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私が高校卒業後、浪人時代にあった出来事だ。
浪人時代は隣駅の予備校に通い日々勉強に励んでいた。受験生は勉強が第一だ。多感な時期ではあるが私は目標の大学に受かるため友人など作らず馴れ合いなどもっての外と思いながら予備校へ通っていた。しかしある日、隣に座っていた女の子がテキストを忘れ、貸したのがきっかけで予備校で話す様になった。物静かで擦れていない清楚な女の子でサヤカと言う名だった。

予備校内で顔を合わせ話しているうちに、互いに声優の國府田マリ子さんが好きな事と、家が近所という事で帰り道に出会った時は一緒に帰ることも増えていた。しかし一緒に帰るタイミングが目に見えて増え、何だか偶然にしてはおかしいと感じた。自意識過剰と思われても仕方ないが、きっとこの子は自分に好意があるのかも知れないそう思い始めたら急に意識をする様になってしまったのだ。

気持ちは嬉しいが二人は受験生で浪人生だ。
勉強を疎かにしてはいけない。
そう自分の気持ちに釘を刺しほんの少しだが距離を置く事を決めた。
授業が終わってもすぐには帰らず自習室に籠る様にするとサヤカは自習室に入らず出口で私を待つ様になった。

何だか申し訳気持ちと若干の面倒くささも持ち始めてしまい彼女から避ける様に行動するようになった。しかしそんな私の気持ちとは裏腹に彼女は付かず離れず私の視界に入っていた。駅に向かう帰り道は数メートル後ろに。電車内は隣のドアに。今思えばストーカーに近いものだったのかもしれない。

しかしそれ以上の行動もなく、受験が終わり予備校も通う必要がなくなりサヤカに会う事もなくなった。三月、私は目標の大学に無事合格した。久しぶりに予備校に行きお世話になった先生方に結果報告をしに行った。サヤカの事が気になっていたが彼女の姿はなくホッと胸を撫で下ろしたのを覚えている。

もう予備校には通わない。サヤカとはもう会う事はないだろうと安心して自宅へ帰る。
家に入ろうとすると敷地内に置いている私の自転車のカゴにカセットテープが入っていた。
何だこれは?と手に取るとタイトルなどは書いていない無記名のテープなのが一眼でわかる。

脳裏にサヤカの事がよぎる。
自宅を知られていてもおかしくない。
おいおいカンベンしてくれよと思いつつ、まさか愛の告白か?とも思い興味本位でカセットテープを持ち帰った。自室に入りラジカセにテープを入れた。片面45分の90分テープだ。
音が流れ始めると数分無音が続く。

単なる空テープだと思い停止ボタンに手をかけようとすると何やらゴソゴソとした音が聞こえる。耳を澄ます。すると高い小さな声が聞こえてきた。叫び声の様に聞こえる。どんどん声が大きくなる。女の声だ。叫び声でない。
喘ぎ声だ。一気に気持ち悪さが高まる。
声はサヤカなのがわかる。彼女の自慰行為の喘ぎ声だけが延々とテープにおさめられていた。
この意味不明なテープ内容に血の気がひき吐き気がしたのを覚えている。サヤカらしき存在はそれから私の前に一度も姿を表していない。ちなみにB面は彼女と私が好きだった國府田マリ子さんのラジオが録音されていた。

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