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副業推進がこの先の労働市場にもたらすインパクト
※本記事は2024/11/15に株式会社パーソル総合研究所サイト内で公開された内容を再編集したものとなります。
副業が解禁された2018年以降、日本では副業推進の動きが活発化している。労働力不足の深刻化により、従来の一社専属の働き方から、個人が複数の仕事を掛け持ちするような働き方が浸透し始めたこともあり、副業推進における企業の関心も年々高まり続けている印象だ。今後はより一層深刻な労働力不足が見込まれるが、副業は今後の労働市場にどのような影響をもたらすのだろうか。本コラムでは、パーソル総合研究所がこれまでに実施した調査を紹介しながら、上記の問いに関して考察していきたい。
副業希望者が、2022年よりも2倍以上多くなる未来
副業推進が労働市場に与える影響について、関連するデータを順々に見ていこう。パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2035」では、2035年時点で副業を希望する就業者が全員副業を行えた場合の労働力増加分を試算している。
総務省「就業構造基本調査」※1で公表されている「追加就業希望者数」※2のデータを基に試算したところ、2035年時点では就業者の12.4%が追加就業(副業)を希望するという予測となった(図表1)。なお、副業に関しては、しばしば過重労働の問題が懸念されることから、本試算では「副業安全層」の割合に焦点を当てている。ここでいう「副業安全層」とは、仮に副業を行ったとしても36協定における原則の残業上限時間(月間45時間以内)を超えない副業希望の就業者を指しており、2035年時点では就業者全体の8.2%。2022年時点では4.0%であるため、今よりも2倍以上のボリュームに膨らむ見込みだ。
※1 総務省(2023). 令和4年就業構造基本調査.
※2 現在行っている仕事以外に、別の仕事もしたいと思っている人の数
コラム「2035年の労働力不足は2023年の1.85倍―現状の労働力不足と今後の見通し」で述べた通り、パーソル総合研究所の推計では、2035年にかけて就業者1人当たりの労働時間は減少の一途をたどる予測であるが、そのような傾向が「もっと働きたい」という就業者の気持ちの高まりに寄与しているのかもしれない。
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出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」
希望者全員が副業できた場合のインパクト
では、副業安全層の就業者が全員副業を行えた場合、どの程度の労働力増加につながるのだろうか。本試算では、これまでの副業に関する先行研究の傾向を踏まえ「1ヶ月で15時間分の副業を恒常的に行った場合」を仮定している。この条件にて試算したところ、1日当たり290万時間分の労働力増加が期待できることが分かった。
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出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」
副業が労働力不足の解決に与えるインパクトは、目の前の労働力確保だけにとどまらない。副業は、個人が自らのキャリアや成長を多角的に設計できる機会を提供する。
パーソル総合研究所が2023年に実施した「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」によると、副業の経験を通して、学びを感じている副業実施者の割合は約7割。主には「視野の拡大」や「スキル・経験の獲得」といった効果を実感している傾向が示されている(図表3)。
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出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
副業は越境学習の観点からも頻繁に議論されている状況から鑑みても、【副業の経験】→【就業者の成長促進】→【労働生産性の向上】→【労働力の増加】という流れは想像に難くない。「労働市場の未来推計2035」の研究でも、「『人の成長』への積極的投資が労働力不足解決に与えるインパクト」を試算している。
教育訓練(Off-JT)に着目した試算ではあるものの、人の成長に対する投資行動が労働力不足解決に対して大きな影響を与えていることが分かる(図表4)。
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出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」
今後より一層深刻さを増す労働力不足の状況下において、副業人材を受け入れる企業を増やし、副業人材が働ける環境を整えていくことは、「短期的な労働力確保」と「長期的な労働力向上」の2つの側面において、この先の労働市場に一定のインパクトがあるといえよう。
希望者全員が副業する社会の実現に向けて
では、希望者全員が副業する社会を実現するにはどうすればいいのか。
上記の問いを考えるために、まずは副業の多様性を抑える必要がある。「副業」と一言でいっても、その実態は非常に多様で、つかみどころがない。誰にでもできるような仕事から、専門的な資格やスキルを要する仕事まで。また、企業と個人が雇用契約を結ぶケースもあれば、業務委託契約を結ぶケースもあるなど、その形態はさまざまだ。
今後は何らかの切り口で「副業」という働き方の類型化を行い、解像度を高めていく必要があるだろうが、差し当たり、本コラムでは2つのタイプの副業について考えてみたい。
スキマバイト(スポットワーク)による副業
1つ目は、近年注目を集めている「スキマバイト(スポットワーク)」という働き方だ。数時間もしくは1日単位の単発で、雇用者として働くことを指しており、副業のひとつとして位置付けることができる。ピンポイントで労働力を確保したい企業と、隙間時間に収入を得たい個人の両者が即座にマッチングできる環境は、希望者全員が副業できる社会の実現に向けた大きな一歩といえよう。
しかし、注意が必要な点もある。現状のスキマバイトは、シール貼りや荷物の搬出・搬入などの軽作業や、飲食店での皿洗い・調理補助などの非専門的な仕事が多い。そのため、スキマバイトだけに依存していては、専門的なスキル・経験の蓄積は難しく、キャリア形成や成長につながりにくいのではないかと考えられる。また、ChatGPTなどの生成AIの台頭に伴い、日本国内でもテクノロジー活用に向けた議論が活発化している状況を踏まえると、現状のスキマバイトの仕事が未来永劫残っているとは考えにくい。
「短期的な労働力確保」だけでなく、「長期的な労働力増加」にもつなげていくには、企業における業務やタスクの切り出しなどを通じて、専門的な仕事も部分的にスキマバイト人材に依頼できる状態にしていくことが重要ではないだろうか。
相互連携による副業
2つ目は、副業人材を送り出す企業(本業先)と受け入れ企業(副業先)が相互に連携し合うタイプの副業だ。「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」によると、社員の副業を認める企業が増えている一方で、実際に副業人材を積極的に受け入れる企業はまだ少数である。
この背景には、労働時間管理や割増賃金の複雑性といった課題が潜む。副業を行う従業員の労働時間を正確に把握できなかったり、送り出す企業(本業先)と受け入れ企業(副業先)のどちらが割増賃金を負担するかなどのルールの複雑さがあったり、企業にとって大きな障害となっていることが推察される。また、情報漏洩やセキュリティリスクに対する懸念の大きさから、副業人材の受け入れを躊躇する企業も少なくない。
それに対して相互連携による副業の場合、企業間で副業人材を共有し合うので、労働時間の管理や割増賃金の問題を緩和できるだけでなく、情報漏洩やセキュリティのリスクの低減も可能になる。企業と個人だけでなく、副業人材を送り出す企業(本業先)と受け入れ企業(副業先)も連携する副業が肝要である旨は、コラム「副業における最新動向とその課題 ~副業の活性化には『歯車連動型』副業への転換がカギ~」で述べた通りであるが、今まさにその兆しが見え始めている。
例えば、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」では、参画企業間で相互副業を行う実証実験が行われている※3。企業が安心して副業人材を受け入れられる環境を整えるために、こうした企業間の連携を増やしていく取り組み強化も必要ではないだろうか。
※3 キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム (2024). 「企業間での相互副業」実証実験 第3弾 27社が参加し、76案件で86名が副業をスタート ~アサヒグループジャパン、アフラック生命保険、兼松、サッポロビール、ソニーグループ、日本たばこ産業、ポーラ、関西電力、三菱重工業、総合メディカルグループ、明治ホールディングスなどが新たに参加~ キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム Retrieved October 11, 2024 from
まとめ
本コラムでは、副業がこの先の労働市場に与える影響について考察してきた。副業推進は、短期的な労働力の確保(2035年、1日当たり290万時間分の労働力増加)と、長期的な労働力向上(副業の経験による就業者の成長促進)という2つの側面から、今後の労働市場に大きなインパクトを与えるだろう。
それに加えて、副業人材を送り出す企業(本業先)と受け入れ企業(副業先)の相互連携型のような副業が広がることで、日本社会は質的にも変化していくのではないかと考えられる。具体的には、副業人材を介した企業間の連携を通じて、新しいアイデアやスキルがシェアされ、ビジネス上では競合でありつつも「共創」するのが当たり前な社会が到来するのではないだろうか。世界的に見ても競争力が低迷する昨今の日本社会において、「競争」と「共創」を両立させる取り組みは、日本の再生と持続的な成長に向けた一歩となるだろう。
関連調査
「労働市場の未来推計2035」
このコラムから学ぶ、人事が知っておきたいワード
※このテキストは生成AIによるものです。
スキマバイト(スポットワーク)
スキマバイト(スポットワーク)とは、数時間もしくは1日単位で単発的に働くことを指す。個人が隙間時間を活用して収入を得るための手段として注目されている。
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シンクタンク本部 研究員 中俣 良太