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【解説】スコープ2, 3って、GHG排出量の二重計上になるのでは?

2023/6/26、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、「スコープ3」を含めた情報開示について「サステナビリティ開示基準」へ盛り込みました。

スコープ3算定・開示が注目を集める中、「自社のスコープ1排出が、他社のスコープ2やスコープ3の排出にも該当するとしたら、二重計上が発生するのでは?」といった質問を受けることも増えてきました。

端的な答えは「その通り」です。ただし、下記の正当な理由があって、敢えてそのように設計されているのです。

「企業によるGHG排出量の算定・報告の目的が、世界全体の排出量を集計することであれば、二重計上によって不正確な結果が生じます。しかし、それが目的ではありません。真の目的は、排出量に関して、効果的かつ実践可能な削減策につながる情報を見つけ出すことにあるのです。

今回は、この排出量の二重計上に対する疑問や誤解について、弊社のジェームス・バグリアが解説した記事をご紹介します。さっそくご覧ください。


排出量の二重計上は問題?

気候関連情報の開示規則を巡っては、米証券取引委員会(SEC)による最終規則の公表が間近に迫る一方、カリフォルニア州では法制化の動きも進んでいます。こうした中、企業のサステナビリティ報告、とりわけスコープ3排出量への関心が高まっています。企業の多くが、組織全体のGHG排出量にスコープ3を含めることの重要性は理解しつつも、「スコープ3を義務的な開示の対象に含めるべきか」「どうすればその排出量を正確に算定できるか」といった問題に頭を悩ませています。スコープ3に関して誤解されやすい点のひとつに、「二重計上」があります。

自社のスコープ1排出が、他社のスコープ2やスコープ3の排出にも該当するとしたら、二重計上が発生するのではないかと感じる人も多いでしょう。答えは「その通り」です。スコープ2とスコープ3の排出量算定では、同一の排出が複数の事業者のインベントリに重複して計上されることがそもそもの前提とされています。正当な理由があって、敢えてそのように設計されているのです。

今回の記事では、この二重計上を取り上げます。パーセフォニでシニア・クライメート・アナリティクス・リードを務めるジェームス・バグリアが、「二重計上とは何か」「なぜ二重計上が企業や投資家の役に立つのか」「どのような場合に二重計上をしてはならないか」について、専門的な立場から解説します。

二重計上とは? なぜ発生する?

スコープ1排出量は、企業が所有または支配する排出源からの直接排出のみを対象とします。一方、スコープ2とスコープの3排出量は、事業活動のさまざまな側面で生じる間接排出を幅広く対象としています。例えば、スコープ3の上流には「購入した物品・サービス」による排出があり、スコープ3の下流には「販売した製品」に伴う排出や「投融資先企業」からの排出などがあります。

ある電力会社が1万トンの石炭を燃やして発電し、温室効果ガスを2万5千トン(CO₂換算)排出したとしましょう。すべての組織が自らのスコープ1、2、3の排出量を算定するとした場合、複数の組織がこの石炭に紐づく排出を計上することになります。つまり、この石炭を販売した企業、この石炭を燃焼した電力会社、この石炭で発電した電気を購入した企業、さらにはこれら3社のいずれかに出資している投資元のすべてが、同一の排出を重複して計上するということです。

意外かもしれませんが、これは当初から意図されていたことです。二重計上を前提とした仕組みになっているおかげで、投資家は脱炭素化に伴う移行リスクをより深く理解し、十分な情報に基づいて投資判断を行うことができるのです。企業側としても、自社の直接排出量だけを算定していては、低炭素型の業務手法、製品、投資を開発するチャンスがどこにあるのかほとんど見当がつきません。それどころか、自社施設内での排出をできる限り抑えて外部に押し付けることで、他組織に直接排出として計上してもらおうという思惑が働いてしまうでしょう。

排出量の二重計上は会計上の誤りではない

企業によるGHG排出量の算定・報告の目的が世界全体の排出量を集計することであれば、二重計上によって不正確な結果が生じることになると言えます。しかし、それが目的ではありません。真の目的は、排出量プロファイルに関する有意義かつ実践可能な情報を見つけ出すことにあるのです。 もし世界全体の排出量の集計が目的だとしたら、スコープ2と3を無視して、単純にすべての組織の直接排出量(スコープ1)を合計すれば済みます。もっと簡単な方法で世界全体のGHG排出量と濃度を測定することもできるでしょう。

企業によるGHG排出量の算定・報告では、単に総排出量を集計する場合と比較して、よりきめ細かなアプローチが必要になります。誰が、または何が、どの排出に対して影響力を持っているかを理解することによって、排出量削減を促すインセンティブをつくり出すことが目的とされているからです。その結果、複数の組織が同一の排出を計上することになります。裏を返せば、これらすべての組織が、バリューチェーンを通じてその排出の原因となる活動に影響を及ぼし得るということです。例えば、より環境に配慮したサプライヤーを選んだり、より効率的な製品を設計したり、よりサステナブルな企業に投資したりすることで影響を与えることができます。

財務会計では、企業に直接流入・流出した資金を算定しますが、GHG排出量の算定・報告では、企業が大気中に流出させた排出量を算定します。脱炭素化を実現するには、GHGを排出する活動に対して誰が責任と影響力を持つかを特定することが不可欠です。ただし、それは単なる排出量の算定にとどまらない複雑な作業です。

例えば、B社がA社から商品を購入し、トラック会社に料金を支払って輸送してもらった場合、トラックの排気管からの排出には誰が責任を負うのでしょうか?

当然、排出活動を直接行っているのはトラック会社です。しかし、その責任の一部は、商品を供給したA社や商品を購入したB社にも及ぶのではないでしょうか?トラックメーカーはどうでしょう?電気トラックや燃費の良いトラックを製造すれば、排出量に影響を与えることができるのではないでしょうか?トラックで燃焼されるガソリンやディーゼルを生産する企業も関係するでしょう。化石燃料の燃焼による排出の一部は化石燃料企業に帰属させるのが筋ではないでしょうか?GHGプロトコルの3つのスコープすべてを考慮すると、どの疑問に対する答えも「その通り」です。つまり、これらすべての企業がそれぞれのGHGインベントリに同一の排出を計上することになります。

一見すると欠陥のようにも思える二重計上ですが、これは偶発的に起こるのではなく意図的に設計されたものなのです。

二重計上をしてはならないケース

二重計上は意図的に設計された優れた仕組みですが、二重計上をしてはならないケースを理解することも重要です。

同一企業のインベントリ内での二重計上

GHG排出量の算定・報告においては、同一の排出を異なる企業間で二重計上することは設計上問題ありません。しかし、同一企業のインベントリ内で二重計上することは極力避けなければなりません。

例えば、ある企業が、使用電力量(kWh - キロワット時)を基に購入した電気の使用に伴う排出量を算定し、すでにスコープ2に計上しているとします。一方、購入した物品・サービスの支出データにもこの電気料金が表示されるため、これを基に同様の排出量を推定し、スコープ3(購入した物品・サービス)として計上することはできません。

また、ある企業が購入した物品について、購入金額と購入した物理量の両方を把握している場合、どちらの情報を使っても 、GHGプロトコルが承認する方法でその物品に伴う排出量を推定することができます。ただし、両方の情報を基に排出量を推定し、その結果を合算することはできません。なぜならその場合、同じインベントリ内で同一物品に対して排出量を二重計上することになるからです。

排出削減クレジットとカーボンオフセットの二重計上

ある企業が排出量を削減し、別の企業がその削減分をオフセットとして計上する場合は注意が必要です。例えば、ある森林プロジェクトが炭素隔離による排出削減量を計上し、そのオフセットを購入した企業側でも同じ削減分を計上している場合、実際の炭素排出量を過少報告することになってしまいます。

企業が排出削減量をカーボンオフセットやクレジットとして販売した場合、その削減量を自社のインベントリに二重計上することは認められません。削減クレジットを売却した時点で、販売側の企業はその削減量に対する権利を失うからです。

結論:スコープ1とスコープ2, 3で排出量の二重計上が生じることは意図的な戦略

結論をまとめると、スコープ1とスコープ2, 3で排出量の二重計上が生じることは欠陥ではありません。これは、バリューチェーン全体が排出量に影響を及ぼす複雑な構造になっていることを理解するための意図的な戦略なのです。


今回は、スコープ2, 3って、GHG排出量の二重計上になるのでは?という問いに対して、弊社の考えをご紹介しました。

パーセフォニは企業のお客様のスコープ1, 2, 3の算定、分析、報告作業などにつきまして、全面的にサポートさせていただきます。ぜひお気軽にご連絡ください。

それではまた次回!

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