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映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』 ぼんやりコメディ(ネタバレ感想文 )

キングオブコメディ今野とかカラテカ矢部とか、相方がやらかしちゃった芸人に仕事があってよかった。今野、そこに愛があってよかったな。
もしかするとこの監督は心優しい人なのかもしれません。

確かにこの映画、心優しい映画とも言えます。
「人が手にするのが銃ではなく楽器だったら世界はもっと平和なのに」というテーマとも受け取れます。
ある意味きまじめなメッセージ。きまじめメッセージのぼんやりコメディ。

ただ私は、つまらなかったわけじゃないんですが、トリッキーな演出が邪魔に感じたんですよね。
監督は「人間の生々しさを見せたくなかった」「感情(演技)を抑制することで余白を持たせたかった(観客に考えてもらいたかった)」と言っているようですが、過ぎたるは及ばざるが如し、ある種の「出オチ」にも感じます。
登場人物の感情を表現しないで観客の感情を動かすのって、かなり難しいと思うんですよ。

有り体に言って、これが20~30歳代の監督だったら「面白い若手が出てきたな」と思ったかもしれません。でも調べてみたら、この監督45歳なんですね。
んー、だとしたら(私から見たら若手なんですけど)、青臭いというか、頭でっかちというか。「観客に考えてもらいたい」と言う割には「何を今さら」な「如何にも」なキーワードが並んでるし。まあ、「きまじめ」の裏返しなのかもしれませんけど。

例えば、「美しき青きドナウ」とか使っちゃうあたりに「如何にも」感があるんですよね。
大砲が移動する際の楽団の「晴れ舞台」で演奏する曲とかね。NHKドラマ『阿修羅のごとく』のオープニング。今となってはネットで曲名が引けるけど、当時は曲名はクレジットされず、トルコ軍の行進曲ってことしか分からなかったと記憶しています。だって和田勉がトルコで録音してきた知らん曲を整音したって話だもん。それはさておき、「行進曲」なわけですよ。川を前に「美しき青きドナウ」。行進には「行進曲」。如何にも感。

戦場の楽団物と言えば、戦中派岡本喜八、魂の反戦コメディ『血と砂』(65年)がありますが、これなんか「聖者の行進」ですよ。サッチモが『真夏の夜のジャズ』(59年)で最後に、『5つの銅貨』(60年)ではダニー・ケイと一緒に歌ったあれです。
(『血と砂』のネタバレになります)軍楽隊の若者達が明るいディキシーランド・ジャズを演奏しながら進軍し、敵の攻撃で一人また一人と倒れ、演奏する音が次第に減っていく。悲しいシーンなんですよ。
こういう演出が映画の面白さだと思うんです。

トリッキーな演出も含め、21世紀のいま、架空の国の架空の戦争で何を描きたかったんだろう?

銃声はリアルですが(映画館の音がめっちゃ良かった)、リアルな戦闘を描きたい軍事マニアではなさそうです。
「この世界は戦いだ」ってことなら、高校生とゾンビに託して『桐島、部活やめるってよ』(2012年)が言ってますし、「悲しいけど、これ戦争なのよね」ってことだったら40年も昔にスレッガー中尉が言ってます。

青臭いと書いたものの、監督の年齢がこの映画を理解する一つのポイントのような気もしてきました。
つまり、主人公(45歳じゃないけど)が監督の「世代的ポジション」に相当すると思うんです。石橋蓮司に代表される「古い価値観」。それに疑問を感じて川を渡っちゃう「若い世代」。主人公はその中間に当たる。
似たような毎日を繰り返し、でも世界が少しずつ変化していることも自覚している。このままじゃいけないことも分かっている。そして、上の世代に疑問を抱きつつも、若者のように無茶な行動にも出られない。

もしかするとこれは、「きまじめな30~40歳代サラリーマンの心象風景」を描いた映画なのかもしれません。

ただ、サラリーマン物なら『GANTZ』(2011年)の方が上だけどね。
え?『GANTZ』はサラリーマン物じゃない?
訳の分からん不条理な指示を与えられて、それを拒否する選択肢は与えられず、ただノルマをこなすことだけが果てしなく続く話なのに?

余談
他の人が同じことを書いていて嬉しかったのですが、この映画で観客の感情を動かすのが、きたろうと片桐はいりだけなんですよ。この二人はめちゃくちゃ巧い。
そう考えると、「演技の型」として感情を剥奪するんじゃなくて、登場人物が自分で自分の感情を抑制するというのがあるべき姿だったんじゃないでしょうか。

余談2
食べ物を粗末にしがちな点が気に入らない。戦時下で最も大切なのは食料。

(2021.04.10 テアトル新宿にて鑑賞 ★★★☆☆)

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監督:池田暁/2020年 日(2021年3月26日公開)