私の作るご飯は粗末ではない
「ごちそうさまでした。」
のお返事っていったい何がベストなのだろうか。
私は、中学生まで祖父母と伯父と一緒に住んでいた。
ご飯はいつも祖母が作ってくれていた。
どんなに機嫌が悪くても、私と激しい争いをした後で口を聞いてくれなくとも、毎日かかさずご飯だけは作ってくれていた。
祖母の作るご飯は本当においしい。
私も料理が好きだけれど、目指している味は祖母の味だ。
洋な料理は作らないし、家でパーティなんかしたこともないからチキンとかオシャレなご飯なんて食卓に並んだこともないけれど、祖母の作る素朴な和食たちは本当にどれも美味しい。
特にもつ煮込みなんて、その辺の小料理屋や居酒屋で食べるものよりもよっぽど美味しい。祖母の味を超えるもつ煮込みに私は未だかつて出会ったことがない。
「ごちそうさまでした。」
この一言に今日も作ってくれてありがとう。の気持ちを込めて届けていた。
すると必ず返ってくる言葉。
「お粗末様でした。」
これが我が家では当たり前のやり取りになっていた。
◇
時が経ち、私も愛おしい人のために料理を振る舞うようになった。
恋人はいつも「ごちそうさまでした。」の後に「今日も美味しかった。ありがとう。」と続けて言ってくれる。
そのお返しに私は「お粗末様でした。」と一礼をする。
恋人は私の生み出すひとつひとつの料理に関心を持ち、大切に食べてくれる。
そんな姿が嬉しくて私もどんどん新しい料理に挑戦してきたし、定番のメンバーも新しい姿に生まれ変わらせてきた。
今日は何を作ろうかな。
朝を迎えるたびにそんなことをぼんやりと考え始める。
冷蔵庫の中と睨めっこして、足りないものを調達しに自転車を走らせ、人生の先輩たちに紛れながら八百屋・スーパーをはしごする。
なるべく節約しながら美味しいものを食べさせてあげたい。
まとめ買いした肉は小分けにして冷凍。
野菜は使いやすいサイズにしてから冷凍をする。
調理に関しても、青魚や肉の臭みがあるものはしっかり下処理をするし、野菜のあく抜き、塩もみだって欠かさない。
煮物は味を染み込ませるために前の晩から仕込んでおくし、隠し包丁だって入れる。
その目に見えない努力をする理由は全て、愛おしい人に美味しいご飯を食べてもらいたいから。
美味しいものを食べて仕事の疲れを癒して欲しいから。
私は、大切な人が想いを込めて作ってくれた料理から受けるパワーがどれほどのものか、よく理解している。
そんな風に想いを込めて作った料理たちは、果たして本当に『お粗末』なものなのだろうか?
食材にだって感謝をしながら丁寧に扱っている。
残すなんてもってのほか。
だったら、「ごちそうさま。」の返事って本当に「お粗末様」が正しいの?
日本人故の奥ゆかしさから来たものだとは思うけれど、自分の想いを謙遜することもなんだか違う気がする。
食べてくれた相手が感謝をしてくれているのに、それに対して大した料理じゃなくてすみません、と言うのも何だか違う気がするのだ。
だって、私の作る料理は決して粗末なものではないもの。
◇
今日もまた、恋人と共に食卓を囲む。
「ごちそうさまでした。今日も美味しかった、ありがとう。」
私はようやくお粗末様でした。以外の返事を見つけた。
「今日も残さず食べてくれてありがとう。」
うん、こっちの方がうんと素敵な気がするよ。
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