映えるNIPPON
ようやく緊急事態宣言が明けたものの、この1年ちょっとですっかり出不精になった。去年は思うように美術展に行けないのが本当につらかったのに、すっかりぐうたら生活に慣れた。それでも美術館でチャージする何らかを保てているのは、アクセスのよい場所にある府中市美術館のおかげだと思う。近現代の、特に府中を含む多摩エリアにゆかりの作品の所蔵が多い同美術館は、私のストライクゾーンからは本来外れている。けれども程よく空いていて過ごしやすい空間で、展示を見ているうちに、興味深い作品に出合い、画家の名前を新しく覚えるようになった。
今、開催中の「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」でも、川瀬巴水の美しい新版画、吉田初三郎のユニークにデフォルメされた鳥瞰図などの、新たな楽しみを見つけた。川瀬巴水はちょっと前まで平塚美術館で企画展があったらしい。府中市美術館では10点弱だったので、以後機会があればまとめてみてみたい。そして時間が足りないほど見てしまうのが、吉田初三郎の作品だった。横幅4m、縦も1mくらいはあろうかという神奈川県鳥瞰図(TOP画像はその一部。外看板を撮影)には100年くらい前、まだ中華街もない横浜、今も名所が変わらない鎌倉、箱根などが細かく描かれている。桜色で着色しているところは桜の名所、魂が抜け出たような白いぽわぽわがあるところは温泉なのもかわいいけれど、なんといっても特徴的なのが、神奈川県を書いているのに芦ノ湖の斜め上に遠く地名が続いていて、「門司」まで描かれているところだ。元神奈川県民としては、住んでいた地域、昔使っていた電車の路線などを追うだけで楽しい。
これはだれかと分かち合いたかった。ということで、さっそく高校の同級生Sに、チラシと、本展のおまけである初三郎の別の作品を基に作られたすごろくなどをもらって手紙と一緒に送る。極力折りたくないためA4サイズの透明封筒に入れたらDMのような体裁になった。他の広告などと一緒に捨てられてしまわないことを願う。ちょっと変わった郵便物なので失礼に当たらないか迷ったけど、山と鉄道が趣味で文化財や美術にも造詣の深い元上司Mさんにも、結局チラシとすごろくを送ることにした。本展のテーマとなっている時期は、国立公園が制定されたり鉄道が開通して旅行のプロモーションが活発で、自然豊かな油彩画や観光ポスターなどの展示も多数あり、Mさんなら目の前の作品と旅の思い出を重ねて素敵に鑑賞されるだろうなあ、と何度も鑑賞中、心をよぎったのだ。美術館の楽しみ方の豊富さには自信があるけれど、展覧会全体をイメージする人を想う、というのは新たな発見だった。あまり迷惑にならずに、ちょっとでも楽しんでもらえたらいいな、とほんの少しだけ期待する。というわけで、チラシもそうだけど、すごろくをたくさん持ち帰るわけにはいかないので、厳選して2部ずつをもらって帰った次第。