パチンコ屋から流れる蛍の光
先日、久しぶりに夜の街を散歩をした。
冬の夜の空気は冷たく澄んでいて、息を胸いっぱいに吸い込むと肺がキュンと苦しくなる。
この日は満月だったので、月明かりも普段より明るく夜道を照らしていた。
どれくらい歩いたのだろう。
悶々とした謎の気持ちをかき消すかのように、ただただ歩き続けた。
時刻はもう22時を過ぎていた。
暗闇に包まれた路地にふと、煌々とした明かりが灯っているのを目にする。
パチンコ屋だった。
私の住んでいる街は治安がいいとは言い切れないので、そこらじゅうにパチンコ屋がある。
繁華街にはもちろんのこと、なんてことない道路や住宅街にもポツンと建っていたりする。
散歩中にたまたまパチンコ屋の前を通り過ぎた。
自動ドアの前に置かれた灰皿にはたくさんの人が集まっている。
もうそろそろ閉店時刻なのだろうか。店内からは蛍の光が流れていた。
私はこの光景を見て幼少期を思い出した。
◇
祖母はパチンコが大好きだった。それはもう病的に。
借金もしていたし、母に内緒で私と弟にかけた学資保険も年金もすべてパチンコとタバコに溶けていった。
ギャンブルがしたい。という訳じゃなくて、あの刺激を趣味にしていたんだと思う。
だから私が幼いころは、多くの球数で私におもちゃを与えることを目標にしていたし、実際に祖母がパチンコでとってくれたファービーとテレタビーズの人形を私は友達として一緒に遊んでいた。
『毎週木曜日はパチンコの日』
うちではそれが決まりごとのようになっていた。
というのも、祖父が木曜の仕事終わりはボウリングのクラブチームでの集まりがあり帰りが遅かったため、祖母にとってこの日はパチンコ屋に行くにはうってつけの日だった。
晩御飯の後、私たちはパチンコ屋に向かう。
祖母がやるのはいつも海物語。
私はそれを横に座ってみている。
リーチになったのに揃わないと、祖母は私の方を見てハニかむように舌を出す。
ヤニで黄色く汚れた歯。ヘビースモーカー特有の血色の悪い唇。そこからのぞく舌。
私はいつもどんな顔をしていいのか分からず、困ったように笑ってみせた。
子供にとってパチンコ屋はあまりにもつまらなさすぎる。
何時間もやることもなくただ座っているだけなのは苦痛だ。
パチンコを眺めるのに飽きると祖母にお小遣いをもらい、休憩スペースにある自動販売機でピーチスカッシュかメロンソーダを買う。
それをちびちび飲みながら持ってきたぬいぐるみで遊ぶのが毎度恒例だった。
家ではジュースを飲ませてもらえなかったので、毎週木曜日に飲める、このジュースたちは特別な味がして大好きだった。それは今もなお。
どれほど時間が流れたのだろうか。
店内からポツリポツリと人が出ていく。
それを機に店内には蛍の光が流れ始めた。
「ぺろちゃん、そろそろ帰ろう。」
ああ、今日もやっと一日が終わったのに、明日また目が覚めたら学校に行かなくちゃならないのか。
パチンコ屋から流れる蛍の光を聞くと、何とも言えない悲しく空虚な気持ちになる。
氷の解け切ったジュースのカップに別れを告げる。
また、来週ね。
そんな昔のことを思い出した、月のきれいだったあの日。
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