見出し画像

人に向き合う - 組織崩壊から上場まで、グッドパッチでの3年間

■はじめに

2017年7月にグッドパッチに入社してから、丸3年が経ちました。グッドパッチは2020年6月30日に東証マザーズに上場することになりましたが、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした…というか大変でした

何でもオープンに語るグッドパッチなので「今だからこそ言える話」はそんなにないかもしれませんが、個人目線でいろいろ振り返ってみたいと思います。
(※長いのでお時間のある時にご覧ください)

■崩壊時の組織

「うち、今組織がヤバい状況です…」

2017年夏、私は初めての転職活動をしていました。新卒で入社し丸10年勤めた会社はいつしか大きくなり、もっと小さくて手作り感を感じられる会社で挑戦したいと思ったのです。

社長の土屋との面接は見極めというよりは当時のグッドパッチの組織課題についてのブレストのような感覚で、本来私がアピールすべきところ「うち、いま組織がヤバい状況なんです…」と面接官が悩みを語る場に。みんなが閲覧できる場所に経営を批判するポストが投げ込まれたとか、チームが全員辞めてプロダクトがリリースする前にお蔵入りしたとか、小規模な会社ではよくあることとは言え、学級崩壊のような荒れた話の数々。「まだ入社するかどうかもわからない人にそこまで言っちゃいますか!」というレベルのぶっちゃけ話がてんこ盛りでした。

画像9

「1時間ではよくわからないのでもう1回来てもらえませんか?」とその場で言われ、2度目の面接の後も「現場の役員にも会ってほしい」ということだったので判断に悩んだものと思われます。それもそのはず、社内の信頼関係が壊れ、何を言っても炎上するような会社に誰を入れれば良くなるのかなんて確信を持って判断できるわけがなかったのです。

聞いてた以上にヤバかった

ヤバいヤバいと言われながら入社してみて感じたことは、やはり「ヤバい…」の一言に尽きます。「ちゃんとできてるじゃん!」という部分はほとんど見つからず、どこを見回しても問題だらけ。

・社長に信頼できる相手がいない
・マネジャーのエンゲージメントがメンバーより低い
・週1くらいで揉め事が発生し、経営会議の話題はいつも火消し
・予実の精度が低く、売上未達が当たり前
・取締役会での事業報告がダメダメすぎて株主に怒られる
・人事制度に納得感がなく、評価のたびに人が辞める
・評価じゃなくても毎月人が辞め、離職率40%
・幹部候補を立て続けに採用するが、立て続けに辞める
・みんなが会社のことより自分のことを考えている

…などなど、あげつらえばキリがありません。「前職、いい会社だったんだな…」と転職して早々に噛み締めることになります。

旗を立てる

グッドパッチに入社して初めに感じた課題は、社長が社長として時間を使えていないということでした。当時土屋が大学生インターンと一緒になってブログのネタ出し会議に毎週1時間使っているのを見て「うわぁ…」と思っていたのがもはや懐かしいです。

当時は社内の半分以上の部門の長を土屋が兼務している状態。何でもかんでも土屋に相談しないと進まず、カレンダーは常にパンパン。アシスタントが「CEOの時間の使い方」なんて分析をして改善に努めていましたが、事態は一向に良くなりません。結局のところ、社長が安心して背中を預けられる人がいない領域が社内にたくさんありすぎるのが問題だったのです。メンバー同士の人間関係がこじれたときの仲裁役まで全部社長。社長を社長として機能させられていない状況です。

土屋自身も反省談として語ることが多いのですが、これは組織が50人を超えるまでワントップ体制を維持し、マネジャーの採用や発掘・育成が遅れたことが一因です。

画像10

土屋とは「リーダーの仕事は旗を立てること」という話をよくしていました。組織の向かうべき先を決めて仲間を鼓舞することがリーダーのすべきことであり、旗さえ立てれば仲間がそれを実現する組織づくりをすべきだと。それ以来、とにかく土屋が直接関与しなければならない領域を減らすことに腐心しました。

一方で、社内外へのメッセージングに関しては創業社長の言葉に勝るものはなく、土屋の圧倒的な強みでもありますので、ここはむしろ積極的に影響力を発揮してもらいました。

今でこそ土屋は冗談めかして「僕ヒマなんで!」なんて言ったりしますが、やはり社長は未来のことを考える時間を確保し、旗を立てる存在であるべきだと思います。

内閣官房長官

経営チームの一体感のなさも気になったポイントでした。優秀な人材が集まってはいたのですが、社長との信頼関係が全くできていなかったのです。

前職の新規事業開発部門で事業部長の右腕的な役割を担ったとき「お前は内閣官房長官だ!!」と言われたことを思い出しました。

「ないかく…かんぼう…ちょうかん…。」

今にして思えばわかりやすい例えですが、3年前のグッドパッチに足りなかったのは懐刀としてリーダーを支える存在だったと思います。首相が方針を発表した後に官房長官が「いやー、アレぶっちゃけ無理だと思うんだよねー。」って言っちゃう、みたいなことが普通に起きていたわけです。そんなことが起きれば「この内閣ヤバない?」となって当然。事実、当時の組織課題の中で特に大きかったのは「経営陣に対する信頼の欠如」でした。

画像11

ファーストペンギンは2番目に飛び込むペンギンの存在によって初めてファーストペンギンになるという話があります。ドラッカーは「リーダーについて唯一言えることは、フォロワーがいるということだけである」という言葉を残していますが、優れたリーダーは優れたフォロワーによって生み出される側面があると思います。最終的な意思決定を行うまではとことん議論し、納得できなければ反対意見も述べますが、最終的には「社長が腹括ってんならオレもやる」という気概が必要だし、決まった以上、少なくともメンバーの前では推進者として振る舞うべきだと思います。個人的にはこれができない人材にタイトルを付けることが若い組織で「やっちゃいけない人事」の典型だと思います。

もちろんこの3年でバージョンアップしていますが、土屋の考えや言葉の根底にあるものは実は当時からそんなに変わっていません。変わったのは組織です。フォロワーたちの共感が高まることで、リーダーの言葉は何倍も強くなっていったのです。

混乱期の採用

3年前のグッドパッチは私のようなノンデザイナーのキャリア形成の観点では決して魅力的な環境ではなかったように思います。とにかく普通のことが普通にできず、トラブルも多かったのでマイナスをゼロに戻すことにばかり時間を取られて、価値を生み出している感覚に乏しいのです。ある外部パートナーにそれを話したら「うわぁ…芯食っちゃってるじゃないですか…」とドン引きされたのを思い出します。

グッドパッチには私より優秀な人材がジョインしてくれることも何度かありました。スキルも実績も魅力的で、器用貧乏が悩みの私からすると憧れさえ感じさせるような人たちです。しかし鳴り物入りで入社した人々はすぐに会社を去ってしまいます。優秀な人材にとってはわざわざ荒れた環境で時間を遣う意義を感じられず、早々に見切られてしまったということなのかもしれません。

規模が小さく未熟な会社は華やかな経歴を持つ人に興味を持ってもらえたことがうれしくて、カタログスペックで採用を決めてしまう部分があると思います。しかし足元が固まっていないフェーズで本当に必要なのは、たとえトラブルの処理とかケンカの仲裁に追われる日が続いたとしても、いつか長い夜が明けることを信じて戦い続けてくれる人なのではないかと思います。

…と言いつつ、そんなステキな人には滅多に会えません。多少環境が悪くても簡単に辞めないで戦い続ける人たちなのでマーケットに出てこないんだと思います。再現性を持って採用するのは簡単なことではないと思いますが、当時土屋がやっていたのは「いいことも悪いこともありのままに話す」ということでした。

画像5

グッドパッチがお世話になっているキャリアデザイナーの松尾さん「『良い会社』に惹かれる人には実は馬力や底力がないことが多くて、むしろ微妙な部分や課題に対して腕まくりしていける人のほうがパワフルで魅力的です。」「いい会社にならないでくださいね!」とエールを送ってくれました。

実は今のグッドパッチを支えるマネジメントメンバーの多くはそんな松尾さんが組織崩壊時に送り込んでくれた人材だったりします。以来、土屋も私も面接の場では会社の魅力だけでなく、むしろ課題の部分を意識してお伝えするようにしています。

上がらないエンゲージメントスコア

※エンゲージメントスコアはリンクアンドモチベーション様のMotivation Cloudで測定しています

私が入社して半年~1年くらい経つ頃にはミドルマネジメント人材が増え、会社の雰囲気も少しずつ変わっていたのですが、社内のエンゲージメントスコアは一向に上がりませんでした。グラフは右肩上がりに見えるんですが、実はスコアが高いヨーロッパが途中で加わって全体平均を押し上げただけで、東京オフィスのスコアはほぼ上がっていなかったのです。

画像3

(このあたり)

「まずは経営がエンゲージメントスコア向上にコミットしよう」ということで数値目標を設定していろいろ施策もやりましたが、結果が全然付いてきません。この時期は何をやっても手ごたえがなく、前も後ろも見通せないトンネルのど真ん中という感じでした。

この頃、土屋は私たちを外部のセミナーやカンファレンスに連れ出してくれ、エンゲージメントスコアが高い会社に学んでインプット量を増やしていました。「実際に結果を出している会社があるんだからオレたちにだってできるはずだ」と。

もちろん表面的に他社を真似するだけでは上手くいかないんですが、外部の成功事例に触れてあれこれ議論をするうちに経営チームの目線が揃ってきましたし、何より「いつか絶対登壇する側になろう」という意志を共有できたのはよかったことですね。

後から振り返って思うことですが、従業員エンゲージメントは瞬間的な感情ではなく、ゆっくりと積みあがっていく会社への信頼や共感です。短期集中で手数を増やしても効果が出るのはしばらく先なのです。さらに、上辺だけの派手な施策は全然効かなくて、地味でも従業員の顔を思い浮かべてやったことが効くのが難しくもおもしろいところです。

スコアが改善し、登壇する側になるという志が現実になるのは約1年後のことでした。ちなみにこのトンネル期間中、私は「成果出してなくね?」という目を向けられることもあり、自分の存在意義にほんのり不安を感じていたりもしました。

■転機: コアバリューの再構築

グッドパッチの組織が大きく改善するきっかけになったのはこのできごとだと思っています。それまでもコアバリューに類するものは存在していましたが、決して浸透しているとは言えない状況。せっかく作った理念が形骸化している会社は決して少なくないはずです。

チームが全員と共有する理念・目標・コンセプトを言語化することは極めて重要です。仮に全員がわかっている状況だとしても絶対に実施すべきことと断言できます。個人の行動の積み重ねはやがて習慣となり、それが個人レベルから組織レベルに昇華されたときに文化を形づくっていきます。文化を作る第一歩は個々の意識や行動への働きかけから。実際に行動が発生することが重要で、理解しているだけでは不十分です。

画像9

(グッドパッチのコアバリューはこちらの5つ)

そもそもコアバリューや行動理念がそんなに奇抜なものになることは少なく、よく読めば「まぁ、当たり前っちゃ当たり前だよね」というものばかり。それ故にわざわざ口にしたり行動に至るにはキッカケが必要なのです。

画像6

(オフィスにはこんなサイコロもあります)

コアバリューとは「この組織に所属するメンバーの価値基準・行動規範」ですが、再構築で得られた最大のメリットは「この舟の漕ぎ方」を明確にできたことだと思っています。スポーツで言えば「このチームのプレースタイル」でしょうか。言語化によって社内にも社外にもクリアなイメージが伝わるようになります。

残念なことに「自分には合わない」ケースも明確になるので、そう感じた人は会社を辞めたり選考を辞退することになります。一見悪いことのように見えますが、実はそれが何より重要です。漕がない人は舟に乗るべき人ではないのです。

コアバリュー再策定の後も離職率はしばらく高止まりしていましたが、やがて離職は止まります。そこまで辞めなかった決めた人の会社への共感度は高く、一度離職が止まってからは組織の一体感は飛躍的に高まっていき、エンゲージメントスコアも大きく上昇していきます。この頃には採用をコアバリューに基づいて実施するようになり、新しく入ってくるメンバーの共感度も高い状態でした。

ちなみに、FY2019に40%あった離職率はFY2020に8%まで改善しています。

※コアバリュー再策定についてはこちらの記事もオススメです

■復活後の組織

混乱時の話の方がおもしろいかもしれませんが、一応書いておきます…

人に向き合うマネジメント

画像7

組織崩壊から復活する過程で、私たちが学んだのは人に向き合うことでした。デザインの根底に他者への共感があることもあってか、グッドパッチのメンバーは役職や年次を問わず、人に向き合うことに対するリスペクトを強く持っているように思います。

組織の混乱期には鬱屈した感情を抱えながらも実は会社のことが好きなメンバーが多くいました。ただその表現のしかたはそれぞれで「爆弾投下による問題提起」みたいなやり方が取られたりすることもありました。不必要に人を傷つけるやり方は断固として受け入れられませんが、それでも心の奥底では「この会社を良くしたい」と本気で思っていたりします。

「人に向き合うことから逃げないマネジャーでいよう」というのが当時経営チームが議論し、明文化した内容です。もちろん個人の希望を全て叶えることは難しいですが、せめて目を背けずに向き合う意思を持ちたいと。

このスタイルが成立する要因のひとつは現場トップのマネジメントへのコミットが圧倒的であるからだと私は思います。

画像4

(デザイン部門を統括する松岡)

松岡はグッドパッチの主要事業である日本のデザインパートナー事業を率いる役員ですが、マネジメントに関する引き出しとハンズオンの経験が非常に豊富です。メンバーの状態について気になることがあれば直接1on1を実施しますし、普段からイベントやサロン、書籍などによる人事関連のインプット量も多くマネジャーの育成にも積極的です。一方、ひとりのパパとして家族を大切にするグッドパッチのカルチャーを牽引する存在でもあります。彼が部門トップであり、人に向き合うことにコミットしているが故に配下のマネジャーも同じスタンスを共有できているということを強く実感しています。

「売上さえ上がってりゃいいじゃん」というスタンスの現場責任者もいると思いますが、それでは短期の数字はつくれても文化はつくれません。

People Experience

コアバリュー再策定後、私が管轄する経営企画室に"People Experience"の名を関する組織を設立しました。これもグッドパッチらしいできごとだったと思います。主に従業員体験の向上を目的としているのですが、従業員だけでなくそれ以外のステークホルダーも大切な存在だということで "Employee Experience" ではなく "People Experience"という言葉を選択しました。

このチームは主に社内広報と呼ばれる領域を中心に活動しており、全社集会や交流会などの社内のイベント運営、コアバリューの浸透活動、オンボーディングなどを実施しています。また組織図上、人事部門と極めて近い位置付けにして一部ミッションを共有しているところもポイントです。「採用→オンボーディング→リテンション」を通じて入社者に一貫した体験を提供し、エンゲージメントを高く保つことを目標にしています。

このチームの強みは良い体験を提供することへの圧倒的なこだわりに尽きます。通常、バックオフィスに対しては「官僚的なヤツらの集まり」みたいにどこか冷めた目が向けられることも多いのですが、「みんなにいい体験を提供したい!」という本気度が伝わるとそうならないのです。

画像9

先日社内限定で行われた上場セレモニーも、People Experienceチームが中心となって企画を進め、普段はクライアントのパートナーとしてブランディングを支援しているBrand Experienceチームとコラボして準備をしてくれました(舞台裏はこちらで読めます)。

経営企画室には大切にしているコンセプトや理念がいくつかありますが、その中のひとつに "We are all Designers." つまり「我々は誰もがデザイナー」というものがあります。デザインは何もデザイナーだけに許された行為ではありません。人事であれば「組織デザイン」や「キャリアデザイン」、広報であれば「コミュニケーションデザイン」など、デザインの力はあらゆる領域で有効です。

縁あってグッドパッチの仲間になってくれたメンバーの体験もまたデザインの対象だと私は思っています。

人材成長カンパニー

人材成長カンパニーという言葉は「この会社の強みは人であり、人に投資することがグッドパッチの戦略である」と全社集会で土屋が語ったものです。

経営者のマネジメントスタイルは十人十色ですが、土屋のスタイルはトップダウンとは対極的なもので、彼が最も重視しているのは「意志」であるように感じられます。逆に言えば、どんなにロジックが正しかったり数字の説得力が強くても意志が伴わないものには共感しないというスタンスです。

グッドパッチ2019年にReDesignerGoodpatch Anywhereという2つの事業をほぼ同時期に立ち上げましたが、土屋が責任者に選んだのはマネジメント経験のない2人のメンバーでした。重大なミッションに2人とも相当苦労していますが、逃げられない状態で難局に向き合う以上の機会はなく、それまでよりも明らかに成長しているのが見て取れます。ビジネス面でも両事業はそれぞれがグッドパッチのポートフォリオを担う存在になりました。これらの事業なしに今のグッドパッチを語ることはできず、IPOもなかったかも知れません。

画像1

(8周年の全社総会でふたりの事業責任者がMVPをダブル受賞!)

土屋は普段から社員一人一人を相当気にかけていて、役職を問わず個人のために投資する時間が非常に多いと思います。それを非合理と考える経営者もいると思いますが、グッドパッチではトップと直接会話する機会が多いが故にトップの言葉を自分の言葉にできるメンバーが多く、結果として社長や広報だけでなく個々のメンバーが会社のストーリーを自分の言葉で語る「ナラティブ型」のカルチャーが生み出されていると思います。

今後も意志ある人材には積極的に機会が提供されることでしょう。

まとめ

個人の目線で入社してからの3年間をまとめてみました。あらゆるシーンで人に向き合うことから逃げないことがグッドパッチの今日を作る軸となっていたのだと振り返っています。

たまには自分のことも書いてみたいとも思ったんですが、結局自分ひとりでできたことなど何ひとつなく、優れた仲間に恵まれたことに感謝するばかりです。グッドパッチのみなさん、素晴らしい3年間をありがとうございました。会社はこれからですから、引き続きよろしくお願いします。

これから

何とか上場を果たしたものの「デザインの力を証明する」というミッションの実現に関してはスタートラインに立ったに過ぎません。

私個人はこれまで内部に多くの時間を遣ってきましたが、今後は積極的に外に出たり、事業開発にも注力したいと思っております。上記のミッションに共感いただける企業のみなさま、業務提携やパートナーシップの締結などについてお話しできればと思っておりますのでぜひご連絡ください。

また「いい会社に入るよりも、やりがいのある課題に向き合いたい」とお考えのみなさま、ぜひ今後のキャリアにグッドパッチをご検討ください。


今後ともグッドパッチをよろしくお願いいたします!


いいなと思ったら応援しよう!