僕と「古典部」 高山市巡礼
夏休みに友達と岐阜県高山市に訪れた。大学生の旅行で岐阜に行くというのはひょっとすると珍しいかもしれない。実は僕の大きな目的は,大好きなアニメ,「氷菓」の舞台を観て回ることだった(通称:聖地巡礼)。本稿では,実際に訪れた「氷菓」の舞台を紹介しつつ,私自身がこの旅行を総括したい。その過程で,僭越ながら「氷菓」の魅力をお伝えできれば幸いである。
「氷菓」および「古典部」シリーズについて
「氷菓」は直木賞作家,米澤穂信氏のデビュー作であり,主人公,折木奉太郎が,古典部部長,千反田えるに導かれ,伊原摩耶花,福部里志を加えた古典部のメンバーと共に,日常に潜む謎を推理していくミステリである。本作は「古典部シリーズ」としてシリーズ化され,現在は2016年に刊行された「いまさら翼といわれても」が原作の最新刊となっている。同シリーズは京都アニメーションにより「氷菓」としてアニメ化され,2012年4月から放送された。
米澤穂信氏の作品といえば,「ボトルネック」や「儚い羊たちの祝宴」に代表されるように,重厚かつ時にはグロテスクな本格ミステリというイメージが最近では定着しているかもしれない。しかし古典部シリーズはそういった最近の「米澤カラー」とは一風変わっている。古典部のメンバーたちの知的でコミカルな掛け合いを楽しませながらも,「熱狂に押し潰された人々」をはじめとした,各ストーリーで一貫して描かれる,ある意味シニカルで重厚な問いかけを忘れない。このようにバランスが取れたストーリーが展開される古典部シリーズは,万人におすすめできると思う。なお,舞台とされる高山市は米澤穂信氏の出身地である。
初めて僕が古典部シリーズに触れた中学2年生の頃から7年もの月日が経過した。その間私は原作を5周,アニメを10周し,ほぼ全てのフレーズ,場面を記憶している。仲良くなったほぼ全ての人に古典部シリーズを繰り返し布教するせいでウザがられている。高校でも,もし古典部があれば古典部に入部していた(無かったが…)。それだけの熱量を持ってこのコンテンツに触れてきたので,今回の聖地巡礼はまさに宿願だった。前置きが長くなったが,以下で実際にまわったスポットを紹介していく。
聖地巡礼その1
アルプス街道 平湯
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画像右:筆者撮影
以下特に断らない場合同様
新宿から高速バスに乗って岐阜県,高山市を目指す。約5時間の運行の終盤,たまたまバスが休憩所として立ち寄った施設。何か見覚えがあるなと思ったら,7話「正体見たり」に出てくる施設ではないか!!アニメでは奉太郎(主人公)ら古典部が温泉旅館へのバスを待っているシーンで一瞬登場するだけなので,思い出すのが一瞬遅れてしまった。まだ高山に到着してもいないのに偶然立ち寄れるなんて感無量だ。
高山に到着し,友人らとまず昼食を食べることになった。高級そうな蕎麦屋に入り,とても美味しい蕎麦を堪能した。その後いよいよ聖地巡礼を本格的に開始することになった。
以下は第1クールOP 「優しさの理由」の舞台の数々である。
鍛治橋
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招き猫
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宮川朝市
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それぞれほんの一瞬しか映らないシーンではあるが,繰り返しアニメを観ている僕にとってはお馴染みの場所だったので興奮した。宮川朝市ではその名の通り毎朝市場が開催されていた。
宮川朝市通り
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弥生橋
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上の2つも「優しさの理由」の1場面だが,残念なことに,宮川朝市通りでは橋が造られ,弥生橋では橋が撤去されたために,シーンを「再現」することは叶わなかった。まあアニメ放送から12年もの月日が経ってしまったことを考えると当たり前か…
不動橋
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上のシーンは第2クールOP,「未完成ストライド」の1シーン。実はこの橋はOPに登場するだけでなく,物語のとある印象的なシーンでも1役買うことになる。詳しくは第21話「手作りチョコレート事件」参照。
初日は次に紹介する日枝神社と上で紹介したスポットを周って終了した。夜は地元の居酒屋に行った。料理もお酒も美味しかった。他の友達は夜も何やら楽しそうだったが,僕は疲れて寝てしまった。
聖地巡礼その2
以下では周ったスポットの中でも特に印象的だったものを紹介する。
日枝神社 (荒楠神社)
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古典部シリーズの中では「荒楠神社」として知られる日枝神社。アニメでは第20話「あきましておめでとう」,原作ではそれに加え,「長い休日」に登場する。大きくて静かな神社だった。おみくじを引いたが結果は特に芳しくなかった。
高山市図書館 煥章館 (神山市図書館)
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2日目に訪れた高山市図書館 煥章館。1日目訪れた時は休館日だったのでリベンジした。煥章館はアニメ第18話「連峰は晴れているか」で奉太郎とえるが訪れる「神山市図書館」のモデルとなっている。図書館の中は撮影できないようである。とても雰囲気のいい図書館だった。米澤穂信氏を含めた岐阜県出身の作家たちの特設コーナーがあり,とてもいい状態で作品が保存されていた。岐阜には関係ないが,「スタジオジブリ物語」という本をたまたま手に取ったところページをめくる手が止まらなかった。
バグパイプ (パイナップルサンド)
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アニメ第3話「事情ある古典部の末裔」に登場する喫茶「パイナップルサンド」の舞台となった喫茶バグパイプ。このシーンは「氷菓」全話を通して最も印象的なシーンかもしれない。次に紹介する喫茶かつてと並んで,個人的には最も良かったスポットの1つである。
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ブレンドコーヒーとチーズケーキを頼んだ。どちらもとてつもなく美味しい。店員さんの接客も素晴らしかった。何より感動したのは,氷菓ファンのための交流ノートが置いてあったことである。しかも我々より先にこの日訪れたファンの書き込みがあった。10年以上前のアニメに今でも熱心なファンがたくさんいることを考えると,とても嬉しかった。なおこの交流ノートは,後で紹介する喫茶かつてとまるっとプラザにも置いてあった。
喫茶かつて (喫茶一二三)
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アニメ第10話「万人の死角」で登場する「喫茶一二三」こと喫茶かつて。落ち着いた雰囲気の中で抹茶を楽しめた。欲求に負けてパフェを注文してしまった。ただただ美味しい…一緒に行った友達はここが一番良かったと言っていた。家の近くにこういう店があったらいいのに。高山市への移住を本格的に検討したいと思いながらお茶をいただいた。
斐太高校 (神山高校)
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古典部シリーズは高校生の物語なので,基本的にお話は学校の中で展開する。特に「氷菓」,「愚者のエンドロール」.「クドリャフカの順番」の「文化祭3部作」ではその傾向が顕著である。高校の中も見学できれば良かったのだが,筆者はもう大人…校舎に侵入しようものなら一発で警察のご厄介になりそうだ。ということで神山高校改め斐太高校に関しては,遠くから校舎を撮影するにとどめておいた。なんとなく雰囲気が筆者の母校に似ている気がする。地方公立高校に共通する雰囲気なのかもしれない。ちょうど下校時間だったので,高校生たちの邪魔になってはいけないと思い早々に退散したが,満足である。
おわりに
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まず今回旅行に一緒に行って,各スポットを周るのに付き合ってくれた友達に感謝したい(ぶっちゃけ「氷菓」の聖地巡礼よりもUSJ行きたいとか思ってたかもしれないが…)。実は高山市以外にも下呂温泉や白川郷に行ってどちらも非常に楽しかった。
高山市を歩くと街中いたるところに「氷菓」のポスターが貼ってあった。人々が10年以上前のアニメをこんなに大切にしてくれているということに1ファンとして感動した。前述の交流ノートもまた然りである。それだけこのコンテンツを僕を含む大勢のファンが愛せたのも,米澤穂信先生及びアニメやコミカライズを制作したクリエイターの人々のおかげだと思う。それだけに,4年前の京都アニメーションでの放火事件のときは本当に言葉を失った。アニメの監督である武本康弘氏を含め,亡くなったり被害を受けたりした多くの人々の冥福を祈りたい。そして,京都アニメーションの「響け!ユーフォニアム」をはじめとしたこれから展開されていく作品を応援したい。
原作の最新刊「いまさら翼といわれても」が刊行してから7年が経過している。紹介した「交流ノート」にも書いたが,僕は続編が出るのを永遠に待っている。米澤先生によると次回作の構想はあるようなので,いつになるかはわからないが,いつの日か読める日を今から楽しみにしている。