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共感は性格なのかスキルなのか

割引あり

Empathy

共感を意味する「Empathy」は、心理学の分野で「共感性」と表現されることが多い。「共感性」という用語自体は、ドイツ美学で使われていた観察対象への自己の投影を表す「感情移入」からの由来であり、運動模倣を通して作品を理解する手段として考えられてきた(Wispe, 1986)。


パーソナリティとしての共感性

共感性は、心理学において、認知的アプローチと感情的アプローチの立場で研究されてきた。そのため、共感性の定義には、「認知的な定義」や「感情的な定義」が多い。

認知的な定義には、例えば、「他者の思考・感情・行為の中に自分自身を想像的に置き換えて、その人のあるがままの世界を構築すること」(Dymond, 1948)という定義がある。

一方で、感情的な定義には、例えば、「他者が経験しているか、または経験しようとしている情動状態を知覚したために、観察者にも生じた情動的な反応」(Stotland, 1969)という定義がある。

認知的な定義と感情的な定義を包括した定義もある。例えば、「他者の経験について、ある個人が抱く反応を扱う一組の構成概念」(Davis, 1994菊池訳1999)や、「他者のポジティブ及びネガティブな経験について、推測から理解を経て反応へ至る心的傾向及び認知能力」(鈴木他,2000)といった定義がある。

以上に説明した定義から考えると、「共感性」という概念は、共感における認知的および感情的な傾向を示すパーソナリティの一種であると言える。

共感性を測定できる心理尺度

共感性を測定する心理尺度はいくつか存在する。

対人反応性指標

はじめに、Davis(1983)の対人反応性指標(Interpersonal Reactivity Index: 以下,IRIと表記)を解説する。

IRIは28項目から成る尺度であり、共感性を「個人的苦痛」(Personal Distress)、「共感的関心」(Empathic Concern)、「視点取得」(Perspective Taking)、「想像性」(Fantasy Scale)の4側面から測定する尺度である。

  • 個人的苦痛は、「他者が抱く苦痛を観察することにより、自己に生起される不安や恐怖に囚われてしまう傾向」

  • 共感的関心は、「他者指向的な感情を喚起する傾向」

  • 視点取得は、「他者の視点にたってその他者の感情状態を考える傾向」

  • 想像性は、「フィクションの登場人物に,自分を置きかえるといった想像をする傾向」

を測定している(e.g., Davis, 1980)。

これらの4側面のうち、個人的苦痛と共感的関心は、共感性の「感情的側面」を、視点取得と想像性は、共感性の「認知的側面」を反映している。共感的関心と視点取得は、各側面における中心的概念であると考えられている(菊池,2014)。ちなみに、IRIは邦訳版もある(日道他,2017; 桜井,1988)。

多次元共感性尺度

次に、鈴木・木野(2008)の多次元共感性尺度(Multidimensional Empathy Scale: 以下,MESと表記)を紹介する。

MESは、以下の表のように,「他者指向性」と「自己指向性」に分けて、共感性に関する認知的側面と感情的側面を測定する尺度である(鈴木・木野,2008)。

図1
多次元共感性尺度の内容

MESでは、共感性に関する認知的側面として、他者指向的な「視点取得」と、自己指向的な「想像性」がある。感情的側面としては、他者指向性であり応答的所産の「他者指向的反応」(共感的配慮)と、自己指向性であり応答的所産の「自己指向的反応」(個人的苦痛)および並行的所産の「被影響性」といった、5つの側面がある。


スキルとしての共感

本記事では、「共感性はパーソナリティだが、共感は対人関係のスキルなのではないか?」という疑問を提示したい。

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