まるでカイジ。ざわざわ。『おとなの事情 スマホをのぞいたら』ネタバレ感想文
普段この手の企画物はあまり観ないのですが(オリジナル版も観てないし)、岡田惠和脚本だったので映画館へ。
結論を先に言うと、岡田惠和らしくない設定だけど岡田惠和らしい着地点の話でした。
ちなみに岡田惠和は、我が家でそのテレビドラマを必ず観る5大脚本家の一人で(残り4人は宮藤官九郎、古沢良太、坂元裕二、野木亜紀子)、「若者のすべて」(94年)以来かれこれ四半世紀超ほぼ全作観ている長いお付き合いです。映画はスルーすることが多いけどね。「まだ恋は始まらない」(95年)再放送してくれないかな。
岡田惠和の描くテーマは『そして、生きる』だと私は思っています。
月川翔監督で同名のドラマ&映画がありますが、岡田惠和脚本作ほぼ全て、何かしらの不幸を背負いつつ「それでも生きていく」ことが描かれます。ベースがホームドラマでコメディが多いため気付きにくいかもしれませんが、不幸を抱えた、あるいは不幸を乗り越えた先の物語が描かれるのです。
なので、スマホを見せ合う「ゲーム」はらしくない設定ですが、物語の着地点は実に岡田惠和らしいと言えます。オリジナル版がどうなのか知りませんけどね。
その結果、いい話なんですよ。いい話なんですけど、映画としてはどうなんだろう?
元々岡田惠和の脚本は映画向きじゃないと思うんですけどね(それ故スルーが多い)。岡田惠和脚本の魅力は「会話劇」なんですよ。しかもダラダラした(<失礼な)。
でも映画の魅力は本来、会話じゃなくて画面(えづら)、台詞じゃなくてシーンだから。
それはそれとして、やっぱりこの映画はどうなんだろう?あ、ここから悪口になりますからね。
この監督の作品を観るのは『ヒーローインタビュー』(94年)以来。エエッ!観てんのかよ俺!まあ、スワローズファンだから仕方がない。そういやこれも鈴木保奈美だったな。
でね、この映画のダメなところを、本当は一から十までダメ出ししたいところなんですが、2,3挙げつらいます。
ヒガシと恋人の写真が何枚もインサートされるシーンがあります。
そのインサートもダサいんですがそれは百歩譲るとして、その写真は誰が撮ったんだ?って話なんですよ。
これが木村佳乃とのツーショットならいいんです。誰もが羨むお似合いのカップルは「すいませんシャッター押してください」って誰に頼んでも問題ない。ところがこの映画の設定は「秘めた恋」なわけでしょ?カミングアウトすら躊躇してるわけでしょ?誰に頼んだのさ。ここはスマホ手持ちで自ら撮影した写真じゃなきゃいけない。三脚立ててセルフタイマーでもいけない。絶対に。このインサートで伝えたい状況は、単なる「楽しそうな恋人たち」ではなく「秘密の関係でも写真に残したいほど愛しあってる二人」だと思うんです。映画のリアリティってそういうところじゃないかな。「フィクションをいかに本当らしく見せるか」なんですよ。
さらに言うと、常盤貴子が田口浩正を殴るシーンがあります。そんな常盤貴子の腕をヒガシがパシッと押さえるんですね。ヒガシ格好良すぎ。だって、この映画の彼は一升瓶を落として割っちゃうようなダメっ子なわけでしょ?なにその格好いい止め方。まるで普段は昼行灯だけど実は凄腕の中村主水じゃないか。あ、ヒガシの必殺は中村主水じゃなくて渡辺ナントカなのか。じゃあ大岡越前。そんなことはどうでもいいや。
ここは止めに入ったヒガシが間違って殴られちゃうくらいのシーンでいいんですよ。ベタだけど。そうでないと素のミスター・パーフェクト感が出ちゃうし、物理的な痛みと心の痛みがリンクした方が映画的だと思うんです。
そもそもこの話、スマホを見せ合うとかノーパンだとか日本人的じゃないんですよ。イタリア人か!もっと言っちゃえば、ちっとも「大人の事情」じゃなくて幼稚な事情だしな。
(2021.01.09 TOHOシネマズ日比谷にて鑑賞 ★★☆☆☆)
監督:光野道夫/2020年 日(2021年1月8日公開)
長くなったついでに余談
「おとなの事情」という訳が正しいとは思えませんが、この映画、実はほぼ全員「シモの事情」なんですよね。考えてみればイタリアコメディには古くから「艶笑もの」が多くあるんです。いわゆるエロティックコメディですな。
しかし日本映画では(皆無じゃないけど)あまり見かけない。何故なら日本のエロは湿度が高くて重いから。その重さのせいなのか、日本映画におけるエロ(エロス)は人間性や政治性、あるいは哲学的な何かを描く道具として重宝されたように思います。若松孝二とかね。処女ゲバゲバ(<言いたいだけ)。
ライトなエロティックコメディが日本に普及するのはマンガからじゃないかな。永井豪とか弓月光とか。みんなあげちゃう(<これも言いたいだけ)。