まだ引きこもりと言う言葉が世に浸透していなかった20年以上前に専業主婦をしているDは息子Eを亡くした。Eは幼い頃は活発な少年だった。しかし成人前に理由は分からないが部屋から出るのを嫌がる様になった。Dの夫は厳格な性格で成人前の男が学業どころか仕事もせず、日がな一日ただ自室から出ない息子を疎んだ。それが余計に拍手がかかりEは一歩も自室から出ないようになる。ただやたらと隙間を怖がっているようで窓やドアの隙間を目貼りしているのは分かった。
ある日、夫の目をよそに居ても立っても居られれず、Dは強引にEを部屋から出そうとした。食事はドア越しで渡すようにしたがトイレや風呂はどうしてるのだろうか?部屋から微かに異臭がするのが分かった。Eが食事を部屋に入れるだろう時間まで側で待つ。ドアの目貼りを剥がす音が聞こえる。その都度貼っては剥がしているようだ。
ドアが空いた瞬間、Dは強引に部屋に入った。異臭が部屋に立ちこんでいる。排泄物はペットボトルやカラーボックスに溜め込んでいたようだ。Eは部屋に入ったDに怒り狂った。彼女に手を挙げ仕切りに「隙間を作るな!部屋を閉めろ!」と家に響くほどの大きさで怒り叫んだ。あまりの怒りにDは部屋から逃げ出すと、また「ベリベリベリベリ」とテープでドアの隙間を塞いでいる音が聞こえた。
Dは泣きながらドア越しにEに呼びかけた。
部屋から出てきて欲しいと。するとEは震える声で「隙間が怖いんだ..ほっといてくれよ...」とドア越からDに話しかけてきた。
翌日は食事を置きすぐにその場を去ったが、時間が過ぎても手をつけた形跡がない。心配になり再びドアへ向かい声をかけた。全く返事がない。何か変だ。何が胸騒ぎを感じ、夫に声をかけドアを強引にこじ開けた。
ドアを開けると部屋は目貼りとカーテンで暗闇に包まれ、溜めている排泄物の臭いが鼻を刺した。部屋にEの姿はない。電気をつけ辺りを見回すと押し入れに目がいった。
胸騒ぎが焦燥感に切り替わるのを感じる。
押し入れに向かい大声でEの名を呼ぶ。
しかし反応などはない。虚しく部屋に響くだけだ。夫が押し入れを開けようとすると何かで止められ開かない。どうやらこちらも目貼りしているようだ。
力任せに押し入れを開くと「メリ..メリメリ..」とテープの剥がれる音が聞こえ中身が見える。
すると亀のように縮こまり固まって息のないEがいた。しかし顔を見ると幸せそうな笑顔をして死んでいたそうだ。その場に遺書があった。遺書の中身はD達にはおおよそ理解できない事が記されていた。それは隙間が怖い事。死ねば小さな骨壷に入れる。そうすれば未来永劫隙間から逃れる事が出来からだと記されていた。現在は納骨され狭い墓石で眠ってる。
私はそんな考えを持つ程まで隙間を恐れたEに哀れな気持ちを持つ以上に、Dに対して気持ち悪さを感じた。何故ならその話をしながら、はしゃぎ笑っているからだ。Dは話を続けた。「Eが部屋から出て来れて私はとても嬉しいの!」もしかしたらEを狂わせたのはDなのかもしれない。理由は分からないが私はそう感じざる負えなかった。
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