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コブシの花と母の思い出【ちょっと休憩お茶ください】

 桜の木も葉っぱがついてきて、窓から見える六甲山脈もついこの前まで深い緑にところどころピンクだったのに、すっかり黄緑の新緑の山に変わってきた。

 近くの神社に散歩がてらよく遊びに行く。

 梅の時期は小さいながらも立派な梅が、桜の時期にはそれは見事な花を咲かせる大きな木がある。

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 職業柄、家にいることが多いので身近な自然に触れることはとても気持ちがいいものだ。毎日とはいかないが、週に何度か朝の散歩がてらお参りに行く。

 行く道や帰る道にもいろいろな木があり、見ながら歩くのも楽しい。

4月も後半になってきて、ひときわきれいに花が咲いている木があった。

『コブシ』の木だった。

 そのコブシは白い花をつけ、木自体もこじんまりした可愛らしいたたずまいであった。わたしはそのコブシの木を見ると、母との会話を思い出す。

 母は8年前に他界しているのだが、その数年前の会話。

 そのころわたしは実家に住んでおり、暇を持て余していた。簡単なバイトはしていたかもしれない。朝ゆっくり起きて、午前中によく母と会話をしていた。実家はマンションの3階なのだが、ベランダからは公園が見える。そこには可愛らしくも大ぶりで可憐な白の花をつけた木と、紫の茗荷色の花をつけたおそろいの木が並んでいたのが見えたのだった。その木たちは公園の中でもとても目立っていて、なのに品があり、しかし1週間ほどでその花をボタッボタッと落とすのだ。

 ある年に、母に「あの木は何て名前?」と聞いてみたことがあった。

「あれはコブシよ」

と、母は教えてくれたのだった。

 ただひとつ。母はコブシといったかもしれないし、モクレンといった気もする。それがどうしても思い出せないのだ。ここではコブシで統一するのだが、モクレンといった気もするし、コブシといった気もする。

 調べてみると、コブシもモクレンも親戚というか、兄弟というか、属する種目は同じだった。

 今でさえおぼろげな名前だが、当時もすぐその名を忘れ、わたしは毎年母に聞いていたのだった。

「あの木の名前なんやったけ?」

「だから、コブシ(モクレン)やってばー」

 母との会話はいろいろ思い出もあるのだが、このコブシの花やモクレンの花を見るたびに、ふと母との何気ない会話を思い出す。淡いけれど暖かい思い出。

 季節は春真っただ中。近所の木や花が嬉しそうに太陽を仰いでいるのを見ると、自然にわくわくしてくる。わたしはガーデニングが苦手なので家の中には少しの観葉植物と、わっしゃわしゃのいとしの豆苗たちがその光を仰いでいる。

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