見出し画像

心理ネットワークアプローチによるソーシャルスキルの新たな視点と展望

近年、心理学の分野では「心理ネットワークアプローチ(Psychological Network Approach)」が注目を集めています。

心理ネットワークアプローチは、潜在変数モデルとは異なり、心理特性の関係性を「ネットワーク」として捉えるものです。心理ネットワークアプローチの入門書については以下のような日本語の本が出版されており、私自身もこの本で勉強中です。

本記事では、心理ネットワークアプローチをソーシャルスキル研究に活用するできるかどうかについて考察してみました。


心理ネットワークアプローチとは?

心理ネットワークアプローチは、仮説的構成概念(例:抑うつや自尊心)を単独の潜在変数として捉えるのではなく、相互に関連するノード(点)として捉え、それらの関係性をエッジ(線)で表現する手法です。

基本的な考え方

  1. ノード(Node): 質問項目や心理特性を表す

  2. エッジ(Edge): ノード間の関係性を示す

  3. 中心性(Centrality): あるノードがネットワーク内でどの程度影響力を持つかを測る指標

  4. クラスタリング(Clustering): ノードがどのようなグループに区別されるのかを分析する手法

因子分析との違い

因子分析では、心理特性を潜在変数(因子)として捉え、質問項目それぞれが、その変数を反映するものと考えます。一方、心理ネットワークアプローチでは、心理特性それぞれが相互に影響する独立した変数であると見なし、それぞれの関係性を分析します。

ソーシャルスキル研究になぜ有効なのか?

ソーシャルスキルは、他者とのコミュニケーションで用いられる技術であり、コミュニケーションスキルとも呼ばれています。

ソーシャルスキルについては下記の記事にまとめていますので、そちらをご一読ください。

ソーシャルスキルは、実生活の人間関係において、複数のスキルが組み合わさって発揮されるという複雑な構造を持つと考えられます。例えば、誰かの話を聞いているときに、相手に共感する場面を想像してみてください。この時、人は傾聴しながら共感を示すという2つのスキルを使っていると考えられます。つまり、傾聴スキルと共感スキルは相互に関連していると考えられます。従来のソーシャルスキル研究では、各スキルを個別に測定し、その合計得点を用いることが多かったですが、心理ネットワークアプローチを用いることで、次のような新たな視点が得られるのではないでしょうか。

スキル間の関係性の可視化

例えば、「共感スキル」が高い人は「傾聴スキル」も高い傾向があるという仮説があったとします。これらのスキルの関係をネットワークとして表現することで、どのスキルが中心的な役割を果たしているのかが明確になります。

中心的な役割を持つスキルの特定

ネットワーク内で中心的なノード(特定のソーシャルスキル)は、他のソーシャルスキルにも影響を与える可能性があります。例えば、「共感スキル」が高い人は、「傾聴スキル」と「アサーション(主張)スキル」をバランスよく持っているかもしれません。このような中心性の高いスキルを特定することで、効果的な介入プログラムを開発することに役立ちます。

クラスター分析によるスキル群の抽出

スキルに関するネットワークを分析することで、異なるスキル群を発見することも可能です。例えば、「関係開始スキル群」と「関係維持スキル群」に分かれる可能性があり、それぞれ異なるスキルから成り立つという特徴が見えるかもしれません。

今後の研究に対する展望

例えば、ある集団(学校や会社)にいる個人のソーシャルスキルを測定し、心理ネットワークを構築したとします。その結果、「共感スキル」と「傾聴スキル」のエッジが強く結びついている一方で、「アサーションスキル」との関係は弱いことが示されるかもしれません。この結果から、「共感スキル」を鍛えることで「傾聴スキル」も自然と向上する可能性が示唆されます。

まとめ

心理ネットワークアプローチは、潜在変数モデルとは異なる観点で仮説的構成概念を理解する手法だと思います。特に、複雑な構造を持つソーシャルスキルを研究することにおいて新たな洞察を提供する可能性があります。

今後、心理ネットワークアプローチを活用したソーシャルスキル研究が発展することで、効果的なソーシャルスキルトレーニングの介入が可能になるでしょう。

本記事が、心理ネットワークアプローチやソーシャルスキルへの理解を深める一助となれば幸いです!


いいなと思ったら応援しよう!

レンタル博士
応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!