『特捜エクシードラフト』第19話「光を破る侵入者」・同第20話「時空を超えた友情」について

 ひょっとしたら、このシリーズで繰り返し描かれていることとは、「現実世界の別ステージへの移行」ということかもしれないと考えたのである。「犯罪が多様化した」という言い方が指しているのは、我々の人間関係や生活環境がすっとどこかへ移動し、その移動に伴って、破局的なことが起きるということではないだろうか。その移動の仕方が多様なのである。この前後編だけではなくて、ほとんどの傑作群が、「すっと全然違うものになってしまったこと」に伴う悲劇を描いていると言ってよいのではないか。最終章もそうである。
 本シリーズが、主人公が全員人間であるにもかかわらずどこか抽象的で現実離れした物語を多く描いているのは、主人公の側に空想の要素を多く配するのではなく、主人公が活動する舞台の側に空想を求めたからであり、そこでは必然的に、悪夢的なことが展開される(だから、そこに精神的な要素を読み込むことが可能になるのである)。

 例えば会田隆は海外から単身赴任を終えて戻ってきたらしいが、コカインを密輸するということは、感情的にはありえないことだが、今回のような極めて限定的な状況においては、全く考えられないことではない(現実の会田隆が密輸を行ったわけではないが、要するにあるアナロジーであり、そこに論理的につけこまれたと言ってよい)。現実の環境を保持しつつ、ありえないことはない位相へと突入する。同様に、デビッド秋葉もカルロス東郷も半年前に死亡しているのだから、彼らもまた明らかに別のステージを生きているわけである。そして第28・29話を考えれば、彼らもまた別ステージへの移行に伴う大きな痛みを経験しているのである。また、秋葉は最終章において、別世界の論理と我々が本当にいる世界との論理を取り結ぶ役割を果たすことになる。

 ところで、後編のアクションの終盤、レッダーが秋葉を説得するわけだが、彼が何のことを言おうとしているのか、ちょっとよくわからないと思う方もおられよう。筆者は後編について2種類のシナリオを所有しており、より前の段階と思われるもの(放送予定日が5月31日のもの。タイトルは「戦士たちよ永遠(とわ)に ~黒のマンハンターPARTⅡ~」である)において、東郷が「このまま電圧を上げれば、カプセルは爆発する。子供は死ぬぞ。間違いなく!」と言ったのに対して、秋葉は「やれ。爆発させろ」「『X-13』の回収と、それに関わった者の抹殺。それが俺の任務だ。その子も例外ではない。」と言っている。つまり、明らかに進を殺害する意図があったわけである(なお、シナリオでは父・隆は死亡する)。要するに、東郷を殺害することをやめさせ、彼の改心の可能性を言ったのではなく、運び屋となった父子の罪と犠牲について言っていたのである(ちなみに「多少の犠牲」についてのディスカッションはこの前の段階のシナリオにはない)。
 いずれにしても、レッダーが言ったことはどれほど我々のいる位相が変化したとしても保持されなければならない信念である。多様化する「犯罪」に挑む主人公たちから見出されるべきは、彼らの堅い決意だ。

※番組冒頭の「多様化する犯罪」という言い方については、上記よりもう少し細かく考えているところもあり、別途追って論述する予定である。

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