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「帰ってから、おなかがすいてもいいようにと思ったのだ」

2021年11月2日。
その日、私はスタニスラフスキーのワークショップを終えて、
よろよろしながら昼ご飯のスパゲッティ屋に入って、
ピーチティとゴルゴンゾーラのきのこのタリアッテレを頼んだ。

先に来たピーチティを飲んでいたら、
夫から電話がかかってきて、
老人ホームにいた義父が
心拍が下がっていて、いよいよ死期が近いので、
帰って息子を連れてホームに行ってほしいと言われた。
夫は仕事ですぐには抜け出せなかった。

スパゲッティをキャンセルしようと思ったら
「お持ち帰りになりますか?」と言われたので、
持って帰った。

息子を連れてホームに行ったら、
義父はすでに亡くなっていた。

死ぬとは、液体の循環がなくなること。
心臓の鼓動が止まってから、目がはっきりと干からびていった

今までお世話していたヘルパーさんたちが、
「まだあったかいね」と布団に手を入れたり、
手をにぎったりしているのを見ていた。

それから、忙しくて、夕飯食べるヒマないだろうと、
持って帰ったパスタを食べた。
私の住む家も、元は義父のもので、
生活の基盤を金銭的にも、
おおまかな生活の方針も支えて頂いていた。
文字通り大黒柱だった義父が亡くなったことで、
新たな世界がはじまるグラグラを、
パスタはしっかり支えてくれた。

冷えていたけど、おいしい、と思った。

毎日同じように作り続けている人が作る味は、
私の心のグラグラに寄り添ってくれた。

きのこが嫌いで、ゴルゴンゾーラなんか食べたこともない息子が
「俺も食べようかな」と言い、ぺろっと食べた。

さあ、行こう、と思った。

昨日、偶然にも、同じ稽古場でスタニスラフスキーがあって、
同じスパゲッティ屋さんに入り、
ピーチティと、同じスパゲッティを食べた。

あったかいスパゲッティは、やっぱりおいしかった。

ありがとう、
ありがとう、
私、元気で生きてます。
しっかりと、しあわせです。
あのとき、支えて頂いてありがとうございます。

これからも、いろいろな人が幸せになっていくのでしょう。
宇宙じゅうの、食べるお店の人、今日も作ってくれてありがとう。

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山本ペロ
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