースになっています。
10年前の決算の数字を使い、かつ、24の自治体に再編する行政コスト増大分が、今回の4特別区に再編する場合の行政コスト増大分とほぼ同額というのは、はたして本当なのでしょうか?

■200億円の内訳

実は、2020年10月21日の討論会イベントでは、200億円の内訳も紹介されていました。

当初、この数字は法定協議会でさんざん議論されていた平成28年度決算ベースの数字だと個人的には考えていて、一部の費目の不足額(すなわち、大阪市の基準財政需要額と特別区としての基準財政需要額の算定との差)にちょっと疑問を感じていました。

ところがその後、自民党の川嶋市議がもう少し詳細な情報を提示したことにより、この不足額の算定ベースが平成30年度の大阪市決算だということがわかりました。

法定協議会では平成28年度の大阪市決算をベースにして議論されていたと思うのですが、なぜここで平成30年度決算を使うのか?いろいろ言いたいことはありますが、まあ、不明だった根拠の一つが明快になったので良しとしましょう。

■不足額の計算が正しいとして・・・

平成30年度の決算(地方交付税算定)を使用していることが分かったので、仮に川嶋市議の不足額算定が正しいとすると、特別区の基準財政需要額(4特別区の合算値)がおおよそ分かります。

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表の行項目は、川嶋市議が不足があるとして挙げた基準財政需要額算定上の費目、「大阪市」列の数値は平成30年度の地方交付税における大阪市の基準財政需要額の内訳、「不足額」列の数値は川嶋市議が挙げた不足額の内訳、「特別区」列の数値は「大阪市」列と「不足額」列から逆算したものです。
「増大率」列の数値は、特別区の数値が大阪市の数値からどれだけ増えたかを表します。
これを見ると、全体としては増加するのは5%程度ということが分かります。「200億円」と聞くとちょっとビックリしますが、そもそも表に挙がっている基準財政需要額の費目の全体で約4500億円ほどありますので、割合で言えば5%程度ということになります。
あと、当初気にしていた「地域の元気創造事業費」についてですが、さすがに大阪市の倍以上ということではありませんでしたが、それでも約1.8倍になっています。やっぱりもやもやします。

■補正係数のややこしさ

ひとまず、不足額算定が正しいという仮定でお話ししましたが、正直、やっぱり腑に落ちません。
一応、川嶋市議は「包括算定経費(人口分)」についてのみ、計算過程を提示しています。大阪市人口を単純に4で割った数を特別区の人口としていたり、計算過程で登場するいくつかの数値についてはちゃんと確認できていません(※)が、まあ、大きな問題があるような計算では無いように思います。

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(※)例えば、上記の(イ)に出てくる係数は、「普通交付税に関する省令」の別表第一にある「(5) 個別算定経費以外のもののうち市町村分」の数値のことなんだろうなあ、とは想像がつきます。ただ、省令改正があったようで、現時点と平成30年度時点でどうも数値が違うようです。省令改正の履歴をご存じの方がいらっしゃれば、是非ともご教示ください。時間があれば、こちらでも調べますが・・・

ただ、実は、「包括算定経費(人口分)」の計算は一番シンプルで楽なんですよね。なぜなら補正係数が「段階補正」しかないから。
先の表の一番右の列に「使用される補正係数」を書いています。これについては、地方交付税法第13条第5項に規定されています。
これを見ると、「包括算定経費(人口分)」以外の費目は、すべて複数の補正係数を使うことになっています。で、複数の補正係数を使う場合は、地方交付税法第13条第7項で次にように規定されています。

段階補正、密度補正、態容補正及び寒冷補正のうち二以上を併せて行う場合には、測定単位の数値に係る補正係数は、二以上の事由を通じて一の率を定め、又は各事由ごとに算定した率(二以上の事由を通じて定めた率を用いて算定した率を含む。)を総務省令で定めるところにより連乗し、又は加算して得た率によるものとする。

上の条文を一読して、計算式がパッと思いつく方はいらっしゃいますか?実はそれくらい、急に算定式が複雑になります。
別の視点からも見てみます。「地域の元気創造事業費」と「人口減少等特別対策事業費」については、地方交付税法第13条第5項や第7項とは別に規定があります。

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さて、「地域の元気創造事業費」と「人口減少等特別対策事業費」のいずれにも、補正係数として「経常態容補正Ⅰ」と「経常態容補正Ⅱ」があるのですが、係数の具体的な値がパッと頭に思い浮かぶ人はいますでしょうか?
補正係数が段階補正しかない「包括算定経費(人口分)」はともかく、相当に複雑な計算をしないと、その他の基準財政需要額は算定できないはずなのです。

■最後に

川嶋市議は、この基準財政需要額算定のややこしさについて、

「この数字は大阪市財政局でしか作成できません。だからこそ私は自信を持って示すことができないのです。」

とおっしゃっています。しかしながら、実際には独自試算とはいえ201億5100万円という具体的な数字をはじいていらっしゃるわけで、「包括算定経費(人口分)」と同様に他の費目についても、計算過程や使用した係数の根拠を示していただければなあと思います。
8年前に当時の大阪府市統合本部が200億円という行政コスト増大を公表していたとして、この200億円をそのまま今回の行政コスト増大の最終ターゲットとして鉛筆なめなめしたわけではなく、独自で計算した結果たまたま似たような金額になったのだ、ということを示すためにも、どうぞよろしくお願いいたします。

#だから私は大阪都構想 #今までお疲れさま大阪市

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