#112 道程

今日は久しぶりに外での仕事だった。
場所はオフィス街の立派なビル。その行く道で、かつて新卒一社目で入ったTV制作会社に通っていた時と同じ路線の電車に乗り、同じ乗り換えをして、最寄駅を通過して行った。

あの頃を思い出すと、乗車率120%の奴隷船のような電車に揺られ、都心のビルを登り、朝起きた時の体力の半分を削られた状態で、倫理観に欠けた同僚と上司の待つ危険なジャングルのようなオフィスの自席に座る。
そんな日々が頭をよぎった。

もちろん、楽しかったこと、勉強になったことも多いが、しかしそれ以上に心や魂を削られて、自分が自分でなくなっていく感覚を得ることの方が多かったと思う。
大きな組織の一端になるということは、自分を殺すことを要求されるものだと何度思い知らされたことだろうか。

チャンスを得て、やりたいことに挑戦して、ニーズに対してそれなりの成果を得られても、所属する組織や周りへの忖度から評価されず「まぁいいんじゃない?好きなことできたんだし」で終えられた瞬間、心が完全に折れた。

辞める瞬間に頭に過ったのは解放だったが、それ以上に金銭面への不安はあった。腐っても民放系列、ボーナスの額面はそこそこで、そのおかげで海外旅行に年一で行くことも出来ていたワケだし。

だが、金と引き換えにゆっくり自殺していくのはゴメンだ。そう決意して転職して契約社員、そしてフリーランスへと転身していった。

収入は減ったが、学ぶものは多かった。
元々得意だった書くことに特化した仕事を1000本ノックのようにこなし、イヤな思いもしたけれど、しかし心は殺さなくて済むようになった。

それに、昔は上司に認めさせるために書いていたものが、お客さんや読者のために書くためにどうしたらいいか、どう書けば伝わるかを学ぶように視点が変わったのが何よりも大きい。
昔の企画書を読み返すと、恥ずかしくて顔から火が出る。その火でこの企画書も燃やせたらいいのにと思うくらい。

働き方もフルリモートに変わって、自分の暮らしと向き合うようになり、自分の力でお金を稼ぐ楽しさも実感している。

金銭的に豊かになるにはまだまだ道のりは遠いけど、ただ自分自身に対して今まで以上に豊かさを感じられているのは確かだ。前に比べても、他人に優しく出来てる気もする。

お金って大事。
でも、自分も大事。
天秤にかけた時に、どちらを大切にしたいかはその人次第だろうけれど、いずれにしても生きていればどうにかなること。

変容し続ける自分を楽しめるようになったことが、何より一番良かったと思っている。銀座線に揺れながら、そんなことを考える一日だった。

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