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ペットxスタートアップ海外事例 会員制テック動物病院「Small Door スモールドア」

アメリカでは動物病院の革新も進んでいます。オンライン相談/診療というデジタルに特化したプレイヤーも数多く出てきていますが、一方で物理的な動物病院を展開するスタートアップの登場によって、それまで当たり前のように不便だった顧客体験が次々にアップデイトされている状況です。

そこで今回は「Small Door スモールドア」社を紹介します。注目に値する動物病院系スタートアップはいくつかありますが、Small Doorの特徴は以下が中心です。
・ニューヨークを中心とする東海岸系
・サブスク型の有料会員制
・テクノロジーによるなめらかな顧客体験
・「B Corp」認証された法人で獣医師の働き方改革にも積極的

それでは見ていきましょう。

Small Door 会社概要

・会社名 : Small Door, Inc.
・本社 :  ニューヨーク(アメリカ)
・設立年  : 2018年
・創業者 : Florent Peyre、Josh Guttman
・調達状況 : Series B
・調達合計 : $63.5M
・投資家 : Primary Venture Partners、Lerer Hippeau、他

crunchbase

創業者

2人による共同創業。
・Florent(現President)はExit経験のある連続起業家。
・Josh(現CEO)は投資銀行、PE、また、Softbank Capitalでパートナーも務めたFinance Backgroundもあり、且つ、スタートアップのCEO経験も。

拠点

Small Doorはニューヨークが本拠地。なぜ拠点に触れるかというとアメリカにおける動物病院系スタートアップはロケーションごとによって異なるプレイヤーが存在するため。東海岸系のSmall Door、西海岸系のModern Animal、東南部系のPetfolkなど。新たな動物病院モデルであるためマーケットとのフィットを検証すべく小さく始めて大きく広げようとすると、そうなりますね。

現在展開する動物病院と立地

現在はニューヨーク内の以下の立地に5つの動物病院を展開。
・West Village
・Upper West Side
・Gramercy
・Upper East Side
・Williamsburg
外観はそれぞれ以下の通り。皆さんはどういう印象を持つでしょうか。

West Village
Upper West Side
Gramercy
Upper East Side
Williamsburg

資金調達進捗

crunchbaseによると以下。直近は2022年12月に$40Mの大型調達を実施。資金使途は新規出店。報道によると次はボストンおよびワシントンDC近郊に進出。新たに5店舗を出店する計画。
・2022​/12​:Series B ($40M)
・2021/4​:Series A ($20M)
・2020/9​:​Seed
・2019/4​:Seed

有料メンバーシッププランの中身

現在のプラン

現在は年間$169のプラン一択の様子。というのは以前は以下のように犬猫別に松竹梅の各3種類のプランが用意されている時期もあったため。ちなみに競合のModern Animalは年間$129のプランです。

無制限に顧客数を増やすことは考えておらず、会員数にはキャップが設けられています。過去にはタイミングによってはwaiting listに入って入会の順番待ちという状況も見られました。

過去にあった3種類のプラン

有料会員として支払ったプランに含まれる内容は、
・年1回の健康診断
・24時間365日いつでも獣医師や看護師が対応するTelehealth(アプリを通じてチャットや必要に応じてビデオ通話でコミュニケーションを取ることができる)
・同日内の予約にも対応

Telehealthや予約を行うモバイルアプリのUIは以下な感じです。

mobile app

獣医療に関してフルサービスを提供していますが、治療費は会員費には含まれず別料金です。

サービスメニュー

料金は主なサービスに関しては以下のようにウェブ上で開示されています。動物病院も人向けの病院も事前に診療費がわからないので会計まで不安になりますよね。料金の透明性も当たり前に確保される社会になってほしいものです。

価格表

洗練されたクリニック

クリニック内も洗練された印象があります。下記のLinkedInでのポストをみると、内装はAnimal Behavioristによる監修。動物行動学の専門家ですね。カスタマー・エクスペリエンス(CX)ならぬ、動物病院でのペット・エクスペリエンス(PX)を最適化しようということですね。

B Corpとして企業統治を行う

Seed期のリードインベスターPrimary Venture PartnersのMediumでも紹介されていますが、Small Doorは現在「B Corporation」という企業形態です。

SDGsやサーキュラーエコノミーのトレンドを受けて、B Corporation(よくB Corpと略される)という法人形態を聞いたことがある人も多いと思います。ここで詳細の説明は省きますが、B Corporation(B Corp)とは、アメリカの非営利団体「B Lab」によって認証された営利企業を指し、公に認められている法人形態です。簡単に言うと、Bottome Line(株主の利益)とSocial Good(社会的責任)を真に追求していく企業をシグナリングするもので、それらにそった企業統治を行うことが求められます。著名な企業だとパタゴニアもB Corpの一社、というとイメージしやすいでしょうか。日本企業でも数社あったはず。

現在のSmall Doorのアセスメントも公開されているので興味のある方はこちらから。情報開示は各種コストが発生するので非上場でこういった通信簿が公開されるプロセスにはそれなりに社内コストも発生しているはず。資金が潤沢にあるわけではない状況下で取り組む背景にはそれなりの想いがあるはず(それは以下で説明します)。以下は評価項目「Workers」に関しての評価が示されていますが、合計で5つの観点で評価されます。Governance、Workers、Community、Environment、Customersの5つです。Small Doorの合計評点は80です。Median Score/中央値が50.9とあるので良い感じと言えるでしょう。いまなぜ「Workers」に触れたかというと、理由は以下に続けます。

Small DoorのB Corpアセスメント

アメリカにおける獣医師の過酷な現実

TEDxTalksでアメリカの女性獣医師Melanie氏によるプレゼンテーション。アメリカにおける動物医療産業における事実として、驚くデータが紹介されています。お時間ある方は是非動画をご確認ください。

アメリカで自殺者が多い職業、1位が警察で、2位が獣医師だそうです。昨今はペット数も急増して獣医師の供給が追いついていない中でバーンアウトする獣医師も増えていると報道で見聞きします。

・毎年の獣医師のAttrition Rate(減少率)は▲4.73%(ミスリードにならないようにベビーブーマーの大量退職の影響にも言及しています)
・2010年以降に亡くなった獣医師の死亡理由の10%は自殺
・彼女が2016年に卒業して以降、自殺した獣医師同級生の数は既に3人
・自殺者が多い職業、獣医師は2位(1位は警察)

Small Doorにとっての「workers」、その柱は獣医師。したがって、獣医師にとってのQuality of Working Lifeを向上させていくことがSmall Doorのミッションの一つでもあり、その問題に取り組んでいこうとする姿勢を垣間見ることができます。

Small Doorは志が高く、個人的にとても好きなスタートアップです。
今後も要注目です。

という感じで今日は以上です。


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