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わが家のトーク量の95%を独占していた妻が、入院で不在になったときのこと

 妻の乳がんの手術は、無事に成功した。
 とはいえ、その後も10日間ほど入院を余儀なくされていたため、僕と息子は、そのあいだは二人きりでの生活が続いていた。

 ところで、うちの妻は、とにかく存在感が大きい(もちろんいい意味で)。おそらく僕のXやnoteを読んでくれている方なら簡単に想像がつくと思うが、その理由の一つは、とにかく”よく喋る”からだ。

 わが家のトーク量のほとんどを担う妻。
 そんな妻がいない日々を、僕と息子が二人きりでいかにして乗り切ったのか、――今日は、そんな話をしようと思う。

*****

 うちの妻は、とにかくよく喋る。
 妻が入院する前、そして抗がん剤の治療で体力が落ちる前の全盛期で言えば、わが家におけるトーク比率の95%を妻が占めていたイメージだ。
 もし日本で家庭内のトーク量にも独占禁止法が適用される日が来たら、真っ先にしょっ引かれてしまう量である。

 残りの5%を、かろうじて僕と息子のコトくんで分けあっていたのだが、それももう過去の話だ。
 最近は、息子も学校でのエピソードを話したい気持ちがむくむくと湧き上がっているようで、妻がトーク中の息継ぎで話が途切れた瞬間に、「そういえば今日、ぼくはね」とマイクを積極的に狙っていく。

(もちろん、妻もまだ話し足りないときは、ひと通りコトくんのトークが終わったところで、「で、さっきの続きね」とマイクを奪い返したりする。)

 こうなるともう、僕は二人のトークにあいづちを打つことで精いっぱいである。

 ほうほう。
 なるほど。
 それでそれで。
 あっはっは。と、まぁこんな調子だ。

 ちなみに、うっかり適当な返事をしようものなら、二人から「「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」」と責められてしまうので気を抜けない。

 ちなみに、僕がお風呂に入っているときや歯磨き中なんかも、妻は「あのね、それでね」とお話しにやってくる。

 そしてようやく妻が1日分のトークを出し切って満足げに立ち去ると、今度はコトくんが「宿題の音読を聞いてくださーい」と教科書を手に脱衣場にやってくるのが、僕にとっての楽しい楽しい日常なのであった。

 と、まぁこんな感じで”沈黙は金”をモットーとし、とにかく聞き役に徹する(と言えば聞こえは良いが、実際のところ自分からしゃべることが苦手な)僕にとっては、これが、ベストなバランスだったのである。

*****

 だが。
 妻が10日間ものあいだ入院で不在になったことにより、我が家のこのトークバランスが、一気に崩壊した。

 夕食中に、コトくんが小学校でのエピソードトークを話し終えて満足すると、キラキラとした瞳で、「パパ、なにか面白いお話し、して?」と無茶ぶりをしてくるようになったのである。

「だって、ママはいっつも面白いお話し、してくれたから」
「パパの話し? でもパパ、ずっとおうちでお仕事してたからな……。いつもどおりだったよ。それより、コトはどんな一日だったか教えてよ

 なんて、そんなつまらない返しで間がもったのは数日ほど。
 ママが楽しそうに話すから、コトだって一生懸命に話そうとしていた訳で。
 それをただ、自分のほうは「パパはいつも通り」の一言で済ませておいて、「コトの話を聞かせてよ」と言ったところで、息子だって話しがいがないのだろう。

 もはや息子の瞳からは期待の光は消え去り、「ママはいつごろ帰ってくるかなー。パパも、ママのお話しを聞きたいよねー」なんて、そんな風に言うようになってしまったのである。

*****

 妻がいないだけで、わが家のトーク量はずいぶんと減ってしまった。
 夕食中も、すっかり静かな食卓になってしまったのだが、そんなある日、静かにご飯を食べていたコトが、ぽつりとつぶやいた。

ねぇパパ。今日あったことじゃなくていいからさ。なにか、ママのお話しをしてよ
「え?」
「ぼくが赤ちゃんのときのお話しでもいいからさ」

 なるほど。
 ママのお話しということであれば、僕の得意分野だ。
 それこそ、本だって1、2冊、書けちゃうくらいのエピソードが溜まっているわけである。

「じゃあ、コトくんがまだ、ママのお腹の中にいたころのお話しだけど」

と、こんなお話しをすると、コトは目をキラキラさせて「もっと!もっと!」と言ってくる。

「え、じゃあこんなのは?」

「え、そんなことある? おっちょこちょい?」
「あるんだよ。おっちょこちょいなんだよ。あ、あと、今日のご飯はおうどんだけど、コトくんが小さいときに、こんなことがあったよ」

「そうそうあった! ぼく覚えてる!」
「え? 覚えてる? マジで? じゃあこんなお話しは?」

「ママのお話しじゃないじゃん! ぼくのお話しじゃん!」
「君もなかなかどうして、おもしろエピソードに事欠かない赤ちゃんだったんだよ」

 なんて、お話しが下手な僕も、こんな風に「今日あったこと」ではなく、「いままで、妻や息子と過ごす毎日を過ごす中で、パパとして嬉しかったこと」を話そうと思えば、いくらでも笑顔あふれるエピソードが出てきて。

 たぶん、きっとこれからの未来にも、――僕ら家族がみんなで笑顔になれるエピソードが、たくさんたくさん、あふれてくるに決まっているのである。

あとがき

というわけで、今回は”X(旧Twitter)をやっててよかったな”というお話しでした。
今回も、いつもの「購入しなくても無料で全部読めます」の設定にしていますが、よろしければ、僕たち家族が、この「病めるとき」を無事に乗り越えられるよう、コーヒーを一杯飲んだつもりで、購入やサポートでお力添えいただけますと、大変うれしく思います。

もちろん、”いいね” や ”スキ” 、拡散だけでもありがたいです!
どうぞよろしくお願いいたします。

2024年10月 ぺんたぶ

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