我、トンスラ頭にザビエルを想う
こうして故郷の街に戻ってきたのは、もう何年振りだろうか。
俺の住んでいた二階建てのアパートはすでになく、十階建てのマンションに変わっていた。俺たちが野球をしていた空き地は子供たちが遊べる公園になっていて、田んぼがあったところには新興住宅が立ち並んで昔の面影すらない。
一本、路地裏に入ってみると、そこはまるでタイムスリップした空間であることに驚きを隠せなかった。
そこは低所得者層が住んでいた長屋が立ち並んでいたのだが、ほぼ当時のまま残っていて、今だに住人もいるようだった。
確かタカシの家があったなあ、と思い出しながら歩いていると忘れていた記憶が走馬灯のように駆け巡った。
そう不思議な体験だったと思う。あれは夏の暑い日だった。
確か小学校に上がったばかりの頃の話。
タカシの家で遊んだ帰り道、長屋と長屋の間に見たことのない祠が現れた。
河童のような像が祀られていて、あっけにとられていると、どこからともなく声が聞こえてきたのだ。
『約束を守るのならば、お前の願いをかなえよう!』
確かそういう声が聞こえた。
そして俺は「ナオちゃんと結婚したいです!」そう答えた。
『お前の望みをかなえよう!』
『もし約束が守れなかったら、お前の〇✕△をもらうぞ!』
みたいなことを言っていたような気がするが、肝心のところを聞かずに帰ってしまったようだ、多分。記憶が正しければ…
おそらく、この場所だ。だが、冷静に考えれば長屋と長屋の間にそんな祠の入るスペースはないのだ。
あれは夢だったのだろうか。
俺は頭を抱えながら、もう一度記憶をたどってみた。
あの後、ナオちゃんから告白されて、両想いだったことに歓喜した。
しばらくは手をつないで登下校をしたような気もするが、自然消滅したぞ。
頭を抱えていた手のひらに後頭部が薄くなった感覚がしてハッとした。
確か『もし約束が守れなかったらお前の髪の毛をもらうぞ!』
そう言われた記憶がよみがえってきた。
中坊の頃、剃りこみを入れていたせいで額がM字になってきたと思い込んでいたのだが、後頭部の説明がつかなかった謎が解けた。
そして、今更にして人生の教訓を思い知ることとなった。
なんのはなしですか
人の話はちゃんと聞くべきであるということだ。
俺は約束が何だったのか、解らないままトンスラ頭だ。
そして、久しぶりに参加する同窓会に向かいながら、
教科書に載っていたフランシスコ・ザビエルを思い浮かべつつ、
来年はトンスラカットが流行ればいいなと黄昏ている。
了
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では 素敵な1日を✨