「WHY.inc」始動カウントダウン
スーツケースには、数日分の着替えを入れ終え、迎えのタクシーで空港に向かうのみになった。
まだ採用が確定すらしていない自分に、3ヶ月FIXのビジネスクラス航空券が送られてきていた。
一体「East Sun」社はどんな資本力を持った会社なのだろうか?。
久しぶりの海外なのだが、思っていたよりあっけなく自分はシンガポールに向かう機上の人となっていた。
ここ10数年間、トラックでの集配を含め地べたを這い回るように煩雑な日々を過ごしてきた自分が、フラットシートでスパークリングワインをこうして飲んでいる奇妙な現実。
しかし気持ち的にまるで日常の延長みたいなリラックスした状態で居る事に、気鬱と向かい合っていた、もう一人の自分が驚いていた位だった。
初めて訪れる大型ハブ空港、ラウンジにたどり着くまでに迷う位のサイズにたじろったが、この知らない場所を歩き回る、不安と好奇心がタペストリーのように交互に重なっていく感覚が懐かしく感じさせられた。
重厚なソファーが併設されているラウンジバーに腰を降ろし、スコッチソーダーをダブルでゆっくり楽しみながら「さぁ、いよいよドバイだ。」
多くのビジネスマンが行きかうフロアを見つめると無く見つめながら深夜発のドバイ行きの搭乗を待っていた自分だった。
名古屋からシンガポールに搭乗してきた人種とは随分違う人種の乗客をのせたEK機は順調に、自分を乗せドバイへとその後離陸した。
「あの解雇から、5ヶ月・・・・」
快適なフルフラットシートで眠りに落ちる前に、一人呟いた事により、久しぶりに会社時代の夢を見ている内、機体はドバイ空港に着陸していった。