世界のペット市場 データ/ファクト/トレンド3/4(獣医療ケア)
「Global State of Pet Care」を出典として現在の世界のペット市場のデータやトレンドがどうなっているかを見ていくシリーズ第3回目。第1回目、第2回目はこちら。ベルギーに拠点を置くHealth for Animalsが発行したレポートです。
ペットの医療ケア グローバルトレンド要点
・獣医師へのアクセシビリティは市場によって大きく異なる
米国では10万人以上の獣医師が活躍しているが、途上国では数百人しかケースもある。
・先進国では、ほとんどの獣医師は小動物に従事している
しかし発展途上国では家畜が中心であり、適切なペットケアのための専門知識が不足している。
・獣医師が診る症例数は増加し、獣医師の健康への負担は増大している
燃え尽き症候群/バーンアウトとストレスは獣医師業界全体で増加傾向。
・世界の75%の獣医師会が医薬品へのアクセスに問題があると指摘
医薬品へのアクセスにしづらい状況が、患者のニーズに応え、質の高いサービスを提供することを妨げている。
・ワクチン接種することへの飼い主の中でためらいが存在する
顕著な普及を示唆する証拠もありますが、さらなる調査が必要。
・遠隔診療の利用が増加している
パンデミックを経て動物病院でのオンライン遠隔診療が増加しており60%以上の飼い主がオンライン診療にお金を払うことを望んでいる。
獣医師へのアクセス
主要国における獣医師の数、犬1000頭単位当たりの獣医師数
獣医師数は不足しているのか
・結論はYES。獣医師は不足している。小動物を診る獣医師の数は増加している一方で、養子縁組される/里親が迎えるペットの記録的な増加に獣医師数が追いついていないのが現状。
・MARS社の調査によると、米国では2030年にペットケアのニーズを満たすために41,000人の獣医師が必要になるが、この数に対して15,000人不足するペースになっている。
・英国獣医師会は、Brexitの影響で英国に来て働くことを登録する獣医師が68%減少し、英国では「獣医師の労働力の危機」が起きていると報告している。
・オーストラリア獣医師会は、「パンデミックによる子犬ブーム」の影響で不足する獣医師の数が「緊急に必要」であると述べている。
・ペットの数が急増している結果、獣医師の症例数は急速に増加している。
獣医師不足は獣医師の精神的且つ肉体的な幸せにどう影響するか
・ペットの増加に対応できない獣医師の労働力は、結局のところ、個々の獣医師とそのサポートスタッフに大きな負担を強いることになる
・獣医師1人あたりが診る動物の数は多くなる一方で、1回の診察時間が短くなる可能性があるなど、顧客との関係や個人の精神衛生に影響を与える可能性がある
・パンデミックでペットブームが起きた2020年から2021年にかけて、獣医師における過労、燃え尽き症候群の割合が大幅に増加した
・獣医師の間でストレスレベルが上昇しており、自ら死を選ぶ割合が一般人口よりも高いレベルで生じている
・英国王立獣医外科学会は、獣医外科医の大半が個人的な幸福と職業上の役割の間に葛藤があることを報告していることを明らかにした。
・パンデミック以前では英国の獣医師の48%が「キャリアをもう一度やり直せるなら、それでも獣医の職業を選ぶだろう」と王立獣医外科大学に回答。 この問題はそれ以来拡大しており、この問題に取り組むことは、獣医師とその患者の長期的健康にとって極めて重要である。
・ストレス尺度がパンデミック前には36%だったが急増して64%になった。その後に続くのは、仕事の満足度の低下と離職。これは特に若い獣医師や女性の獣医師に影響を与えるという。
医薬品へのアクセス
・先進国でも途上国でも、医薬品へのアクセスを妨げているいくつかの制約がある
・世界小動物獣医師会(WSAVA)が実施した調査では、調査対象となった獣医師会の75%が、動物用医薬品へのアクセスが不十分であることが患者のニーズを満たし質の高いサービスを提供する能力を妨げていると回答
・医薬品へのアクセスが十分でない主な理由としては、国の規制環境や、また市場規模が小さく市場の関心が低く製品コストが高くなるといったメーカー関連の問題などが挙げられている
・飼い主の25%は、2020年にパンデミックによってペットに必要な医薬品を入手することが難しくなったと回答。多くの国が動物医療サービスの継続を支援する努力を行っているにもかかわらず。
・世界でおこなった飼い主への調査によると13%のペットが必要不可欠な定期治療を受けられなかった。
・パンデミックによるペットブームは、獣医師不足と治療へのアクセスに新たな問題を生み出している。
飼い主の中でワクチン接種への躊躇があるのか
・パンデミック以前から飼い主の間ではワクチン接種をためらう傾向があり、ペットの健康増進の妨げになっていた。
・英国では、予防接種によってさまざまな病気を予防できるにもかかわらず、約25%の飼い主が、自分の犬は幼少期に一次予防接種を受けていないと回答。
・米国やオーストラリアなどの先進国の獣医師は、パンデミック以前に、ワクチン躊躇や反ワクチン意識から、飼い主によるペットへのワクチン拒否が増加したとの逸話を報告している。
・米国とカナダの獣医師を対象とした調査では、人間のワクチン接種をためらう動きに連動して、狂犬病やコアワクチン接種を辞退する飼い主が増加したと回答。
・パンデミック以降、飼い主の間でワクチン接種をためらう傾向が強まっているかどうかを評価するためには、より信頼性の高い体系的なデータが不可欠であるのも事実。
獣医療におけるイノベーション
・ペットのヘルスケアにおける新たなイノベーションは、ペットの健康や福祉、生活をさらに向上させる可能性があることを浮き彫りにしている
・これらのイノベーションは、新しいワクチン、診断や治療法から、より手頃な価格で便利かつ正確な新しいサービスや製品に至るまで、多岐にわたる
獣医療において期待されるイノベーション事例
・英国における血統書付きの犬の死亡原因の25%以上を占める癌に対する遺伝子治療。
・ワクチンやモノクローナル抗体など、抗生物質の必要性を減らすためのツール。
・スマートカラーやトラッキングシステムなどのウェアラブル端末を含む革新的なペットテクノロジー。これらの市場は2027年までに約200億ドルの市場規模になると予測されている
・イノベーションの鍵となるペットフードやケア用品。この市場は世界中で成長を続けている。ヨーロッパでは、この市場は年間 220 億ユーロと推定され、ペット用健康製品はさらに 21 億ユーロと評価され、この業界は合計で約30 万人を雇用している。
遠隔診療利用は増加しているのか
・パンデミックを経て、遠隔診療を提供する動物病院が増えた。
・2020年秋に実施されたHealthforAnimalsの調査では、飼い主の47%が、かかりつけの獣医師がデジタル/遠隔診察を行っていると回答し、パンデミック前の20%から上昇したことが明らかになった
・HealthforAnimalsの調査では、遠隔診療の診察を受けた飼い主の75%が「満足」または「非常に満足」と回答していることが判明した
・Journal of American Veterinary Medical Associationに掲載された調査でも、パンデミック時に「遠隔医療が大幅に増加」したことが確認されている
遠隔診療のハードルは?
・ペットの飼い主の60%が遠隔医療サービスによる獣医師のアドバイスや相談にお金を払ってもいいと考えていることが分かっているにもかかわらず、遠隔医療の利用が後退するとの見方が多い。
・主な課題の1つは、遠隔医療プラットフォームを通じて獣医療を提供する際の規制や法的不確実性が解決されていないこと。
・ブラジルでは、獣医遠隔医療を法制化する法案の草案が2020年に棚上げされた。
・米国の獣医師調査では、遠隔医療をめぐり法的問題に関する懸念を報告した回答者がおり、規制上の問題に関して議論が続いている。
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