妻が“がん”と告知されたとき、夫があれこれ考えること
「病めるときも、健やかなるときも」――
そう誓った日から10年が経った、とある冬の日。妻が突然、「胸にしこりがある気がする」と言い出した。
2人で力を合わせて闘う日々が始まった、そのとき。
夫である僕が考えたあれこれについて、今日は話そうと思う。
■ はじめに~前回の記事のお礼など
前回の記事 ”あの日誓った「病めるときも」が来てしまった話” は、全文を無料で読めるようにしていたにも関わらず、購入やサポートをいただき、本当にありがとうございました。
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【1】 夫は、まったく仕事が手につかない
妻ががん検診を受けたクリニックが出してくれた紹介状は、都内有数の大病院に宛てたものだった。予約用の電話番号に連絡すると、幸運なことに、一週間後に空き枠があるそうで。
「やっぱりこのしこりは、がんなのかな。がんだとしたら、ステージはいくつかな」
「考えてもわからないし、何より、そもそも僕は”勘違いでした”ってなる可能性もあると思うよ」
そんなやり取りを毎日のように繰り返した一週間を経て、妻と一緒に病院に向かう。妻の前では平静を装っていた僕だが、実際のところ、この一週間は仕事中もまったく業務に集中できなかった。
診察を受ける日は、久々に休みを取る。
もしも悪い結果なら、そのまま妻と一緒に説明を聞ける。
良い結果なら、そのままデートに切り替えて、「心配して損したね」なんて2人で笑って話しながら、美味しいものでも食べて帰ろう。
自宅の最寄り駅からメトロに揺られること、だいたい30分くらい。
都内での有数の大病院は、リニューアルされたばかりということもあり、まるで高級ホテルのような佇まいだった。
「なんかドラマに出てきそうな病院だね! 『財前教授の総回診です』とか始まりそう」
「よりにもよって、なんで白い巨塔で例えるのさ。がんに関しては縁起の悪さトップクラスのドラマでしょそれ」
そんな会話をしながら、ひと通りの検査を終え、診察を待つ。
「がん、ステージいくつかな。やっぱり最悪のステージかな」と、ずっと弱気な妻。
メトロでの移動中にちらりと見えた妻のスマホの検索履歴は、がんにまつわるキーワードでいっぱいだった。妻には内緒にしているが、僕だってそうだ。
けれども、2人そろって不安がっていても仕方がない。妻が不安そうなときこそ、夫はどっしりと構えておくべきだ。たとえそれが、下手な演技であったとしても。
「2年前にがん検診を受けたときは何も言われなかったんだから、勘違いの可能性だってあるよ。僕はそっちだと思うね」
そうポジティブに返す僕。本当に、心からそう願っていた。
「それはないよ。わたしの体のことだもん。自分の体のことは、自分がよくわかるんだよね」
妻はうつむき、そっと胸を押さえる。と、僕が違和感に気づく。
「……そっち、右胸じゃない?」
君のしこりは左胸だったはずだ。
「違うよっ! いまのは患部を押さえたわけじゃないの!」
「ミギーじゃないって、ヒダリーが怒るよ」
「ミギー? ヒダリー?」
「自分で言ってたのにもう忘れたの!? そこ忘れられると、僕が妻の胸のしこりを”寄生獣”扱いするただの能天気なヤツになっちゃうんだけど!?」
と、こんなツッコミにけらけらと笑ってくれる妻。
「でもほんと、がんだったら、どうする?」
「どうするも何も」と、僕は妻の左手を取る。妻の薬指にはまった指輪の感触。「一緒に頑張ろうだよ」
病めるときも、健やかなるときも。
心の中で、あの日の言葉をもう一度、繰り返す。
*****
【2】 僕ら夫婦の「病めるとき」のはじまり
待合室で待つこと、2時間ほど。ようやく診察の順番がやってくる。
診察室に入ると、そこには「私、失敗しないので」とキメ顔で言い出しそうなパリッとしたカッコいい女医さんが。
互いに簡単な自己紹介をし、さっそく本題の診断結果を聞くことに。
「落ち着いて聞いて下さいね」と、先生の言葉に前置きが入った。
その瞬間、僕が心の底から期待していた”勘違い”という結果がなくなったことを知る。
「大丈夫です。聞かせてください」と応じたのは妻だった。僕もうなずく。
先生が、ゆっくりと検査の結果を告げる。
もちろん、僕だって予想はしていた。でも信じたくなかった。そしてきっと覚悟もできていなかった――そんな結果を。
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