見出し画像

檻の中には

 よくタレントが小さいおじさんを見たなんてエピソードをテレビで話しているのを見かける。妖精や危ない薬をやった際の幻覚なんだろうとも言われているが(実際私は幻覚だと思っている)、チャットサイトで話してくれたBさんは真剣な口調で小さいオバさんならいると断言した。

Bさんがまだ小学校に入学して間もない頃だ。
彼は両親、そして祖父母と同居していた。
Bさんの故郷はとても田舎で自宅も平家の古い家だった。古くあちこち穴だらけでネズミがよく出入りしていたそうだ。

彼が赤ん坊の頃、ネズミがミルクの香りに誘われてBさん達が寝ている蚊帳に入り込み危うく耳を齧られそうになった事もあったと聞いた。そんな事で父や祖父はネズミを捕まえようと至る所に鼠捕りを仕込んでいたそうだ。鼠捕りは小さな檻の様な形でネズミを捕まえると檻ごと水に入れ溺死させて処分していた。

よく見る光景で特に残酷だとは感じて居なかったそうだ。ただある日の夕方だった。夕食前に風呂を沸かそうと風呂場へ行こうとすると隣の物置がなんだかガタガタと騒がしかった。Bさんはネズミがまた捕まったと思い祖父を呼んだ。Bさんは祖父を呼び自分は風呂を沸かしにいった。

風呂を沸かす準備を終え、物置へ向かうとすでに鼠捕りの檻はなく祖父も出て行った後だった。いつも通りネズミを処理してるのだろうと庭へ出た。すると祖父が檻を持ってバケツの中に何かを入れている。それは煮えたぎる熱湯だった。何だか酷い事をするのだなと思いつつ檻を見るとネズミではない何かが見える。

近づこうとすると祖父は語気を強めに「B!これ以上近づくな!」と叫んだ。檻の中で何かが蠢いている。目を凝らすと檻の中にはネズミほどの大きさの小さな人の形をした生き物が入っている。バタバタと手足を動かしもがいているのが分かる。日はまだ完全に落ちておらず、うっすら姿が見えた。衣服の様なものは着ていない。裸だ。ただ乳房が見え皮膚が少し赤黒く見える。そして人相は分からぬが、髪の毛らしきものも生えており白髪だ。

あまりにも異様な光景でBはただ立ち尽くす事しか出来なかった。祖父は叫んだ後、何も言わず、煮えたぎる熱湯が入っているバケツにその檻を突っ込んだ。すると阿鼻叫喚と言えるほどの女性の様な金切り声が庭にこだました。Bは思わずしゃがみ耳を塞いだ。

するといつも優しい祖父が、
別人の様に冷たく人を殺めた様な目でBを見ていた。Bは恐ろしくなりすぐ家へ入ったそうだ。しばらくして夕食の時間になり祖父は戻ってきた。


先程の話を聞きたかったが、いつもの優しい祖父の顔に戻っており、蒸し返すのが怖く言葉を飲み込みその日は寝た。翌日、庭を見てみると何かが埋められ、掘り返された後があった。それを見た祖父の顔は生きてる人間とは思えぬほど青ざめ震え怯えていた。それから数日後、祖父は亡くなったそうだ。Bが学校から帰ってきた時には、綺麗に死化粧をされ、寝室に横たわっていた。亡くなった理由を両親や祖母に聞いても未だに話を濁すばかりだ。

あれから30年以上が経つがあの日に見た小さな女の様な存在が関係あるのか未だにわからないとBは話した。


いいなと思ったら応援しよう!

夕暮怪雨@11月29日単著「夕暮怪談」発売
サポートして頂けたら、今後の創作活動の励みになります!