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合弁会社と結婚相手

「結婚するかどうかは、相手を許せるかだよ。」

カンボジアでHR系のビジネスを立ち上げて、日系上場企業に売却した実業家のおじさんの言葉だ。(ちなみにご縁あって?この会社の買収後統合、通称PMIは私が取締役に就任して行なったので、顧問として残ってもらったおじさんとは食事に行ったり、趣味の釣りをしにタイに出かけたりと非常にお世話になった。)
気さくで多趣味で、仕事熱心で、とても魅力的な方なので、私は彼のことをとても尊敬している。

そんなおじさんが実体験をもとに語ってくれた結婚観は、年齢的にも結婚を考え始めた私にとって、非常に勉強になるものだった。

曰く結婚生活を続けていくと、様々な不満やトラブルが発生する。
その時に、「まあ、この人ならしょうがないや。」と許せる相手でないと幸せな結婚にならないそうだ。


さて、この教訓を頭の片隅に残しながら仕事に打ち込んでいた私は、ふと、おじさんの言葉を強く思い出す場面に出くわした。

私が取締役に就任したカンボジアの会社は、日系上場企業2社での合弁事業であった。しかも、出資比率は全く一緒、 50% 対 50% である。(詳しいスキームは本題と関係がないので、割愛します。)
一般的に半々出資は難しいと言われるが、今回は両者のトップ同士が旧知の仲ということもあり、フラットな関係性のもと、力強く進めていくという方針だった。
船出は大々的に、時流を捉えた注目のビジネス領域であったこともあり、両者とも意気揚々とM&Aの交渉を進めた。まさにハネムーンのような時期である。(リアルに視察や交渉など、何度もカンボジアへ”旅行”した。)

ところが、最終的に譲渡契約が完了し、いざ経営に乗り出していくと、スタンスのずれが徐々に実感を伴って明らかになってくる。(ハネムーンから帰り、日常生活が始まったあたりのイメージだろうか。)
また、買収監査(デューデリジェンス)段階では見えていなかった、あるいはスピーディーな交渉のためにスルーしていた大小様々な問題点も見えてくる。

A社は現地に入り込みイチから文化の浸透を図る泥臭いスタイル、B社はシステマチックに、データ分析を駆使して営業活動を行っていく。
当然どちらも買収後には必要なことで、取り組み自体に優劣はない。スタンスの問題である。(優先順位はあるかもしれないけれど。)

少しずつ違いや課題が出てくる中でもコミュニケーションを密に取りながら一つ一つクリアしていく。
ところが、互いに本体の事業に携わっていることもあり(カンボジア事業にも関連するので)、時期によってはコミュニケーションが減ってしまうこともある。
こうなると、お互いのスタンスの違いが如実に、両者の関係性に影響してきてしまう。

お互いに重要と感じていることがズレているので、日々取り組む内容が違う。その状況下で、コミュニケーションが減ると、
相手が重要事項に取り組んでいないと感じる ⇨ 不満がたまり、自分ばかり苦労していて、損しているという気になる ⇨ 関係性が悪化し、さらにコミュニケーションを取らなくなる ⇨ より相手の行動が見えづらくなる ⇨ 以下、負のループの完成

当然、皆、立派な社会人なので、感情的になって決定的にぶち壊すことはない。ところが、このような負のループは確実に事業運営に影響を与えてしまう。
見ているポイントが違うということは、裏を返すと、互いに補完しあっている良いパートナーであるとも考えられるので、この負のループに陥るのは非常に残念なことだ。

このような場面において、冒頭のおじさんの言葉が頭によぎる。
合弁会社も結婚と同じで、「相手を許せるかどうか」であると。

いくらコミュニケーションを取っていても、(特に新興国で)ビジネスをやればトラブルは確実に起きるし、相手とのスタンスの違いが生じることはある。
そんな時に、少なくとも短期的には「自分が損してでもやってやろう。」と、それくらいの意識がないとうまくいかない。

コミュニケーションを効率的に密に取ることや役割の明確化などいくつかの前提条件があった上で、
相手のことを許せるかどうか、ここが合弁事業成功への一つの大きなポイントではないだろうか。

思い出してみると、鉄道会社退職後、地方でジビエの流通やカヌーツアーなどのいくつかの事業をいとこと”合弁”で立ち上げた際も似たような経験をしたので、とても身にしみる教訓を得た。

結婚、ビジネス、あらゆる面でパートナーは大きな力になる。
その時は「相手を許せるかどうか」を一つのポイントに判断をしていこうと思う。

注)その後しっかりとコミュニケーションをとり、一時的かつ潜在的な合弁の難しさを克服し、カンボジア事業は投資に見合う十分な成果を現時点であげることができている。

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