プラネタリウム版「宇宙の話をしよう」制作秘話 vol.3-[ミツマチヨシコ]
ここしばらくのメルマガの記事でも「宇宙の話をしよう」の中で制作した作品を使った記事をご覧いただいておりますが、今回は「制作秘話」という事で、果たしてどんな愉快なあれこれがあったのか(当人からしたら大変だったことも周りから見ると大抵面白い話だったりしますよね)、ご紹介していきたいと思います。
そもそも、今回絵を描く人が3人いる状態でうまくすみわけができるのか、そしてうまく3人の作品がなじむのか、というのが非常に心配な走り出しだったのですが、ふたを開けてみたらこれ以上なくまとまっていて、想像以上の没入感に描いた方もびっくりした作品でした。やはり、小野さんの書く物語の情熱が、インスピレーションが、子どもたちへのまなざしが、今回の作品を導いたのでしょう。
なかなかそんなふうにコラボレーションがうまくいくことはありません。誰かの負担が重かったり、誰かが意見を飲み込んで、消化不良になることもよく見聞きすることです。
これも、誰も手加減せず、出せる最大のものを出したからかもしれません。…望むと望まぬとにかかわらず。誰かの本気は他の人の本気を引き出します。多分、今回はその相乗効果が絵だけでなく他の部分でも非常によく出ていたのではないかしらと思います。
背景で苦労したのは、100年以上前だと写真などはなく、時代によっては絵画でもその時代の街はそんなに描かれていなかったりしますので、果たしてそこがどんな場所だったのか、どんな人々がどんなふうに暮らしていたのかを想像しながら描く必要があった事でした。
今のような写実的な絵がよいものとされるのは比較的近代になってからで、そこに描かれているものが本当に正確かどうかというのも色々な資料をあたり、その場所の歴史を探り、現在残っているものの中でその時代にすでにあったものはなかったかを調べ、イメージを膨らませて描く必要がありました。
それは一種のタイムトラベルのようなもので、その時代を歩くつもりで描くのは苦しくも楽しい時間でした。(ナントの街は、ジュールベルヌの子どもの頃と大人になってからでは結構景観が変わっています。建物の成立年を調べたら、ベルヌの40代ごろに建ったものが多くて、描いた後で「このころ、この建物無い!!」と気づいて、データ上であちこち削って建築中の状態に直す、というか壊す、というか…そんなこともありました)
思いがけず、私の好奇心が役に立った場面もあります。近年、「半・分解展」(DEMI DECONSTRUCTION (google.com))という、100年以上前の衣装を実際に触り、半分に切って中の構造を紹介する、というワークショップを含んだ展示をしている方がいらっしゃって、私はそれがすごく面白いと思い、良く参加していたのですが(そしてあわよくば何かで役立てようと手ぐすね引いていたのですが)ナントの街の背景を描く際、そこに暮らす人々の服装なんて想像がつかない、100年前の庶民の服なんて…と思ったところで少し前のワークショップで実際にフランス革命後から近代の庶民の服を見せていただき、解説を聞いていたことを思い出し「あれだ!!!!」とテストのヤマ勘が当たった受験生のように喜び勇んでナントの街を歩く人々を描いておりました。(ここでこっそり謝辞を述べておきます。長谷川さん、ナントの街を描くときにとても参考になりました、ありがとうございました!!)
また、5年ほど前、初めて海外旅行にツアーで行き、空港で行き先を見て泣く位、感激しながら(なぜか、私は一生海外旅行なんて出来ないと思い込んでいたのです…憧れ続けて、できないと思ったことができたという喜びは強烈でした)旧ユーゴスラビア(クロアチア、ボスニア、スロベニアのあたり)の美しい街を見て回ったのですが、その時に博識なツアーコンダクターさんにヨーロッパの街の様々なトリビア(教会の作り方、中心に来るのはどの部分かとか、入り口の段差があるかないかでゴシックかロマネスクかなど見分けられる、とか)を教えていただいたことも役に立ち、「ヨーロッパの街」というざっくりしたイメージではなく、「各場所では全く違う街のはずだから、違う色合い、違う建物を描こう」とかたくなにこだわったことがより各パートでの「旅」を楽しめるような効果を生んだように思います。結果、行ったことのない街が非常にリアリティをもって各パートで立ち上がったようで、制作中にドイツを訪れて帰ってきた西さんに「番組内のベルリン、本当にドイツだった!!」と褒めていただいて内心ガッツポーズでした。(いつか本当に行ってみたいです!!)
今回は西さんが番組制作の最初の方でたたき台としてあげて下さったシナリオから描いた(それも急がねば!!と1日ほどで仕上げた)絵コンテの初稿の一部(没になった部分)をご覧いただこうと思います。最初にあったシーンも途中で結構時間の制約その他で削ったり、あるいはちょっと足されていたり、表現が変わっていたりします。出来上がった本編とどう違うのか、プラネタリウムでご覧になった方はぜひその辺りもお楽しみいただければと思います。
(またおまけで上記記事の内容をちょっとだけ4コマ漫画にしましたので、ご照覧ください)
「宇宙の話をしよう」は、ぜひお時間を見つけてコスモプラネタリウム渋谷で、実際にドームでご覧いただければと思います。
フランス、ロシア、ドイツ、アメリカ、イギリス、そしてトラピスト1と様々な所に旅ができる25分です。実際に街を歩くような没入感と心を熱くする物語をお楽しみください。
ミツマチヨシコ
2002年から活動中の切り絵作家。水彩、漫画、動画なども作る。作風はノスタルジック。
ファンタジーとバンプオブチキンをこよなく愛している。
内なる宇宙をこの世界に持ち出し、未知なる外宇宙に思いをはせる日々。
2023年 2月号より