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BUMP OF CHICKEN「jupiter」静かに確かに突き刺さる11の詩。耳を澄ませ。青さは未熟さではない。
2002年は筆者の音楽ジャンキー生活の中でも当たり年だった。
20代前半の筆者が40半ばになった今も何度も繰り返し聴き続ける事になるMr.Childrenの『IT'S A WONDERFUL WORLD』とBUMP OF CHICKENのメジャーデビューアルバム「jupiter」がリリースされた年だ。
それも同じトイズファクトリーから。
どうでも良い話だが、2001年10月にバンプの「ハルジオン」が、2001年11月にミスチルの「youthful days」がリリースされた時に、2曲とも超どハマりしたが、この2曲サビが何となく似てるなと思ったのを覚えている。
それまでインディーズで圧倒的な人気のあったBUMP OF CHICKENだが、メジャー初アルバムは、洗練された音で少年の葛藤と祈りを詰め込んだ寓話のような作品だ。
正直メジャーデビューの2000年からシングル曲がリリースされる毎に、音楽専門誌がこぞって彼らを絶賛している状況に、生来のひねくれ者の筆者は「悪くはないけどそこまで凄いバンドかな?」というスタンスだった。
しかしこのアルバムがリリースされCDショップの視聴器で聴いた時にそのひねくれた感情は直ぐに宇宙の彼方へと吹き飛ばされ、作品の虜になってしまうのだ。
震えるような繊細さと、宇宙に手を伸ばすような壮大さが同居し、まるで思春期の孤独を抱きしめるような温もりも感じる。
藤原基央の歌詞は、物語としての強度を持ちながら、聴く者の人生とシンクロする不思議な普遍性を持つ。
メロディは内省的でありながら衝動的、まるで夜空を見上げて心の中で叫ぶ少年のようだ。
シンプルな音とバンド編成でありながら、ドラムの一打一打に、ベースのうねりに、ギターの残響に、全ての音の配置は緻密に計算が行き届いていて、微かな哀しみと熱情が宿る。
今作は、青さと未熟さすら美しく見せる、BUMP OF CHICKENというバンドの現在に至るまでの核を確立した作品だ。
各曲レビュー
1. Stage of the ground
アルバムの幕開けにふさわしい高揚感。遠くに光る星を目指すようなギターリフ、疾走感のあるビート。歌詞には自己肯定と覚悟の物語が込められ、夢を追う者の背中を押す。
2. 天体観測
言わずと知れた名曲。夜空の下、少年が見つめたものは未来か、過去か。焦燥と希望が入り混じる旋律は、聴く者の記憶を呼び起こす。イントロのギターが鳴った瞬間、世界が変わる。
3. Title of mine
静かに始まり、じわじわと熱量を上げる展開が秀逸。自己嫌悪と再生を描く歌詞が痛切で、シンプルなコード進行がむしろ心に刺さる。歪んだギターが感情の揺らぎを増幅する。
4. キャッチボール
温かなアコースティックギターが響く、孤独と対話の曲。親密な語り口で紡がれるメロディは、失われたものへの愛惜と赦しを感じさせる。シンプルながら、心を打つ名曲。
5. ハルジオン
歪んだギターと淡々としたドラムが、無関心な都市の風景を描く。人間の弱さと、それでも歩き続けることの美しさを歌う。特に〈君がいたなら〉の一節に心を抉られる。
6. ベンチとコーヒー
儚くも優しいバラード。日常の些細な瞬間に潜む詩情を描く歌詞は、藤原の真骨頂。ノスタルジックなメロディと相まって、聴く者の胸にじんわりと染み込む。
7. メロディーフラッグ
希望と哀しみが共存するバラード。〈歌うことは難しいことじゃない〉という一節に、音楽の根源的な力が込められている。曲が終わったあとも、余韻が長く続く。
8. ベル
静謐なイントロから一気に激情へ。過去の傷と向き合うような歌詞は、藤原の魂の叫び。ギターとドラムがぶつかり合いながら、感情の爆発を描き出す。
9. ダイヤモンド
「天体観測」と並ぶ、初期BUMPの代表曲。ギターリフが突き抜けるように響き、シンプルなコード進行が力強い。〈生きる力を借りたんだ〉というフレーズが真っ直ぐに胸を打つ。
10. ダンデライオン
美しいメロディに乗せられた、優しさと寂しさ。遠い記憶を呼び起こすような情景描写が秀逸で、BUMPの持つ文学的な側面が際立つ。繊細なバンドアレンジが、楽曲の儚さを引き立てる。
11. 真っ赤な空を見ただろうか
アルバムのラストにふさわしい、静かで荘厳なバラード。生と死、喪失と希望が交差する歌詞は、まるで短編小説のよう。ピアノの旋律が余韻を残し、聴く者の心に深く刻まれる。
あとがき
今作「jupiter」は、青さゆえの脆さと、その青さを抱えたまま進む決意を描いたアルバムだ。
宇宙のように広がるサウンドスケープと、限りなく個人的な物語。その狭間に揺れる心を、BUMP OF CHICKENは真摯に鳴らし続ける。
言葉とメロディで描く、静かなる神話。