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食い逃げ

爆笑問題カーボーイ

毎週火曜の深夜には、TBSラジオで『火曜JUNK 爆笑問題 カーボーイ』がやっている。2010年の放送になるが、爆笑問題の田中裕二さんが荻窪のラーメン屋で食い逃げしそうになったという話を二人でやっていた。

醤油ラーメン

田中さんはラーメンを食べ終わって、「ごちそうさま」とって言って店から出た。店の前に停めていた自転車に乗ろうとすると店員に声をかけられ、まだお代を頂いていないと告げられる。田中さんは申し訳なさそうに謝って1000円を払った。自販機を置いている店も多く、先に支払ったものと勘違いしていたらしい。

鶏白湯ラーメン

もし、支払いをせずにその場を去っていたならば、店の人の判断次第で警察沙汰になったり、twitterや東スポなどで「食い逃げ」が話題になり、仕事ができなくなっていたかもしれないと語っていた。田中さんは番組の中でもお店の人に謝り、その場で留めてくれたことを深く感謝していた。

SNSやマスコミの反応はともかく、もし田中さんが支払わずにその場を去ったとしても、刑法における法解釈では無罪となるだろう。裁判官が、田中さんの主観をどう判断するかは難しいことではあるが。

窃盗罪か詐欺罪か

<刑法>
第235条(窃盗)
(1項) 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第246条(詐欺)
(1項)人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
(2項)前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

窃盗罪か詐欺罪が想定されるが、以下確認してみたい。条文を踏まえた話になるので少し難しいかもしれない。

窃盗罪(235条)における「窃取(せっしゅ)」とは、占有者の意思に反して財物を占有者から自己や第三者などに移すことを意味する。

なので、ラーメン屋の店員の意思に反して、注文をしていない他人のラーメンを勝手に食べるなり外に運び出したりすれば「窃取」にあたり、窃盗罪ということになる。

だが、一般的に食い逃げの場合、客の注文に対して店員がラーメンを運んできており、意思に反してラーメンを手渡したわけではないので「窃取」には当たらず、窃盗罪が出る幕はない

詐欺罪

よって、詐欺罪が問われてくる。詐欺罪とは、人を欺いて錯誤をさせて、その錯誤による誤った意思で財物や財産上の利益を交付させる罪である。

詐欺罪の成立には、①あざむく行為(詐欺行為)→②錯誤→③処分(交付)行為→④詐取 という因果関係が必要とされる。

つまり、ラーメン屋での食事の場合では、
①客がお金を支払う気がないのにラーメンを注文する
②店側は支払いがあるものと想定してラーメンを用意する
③ラーメンを客の前に運んでいく
④お客が食べて腹の中に入れる
ということが必要になる。

最初からお客が支払いの意思がないのにラーメン(財物)食べて逃走すると、①から④の要件が満たされて1項詐欺罪が成立することになる。

また、車の中にある財布を取ってくるなど嘘をついて店先を出てそのまま逃走した場合には、「財産上の利益」において①から④の要件が満たされて2項詐欺罪が成立することになる。

2項における「財産上の利益」とは、財物以外の財産的利益の一切のことをいい、債権や労務・サービスを提供させたり、債務免除や支払猶予を得るような場合も含むとされる。よって、そのうちに支払うつもりだったと言い訳しても回避できなくなる。

ただし、最初に支払いの意思があり、ラーメンを食べて何も言わずに店員の隙を見て客が逃走した場合には、注文時に①あざむく行為があるともいえず、「利益窃盗」として不可罰ということになる。

窃盗罪には詐欺罪2項の様な「財産上の利益」に関しての規定がなく、占有者の意思に反する形で「(客側の)債務の喪失」、「支払の猶予」というようなことを問題視していない。詐欺罪の問題となってその要件が満たされないのであれば、刑事的には無罪ということになり、民事的な債務が残るだけになる。

お客の感情

お客側に店をあざむく気があったのかなかったのか、これはお客の主観の問題であり、第三者が勘ぐって正しく判断ができるものなのかは疑問である。

だが、詐欺罪の要件となるならば端折るわけにもいかず、重要な点として警察・検察の捜査機関は慎重に事に当たるであろう。もし、お金を持っていなかったり、常習性があれば大いに疑われることだろう。食べてからお金を持ってこなかったことに気づいたら正直に店側に告げるべきであり、身分証明書を提示するなり何か手段を考えて対応ができるはずだ。

先に券売機で支払いを済ませていたと勘違いして店を出てしまう場合は、だまそうと思ってはいないのだから①の要件が満たされないはずである。ならば単純に無罪となるはずだが、店員や捜査機関・裁判機関がどこまでその客の主観を信じるかはやはり不明である。

券売機で支払いを済ませたと思って店を出る時は、支払ったつもりの券売機の存在を再度確認してから出た方がよさそうである。




<参考>
刑法各論 [第3版] 平成17年4月15日第3版1刷発行
著者 西田 典之 株式会社 弘文堂

CC BY-SA 3.0  File:Soy ramen.jpg by Lusheeta
CC BY-SA 4.0 File:Tori-baitang ramen.jpg by Totti



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