人事の視点/日本は本当に労働力不足なのか?
こんにちは、People Treesの中谷です。先日、第5回People Trees Meetupを塩尻市で開催しました。テーマは「労働力不足」。そこで伺ったお話から感じたことを書きました。
People Trees Meetupのはじまり
2023年6月からスタートした『People Trees Meetup』。始まりは共同代表の東野と私の他愛もない会話でした。
「せっかくコロナも終わったし、何か対面の機会を創りたい」
「People Treesは所属するメンバーもお客様も人事の方。お客様とメンバーを繋ぎたい。」
「何か私たちにしかできないことって何だろう」
…ということで始めたのが“自動車会”。
People Trees(以下PT)には、東野のSUBARU・Hondaというキャリアの影響もあってか自動車業界に関わるお客様が沢山います。完成車メーカー。自動車部品メーカー、販売店、自動車教習所まで。そしてPTにも、完成車メーカー、自動車部品メーカーに所属しながら日々プロジェクトに参画してくれているメンバーがいます。自動車業界初心者の私が思いついたのは、「裾野の広い自動車業界を縦横無尽につないで、みんなで人や組織の課題、今後の方向性について語ろう!」というもの。所属企業も、業界での上下関係も年齢も越えて、オープンにフラットに議論できたら。そんな思いでした。そんな経緯で始まった“自動車会“ですが、人や組織の課題はどの業界もみんな一緒。という事で『People Trees Meetup」という名称に衣替えして、様々なテーマについて、お客様とメンバーを繋ぎ、組織や立場を越えて学び、議論する”Fun“施策に発展しました。
日本は本当に労働力不足なのか?
コロナ以降、「人が足りない」という話を聞くことが本当に増えました。働く人はどこに行ってしまたんだろう…そんな風に思うぐらい急激に人不足が顕在化し、企業の競争力を左右する重要課題として急浮上してきた印象さえ受けます。
人口が減少していく国において労働力不足は避けられない。でも、もっと日本企業は貪欲に人の獲得と活用について考えるべき、そして考えられるのではないでしょうか。
1つは生産性の問題。日本の生産性はOECDの中でも30位。(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」)思い当たることも沢山あります。会社員時代、次の意思決定の会議まで上司の判断を待つ。これは至極当たり前の部下としての作法でした。企画はできていても提案は来月の経営会議。それまでにちょっとだけ体裁を変えたり、関係者からもらったフィードバックを反映して資料を追加してみたり。でも、これって本当に必要な時間だったのか?何しろ「待機時間」が長い。もっとこの時間を価値創造に使っていたらどんなに色々なチャレンジができただろう、そう思います。
もう1つ。私の周囲にはパートナーの仕事の都合で退職・休職している女性(残念ながら多くは女性)が沢山います。学生時代机を並べて勉強してきて、彼女の方がずっと優秀だったのに!かつては一緒に120%働いていたのに、そんな人たちばかり。でも日本企業の雇用の枠組みは彼女たちにはマッチしていません。場所の制約・時間の制約、そしてそもそも先に書いたような「待機時間」を経て提案を通していく仕事のスタイル。そんなことに時間を使っていたら、限られた時間の中で成果を出すなんて無理。時間や場所の制約が圧倒的に不利になる働き方。こんな慣行を変えて、もっと制約を持った個人が企業活動に参画することができるようになれば、この国は眠っている優秀な戦力に溢れている。そう思います。
短時間でも働ける人を最大限に活かす ~塩尻市「KADO」の事例~
そんな問題意識を胸に、長野県塩尻市で短時間でも働ける方々を活かし、仕組み化して成長する塩尻市振興公社「KADO」という組織あることを知り、訪問をさせて頂きました。長野県塩尻市は人口66000人の宿場町としてかつて発展してきた町。人口が減っていく、仕事も減っていく、そんな中で「KADO」は2010年にスタートし、現在は子育て中のお母さんなど時間に制約がある方を中心に約400人が働く組織として年々成長を続けています。今回はKADOの成長と価値創造の立役者、塩尻市商工観光部先端産業振興室の太田幸一さんにお話を伺うことができました。
「KADO」は、行政が関わる機関でありながら(太田さんご自身も塩尻市役所の職員)民間の要素を大いに持ち、様々な仕事を受注し、働きたい人達に雇用と職場を提供するモデルです。行政がやるからこその社会的な目的(例えば「ひとり親家庭の支援」や「雇用創出」)を持ち、未経験の人に仕事を任せて育成して、社会に還元していく、そんな役割を果たしています。自動運転に必要な3Dマップを作成したり、文部科学省が掲げる「GIGAスクール構想」を実現するために学校にお母さんたちが訪問して、タブレットのセッティングをサポートしたり、オンデマンドタクシーの手配とオペレーションを受託したり。多岐にわたる業務を遂行するためのマネジメントスタイルは柔軟で最先端。未経験の人達がチームで相談しながら最適なオペレーションを構築し、課題解決に必要なITスキルや課題解決スキルを身に着けていくそうです。
しかも働くオフィスは商業施設内にあって託児所や図書館が隣。10分でも惜しい子育て世代の方にとっては、通勤時間0、待機時間0。快適なITの仕組みを有する職場で、持てる時間の全てを価値創出に使い、知識と経験、収入を得ることができる。複数ある課題を統合的に解決する、本当に素晴らしい仕掛けだと思いました。
<KADOの特徴>
●仕事を受け、時間単価で働く個人に発注。短時間でも働き、貢献できる仕組み
●未経験の人を採用し、育成し、社会に還元する人材育成プラットフォーム
●管理型にせず、ボトムアップのコミュニケーションを重視することで、主体的な問題解決とプロセスの継続的なアップデートを実現
●職場が商業施設内にあり、託児所・図書館を併設。子育て世代の負担を軽減
海外人材の活用 ~ハロージャパン協働組合の事例~
続いてお話をお伺いしたのは、技能実習生を受け入れる監理団体ハロージャパン協働組合の水口さん。日本企業に対して主にアジアから技能実習生の人材紹介・入社後のサポートを行う中での実態や課題感についてお話を伺いました。
給与面でいくと既に韓国、ドイツには勝てない日本の労働環境。その中でも日本を選んでくれる技能実習生は「親がかつて日本で働いていたから」「安心・安全・優しい」という印象があるからということで選んでくれているという事でした。かつては韓国や中国、タイから来ていた実習生の出身国も、それらの国の経済力が高まったことで、ベトナムやインドネシアに変化しているとのこと。より日本から遠い国、国の中でも都会から田舎へと変化してきているようです。
かつては「Japan As No1」と言われた日本、今は働く場所としても、技術を学ぶ場所としてもその魅力はどんどん落ちているんだなという事を改めて実感するセッションでした。
労働力不足の解消に向けて
「労働力不足」をテーマにした第5回、まだまだ優秀な人材の獲得と活用についてやれることはあるという手応えを感じました。
「KADO」の事例から学んだのは、眠っている優秀な労働力がまだまだあるはずだという確信。受け皿となる企業側、マネジメントを担う1人1人が既成概念を壊してもっともっと貪欲に「人を活かす組織」にどうやったらなれるのか、何を捨てて何を創る必要があるのかを考えなくてはいけないという事でした。
「ハロージャパン協同組合」の取組みから感じたのは、日本は働き手から「選ばれない国」になり始めているという危機感。もっと多様な戦力(例えば技能実習生)とより良い事業を営むことができれば更なる企業成長、国の成長も見えてくるはず。日本の外に出て、外から見た自分たちの強みと課題が何かを知り、日本の企業を、組織文化をもっともっと魅力的なものに磨き上げる必要があると思いました。
~「People Trees Meetup」の今後~
充実した学びと議論が詰まった第5回を終えて、人と組織について人事の方が学べる、議論できる場を何としても創り続けたいと思いました。場があれば、みんなで知恵を絞って考えることができる。人・組織に関するインプットとアウトプットができる“Fun”な場,
『People Trees Meetup』の今後の展開に期待してください!