【コラム】現役診療放射線技師が語る休日・夜間勤務のお話~後編~【私の放射線部...黒すぎ!?】
さて、後編のこちらが本番ですよ。特にこちらは「現役放射線技師」の皆様向けです。これから就職を控える学生さんたちは、心を強く持って読んでください。
前編はこちら。
【※注意】それなりに調べながら書くようにしますが、専門家の監修を受けていませんので、万が一法律と合わない表現があった場合はぜひご指摘ください。読者の皆様はその前提で、軽い気持ちでお読みください。
1.「オンコール」の闇
夜勤と当直(宿直)の話が主軸でしたが、ここで「完全オンコール体制」の施設のパターンも触れておきます。完全オンコール体制とは、基本的に夜間は救急車は来ず、入院患者がまれに院内で転倒などをして翌朝までは画像検査を待てないために、事務当直の人が医師に依頼されて当番の放射線技師を呼び出す仕組みです。「定時終わってまで病院に居たくねぇよ!」という方にはオススメの勤務形態に見えますね。
さて、上記のような施設の場合、そこに雇われている診療放射線技師の人数は何人でしょうか?30人であれば、月に1回のオンコール当番でいいですね。あり得ません。ラジエーションハウスですら7人です(ドラマ版2期では8人)。ラジエーションハウスの甘春総合病院では”泊まり”(敢えて宿直とも夜勤とも書きません)の施設でした。
私の知見では、「完全オンコール」の施設で10人以上の放射線技師が勤務しているところは存じません。私の後輩が務めていた施設では技師5人でオンコールを回していました。1か月は30日です。つまりはそういうことです。
上記は看護師の例ですが、概ね放射線技師にも当てはまると思います。
1か月のうち約1週間、汗を流す際も携帯電話を浴室に持ち込み、電話が鳴ったら必ず対応しなければならない緊張感を持ち続け、飲酒は不可。多くの場合は「連絡から30分以内に職場にかけつけられること」と定めている施設もあります。「日ごろはそんなことは求められないのに、オンコールの日は30分以内に到着しなければならない」これがどういう意味かわかりますでしょうか?すなわち、①病院の近くに住む、か②30分以内に着けない場所に住んでいる(実家など)場合はオンコールの日は病院に泊まるしかない、ということです。
上記の看護師の例では「オンコール手当として1回1000~3000円が支給」とあります。これは何も呼び出しが無くても支払われる手当で、呼び出しに応じて業務を行った時間は別途割増賃金が支払われます。しかし現行の労働基準法にはオンコールの扱いについての明確な規定はありません。一般に「労働時間とみなされない」ことから、賃金の支払いについての法的な規定もありません(参考リンク)。実情では良くて1000円/日、オンコール手当は無くて呼び出しがあった場合の割り増し賃金のみ(これは法規定)という施設も多いでしょう。数千円で、月のうち1週間ものあいださまざまな自由の制限があるということになります。
余談ですが、夜勤にしろ宿直にしろ、勤務者が対応できないような業務が発生した場合にもオンコール対応となる場合があります。例えば1人勤務の場合、数時間も続くような血管撮影に就いてしまうと他の業務に支障をきたすので血管撮影担当の技師を別途呼び出す、というようにです。この場合の「オンコール当番」にも手当がつかない場合が大半でしょう。
2.当直(宿直)の闇
これに関しては、完全に「医師の宿直問題」をミニ化したものと思っていただいて構わないと思います。
宿直体制をとっている施設のなかには「ほとんど労働をする必要のない勤務」であるはずなのに、なぜか「当直中に突発的に本来業務に従事」することが連続してしまう施設が存在します。2次救急指定病院であり24時間救急車が来ることが想定されていますが「毎晩ずっと救急車がひっきりなしに来てるわけでも無い」ので、宿直体制をとるわけです。労働基準法上は当直なので、翌日の振替休日を与える義務は事業者にはありません。
「えっ?まぁまぁ忙しい当直って...それじゃぁ次の日の勤務つらくない?」と学生さんは思うでしょう。大丈夫です。きっとあなたの上司はこう言ってくれます。
「昨日の当直忙しかったみたいだから、有給休暇使って今日は帰って休んでいいよ。」
なんて優しい上司なのでしょう。宿直システムを採用している病院では放射線技師の雇用数は日勤ベースでギリギリなはずです。当直明けに日勤を続けず、帰って休むということは他の日勤技師に負担が寄るはずですが、そこは助け合いの精神。でも有給休暇って年20日しか与えられませんし、日勤の検査予定がキツキツであれば、上司は毎日このように言ってくれるとは限りませんね。
全然関係ありませんが、2019年に厚生労働省が発表した就労条件総合調査では、2018年の有給休暇(有休)取得率は52.4%、取得した日数は9.4日であったそうです(参考リンク)。有給休暇取得率が高いって、ホワイトな職場ですね!!
3.夜勤の闇
ここまで考えると、「あ、じゃぁやっぱ夜勤システムの施設の方がいいわ。お金稼げないけど、働いた後休めるし。」となりそうです。個人的には夜勤の施設の方が好みなのですが、こちらにも実は問題があります。この問題と言うのは勤務者のものというよりは「勤務管理側」の問題と言えるでしょう。
夜勤の場合、救急センターや入院病棟から撮影の依頼電話が高頻度でかかってきます。ときには同時多発的に撮影依頼が発生し、優先順位を各方面と密に連絡を取り合い一人で仕事をこなすことになります。なので電話(PHS)を常に肌身離さず持っていなければなりません。当然、日勤のようにずっと撮影を続けているわけではありませんので、撮影が無い時間は実質休める、ということにはなりますが
この「電話(PHS)を常に肌身離さず持っていなければなりません」という状態は「手待ち時間」と呼ばれ、休憩時間ではありません。
前編でも言いましたが、労働時間が8時間を超える場合は最低でも1時間以上「休憩時間」を与える義務があります。「休憩時間」というのは「完全に業務から解放される時間」であり、イメージとしては丸の内のOLがオフィスを出て近くのレストランにランチに行くレベルの休憩時間です。
「え?ウチの病院、昼の休憩時間も外来からCTの予約の電話が鳴るから、新人はCT室で電話番しながら弁当食べろって言われてるんだけど。。。」
はい。これも労働基準法違反です。
夜勤の話に戻すと、つまり「1人夜勤では、現実問題としてPHSを離すことは不可能なので休憩時間を確保することが不可能である(労働基準法違反)」ということです。
ここで私が(当時)考えた、ブラックをグレーにする方策を列挙しますので、どなたかコメントお願いします。
①日勤帯に「2時間早く来る早番」か「2時間遅く来る遅番」を作り、その時間夜勤者と勤務を代わり休憩させる(ただし休憩時間は「勤務の始まりや終わりにくっつけてはいけない」という決まりがある)
②職員の安全を守る観点から「休憩時間に外出を禁ずること」は問題ないようである(参考リンク)。特に夜間の場合は外出は危険がいっぱい。なんなら院内にも不審者は多いので救急センターの横に休憩場所を指定して、PHSは救急部の看護師に預けて、鳴ったら直で呼びに来てもらおう(パチンコ屋換金所方式)。
ちなみに診療放射線技師は「保健衛生業」に含まれるため「休憩時間の一斉付与の原則(決まった時間にみんなで同時に休憩する)」から例外が認められており、1時間の休憩でも30分×2となったり、いつもと同じ時間に休憩できなかったということは問題となりません(参考リンク)。
4.結局「2人夜勤」しか解決策はない
最後に当院の過去と現状をお話しします。当院では数年前まで「1人遅番(昼出勤~22時まで)」+「1人夜勤(17時出勤~翌朝まで)」(ちなみに土日は夜勤1人のみ)というシステムでしたが、この17時~22時までの間に十分に休憩がとれない(そもそも夜勤で最初に規定時間休憩してその後ノンストップって前提もどうなのよ)ことが問題として指摘されていました(他にも色々あったのですが。。。)
従来から2人夜勤を求めるも、日勤帯の技師が減ること(特に土日を2人夜勤にすると振替で人がメッチャ居なくなる)で実現されてきませんでした。しかしこの新型コロナの影響で、夜間にコロナ対応が必要になった場合に「いやいや。1人でポジショニングも撮影もって無理でしょ」となり、急遽2人夜勤が実現しました。2人夜勤であれば、建前上(重要!)「もう一方の勤務者にPHSを預けて、1人の夜勤者を1時間ないし90分休ませることが可能」になります。あくまでも建前上ですけどね。でも建前上寝れないはずの夜勤なのに「今日はよく寝れる夜勤だった」とかツイートしちゃうと病棟とかの夜勤看護師さんに怒られちゃうぞ。
しかし業界雑誌などで他施設のコロナ対応を見ていると「CT撮影室内にワイヤレスマウスと複製ディスプレイを増設することで、フルPPEでもポジショニングから撮影までを実現!!」みたいな記事を見たことがあるので、恵まれているのだなぁと思います。
医師の働き方改革に関しては言わずもがなですが、その陰にも看護師やコメディカルの働き方にも改革されなければならない点も多々あります。前回の記事でも少し書きましたが、「頼れる上司」「尊敬できる先輩」というのは、ただ優しいだけでなく本当の意味で「下を守る」、それは後輩に法律違反をさせないために声をあげる、あるいは声をあげた後輩を支持するスタンスを示す、そういった態度だと思っています。
そんな私は救急撮影とか大ッッッ嫌いなので、今すぐにでも夜勤を抜けたいです。おやすみなさい。