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【映画の中の詩】『嵐の青春』(1941)

「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」

監督は『チップス先生さようなら』(1939)、『恋愛手帖』(1940)等のサム・ウッド。

ドレイクは事故にあった際に個人的な恨みを持つ医師によって必要もない両足切断の手術をされてしまいます。
友人パリスはその事実を告げる前に英国の詩人ウィリアム・E・ヘンリー(1849年8月23日 - 1903年7月11日)の『インビクタス(敗れざる者)』という詩の一節を引用します。

「インビクタス」ウィリアム・E・ヘンリー(矢野峰人 訳)

極から極へと地獄の如くまつ黑に
私を蔽うて居る暗夜の中から、
神よ、私はあなたが如何ならんものにもあれ、
このわれに不屈不撓の精神を賜はつた事を感謝する

境遇の残忍な把握の中にあつても、
私は身じろぎもせずまた聲高く叫びもしなかつた。
運命の打撃の下(もと)に私の頭(こうべ)は血に染んだが、
然し屈しはしなかった。

憤怒と悲哀との現世のかなたには
死の影の恐ろしさがぼんやりと浮ぶ。
而も幾歳月の脅威と雖も
私を怖れしめなかつたし、また今後と雖も然らしめん。
天國に入るの扉が如何に窄(せま)くとも、
また閻魔の帳が如何に懲罰に滿ちて居ようとも何かあらん。

われはわが運命の主(あるじ)にして
われはわが靈の支配者なれば。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1171225/1/108

この詩の作者ウィリアム・E・ヘンリーは骨結核で左脚の膝下を切断しています。
友人だったロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『宝島』の片足の海賊ジョン・シルバーはヘンリーをモデルにしています。

ヘンリーの弟ジョセフは、関節の排膿後、幼いヘンリーが「部屋の中を飛び跳ね、大声で笑い、痛みが及ばないふりをして楽しく遊んでいた」ことを回想している。
宝島(1883年)出版後のヘンリー宛の手紙で、スティーブンソンは「告白します。あなたの不具の力強さと卓越した技量を見て、ロング・ジョン・シルバーが生まれたのです。不具の男が支配者となり、音で恐れられるという考えは、あなたから完全に取り除かれました」と書いている。

William Ernest Henley - ウィキペディア


詩人のこのようなエピソードも映画にインスピレーションを与えたのでしょうか。

クリント・イーストウッド監督『インビクタス/負けざる者たち』(2009)のテーマとしても作中でくりかえし引用される詩となっています。

テーマ曲はエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト。ジョン・ウィリアムズに影響を与え『スターウォーズ』の元ネタと言われています。前にレヴューした『真夏の夜の夢』 (1935年)の編曲等も担当しています。

参考リンク
「負けじ魂」(ヘンレイ)『人生詩集』帆足理一郎 編
「Invictus」『近代英詩評釈』矢野峰人 著
打ち勝たれぬ心」『現代英米詩選』浦瀬白雨 訳
映画『インビクタス/負けざる者たち』 (Wikipedia)


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