心機一転の場所とは・・・・
モニターには30歳を過ぎた位の薄い口ひげを蓄えた青年を映っていた。
元来良く似た顔をしている、インド・中近東系の顔だった。
向こうが、中・韓・日本国の人間の顔をしっかり見分けられないのと同等
モニターに映し出されている顔から、自分の記憶の糸を手繰り寄せることが出来なかった。
抑揚が激しく、発音に関してアクセントの癖は強いお世辞にも上手な部類の英語ではないのだが、
喰らいついた獲物は絶対に離さない・・ そんなしぶとさを感じさせる英語で熱を込めて
彼はオファー内容~プランの説明、俺の役割などを小一時間に渡り話し続けた。
余りにも自分の理解を超えたオファー内容に「多分、後から出資を出してくれ・・」の類だろうと
この時点では思い、「本気で進めたいのなら、ビザ~渡航費等の 調整に入ってくれれば何時でもいいぜ」と、
伝え回線を落とした。
「変わった野郎だなぁ」と、
長いビデオチャットを終え背もたれで、背伸びをしながら大きく息を吐いた。
彼の語った案件は、ザックリだが 西アフリカ・ガーナ共和国・ブルキナファソ共和国国境近くの
プライベート金鉱(個人所有)の現場管理と、ドバイ経由西インド・チェンナイへの金の運び出しだった。
「密輸の片棒か?まぁ、青年事業家なんてのは何処の国でも壮大な夢を持って追いかけていくものだ。
映画の見すぎのような、出来すぎた話だな 。そんな馬鹿な話はどうせ立ち消えするだけだ。」
俺は既に夕暮れを迎えだした事務所から、街を見下ろし呟いていた・・。
けれど、数日を経て打ち合わせ時に渡しておいた口座に渡航支度金が振り込まれ
ビザ取得用の書類、約3週間後発の南インド行きチケットも送られていた。
壮大な法螺話と高を括っていた俺は、驚く以上に慌てざる得なかった。
会話の内容を思い返し、長期間日本を離れる事は確実だったので
会社は一気に清算~住居の引き払い、それに伴う家財道具等の売却等
「未知なる躍動」を感じていたのか?
それまで燻っていた自分では 考えられない手際で、諸事片付けを済ませていった。
事業関連者が興味本位での開いてくれた壮行会では
取り掛かる案件は長期間の市場調査とぼかして置いた。
日本と言うシステム内での事業に携わっている経営者達に
理解されうる内容でもない事は分かっているし当の本人でさえ、
勢いで承諾したものの確信すらないのだから・・・
ただ、おぼろげに「事業敗者復活」には、日本のシステムは厳しい国である事だけは
日々経営が悪化していく最中の経営者の口々から漏れていたし
それを聞くにつれ、自分が何故このオファーを受けたのか?・・・だけは理解に達していた。