いつもより甘いコーヒー牛乳
定時より2時間も過ぎたころ、ようやく今日の業務が終わり退勤することができた。
私は、ホテルの客室清掃のパートをしている。
まだゴールデンウィーク前だというのに、ホテルの稼働が上がり続けていて残業続きの日々だ。
この業界では当たり前のことなのだが、休憩時間が一切ない。
本来なら5時間程度で終わる予定なので休憩時間を設ける必要がないのだが、ここ最近は特に、定時時間内に終わる見込みがまったくない。
ずっとノンストップで動き続けているので、終わるころには体力も気力も全て使い切り、動く屍かのように這いつくばりながら家路に着く。
空腹の時間が長いので、血糖値が下がり続け頭がクラクラすることなんて日常茶飯事。
とにかく糖分がほしい。甘いものを摂って血糖値を上げたい。
家に着くと、手を洗ってすぐお菓子を口に運ぶのが日課だ。
今日はめずらしく私より早く退勤した夫が、私の帰りを待っていてくれた。
自転車置き場で合流する。
「これ、飲む?」
夫の手には一口だけ残ったコーヒー牛乳が。
「残りのやつ全部飲んでいいの?」
頷く夫を確認して、即座に口に運ぶ。
甘い……。ものすごく甘い。
コクのあるコーヒーとミルクのまろやかさ、砂糖の糖分が一気に舌へと乗り、喉奥へと落ちていく。
長いこと空腹だった身体にやさしい甘さが染み渡って、疲れが和らいでいくような気がした。
頑張った者だけが味わえる幸福感。まさに至福の一瞬だった。
でも何よりも幸せだったのは、夫が自分で買ったコーヒー牛乳を私のために一口残しておいてくれたこと。
だって、私だったらこんな美味しいコーヒー牛乳、絶対に一人でナイショで飲み切っちゃうもの。
今日のコーヒー牛乳はいつもよりなんだか甘かった。
きっと夫の愛が混ざっていたから。
またいつか、こんな美味しいコーヒー牛乳が飲めますように。
幸せを噛み締めながら、二人で帰路へとついたのだった。