「WHY.inc」始動カウントダウン
「MR・山竹お待ちしていました。」
山竹を空港に迎えに来ていたのは、シンガポール事務所のセッティングを終えてドバイ入りしていたサラバナンだった。
「初めまして、山竹です。サラバナンさん日本人に呼び止められたかと思いました。」
大音量のアザーンが響き渡る空港フロア前で、自分は、インド系青年に日本語で呼び止められ、驚いていた。
「サラバナンさん。自分はある程度英語話せますので、英語で構いませんよ」
ホテルまで送迎するように、進道に指示を受けてきた、と自分のスーツケースを車のトランクに乗せ終えたこの男に言った。
彼はにこやかに「YES、Sir」と答え自分を乗せドバイ川沿いに車を走らせ出した。
「私は、日本語を話す機会が今の所とても少ないので、山竹さんさえ良ければ日本語で会話させ貰っても宜しいでしょうか?ご迷惑でなければ、アクセントや語彙の使い方など訂正してもらいたいので。」
インド系の顔つきを見なければ、外国人が日本語を話しているとは気付かないレベルだった。
人を見かけて判断してはいけない・・。異国に地に自分の今まで培ってきた観念を持ち込む事はやめた方が良い。そう思わされたサラバナンだった。
「勉強熱心なんですね。全く問題ない・・と言うより、見た目がインド系だったので英語だろうと勝手に思い込んでいた自分が、恥かしくなってしまうレベルの日本語です。」
そんな会話でお互い初対面の緊張がほぐれだした頃、車はあっという間にドバイクリーク・ヒルトンに到着した。
「15:00に又僕が迎えに上がりますので、シャワーでさっぱりして長旅の疲れをほぐしていて下さい。」
てきぱきとチェックインの段取りを終えたサラバナンは笑顔でそう言って、ホテルを後にしていった。
「参ったなぁ。長旅の疲れをほぐしてくれ・・・かぁ」
日本語を話せる外国人に会った事が無いわけではないが、彼の使う語彙は日常日本語会話は、ほぼ網羅されているのではないだろうか?。
ボーイに案内された部屋は、多くの船が接岸されている川を見下ろす上階の角部屋だった。中東系の顔つきではない事に興味を持った自分は、その青年からドバイにはフィリピンのエージェントから派遣され来ている事やこのエリアのスーパーやホテル、病院から家政婦に至るまで、多くの同胞が出稼ぎに来ている事を説明してくれた。
人生初の中東で、「完璧な日本語を話すインド人」とどちらかと言うと世代的には「夜の商売を連想させられるフィリピン人」に矢継ぎ早に遭遇した。
キラキラ光り輝くドバイ川をバルコニーで見下ろしながら、自分が詰め込んできた、一般論や常識と言われている固定観念は多分この先邪魔になってくるだろう・・。
そう、ぼんやり考えていた。