ピアノシュラハトIVを観ながら、追想に耽る
前回の記事で触れた『Pianoschlacht IV mit Kammermusik ~浜渦正志作品集~ 東京公演』を観に行った。現地参戦である。
この記事はそのコンサートレポ…と見せかけてただの自分語りに終始している。
というか私のnoteはそんな記事ばかりなのだが、私はこんな活動をしたかったのだろうか。こんな大人になりたかったのだろうか。
人生とはそんなことばかりである。
会場はサントリーホールブルーローズ。サントリーホールとは日本のクラシックシーンにおける最高峰のホールだが、今回はその小ホールにあたる。
サントリーホールは学生時代にもお手伝いで何度か訪れていたし、卒業後もとあるプロオケでステージスタッフのバイトをしていたため個人的には馴染みの深いホールなのだが、実際に訪れるのはだいぶ久しぶりだった。
場所は溜池山王駅から徒歩5分くらい。
改札から出口までの長〜い一本道を歩きながら「ここのヴィ・ド・フランス閉店しちゃったのかぁ…」などと考えていたら到着。
ピアノシュラハトはもともと浜渦正志氏が懇意にしているドイツ出身のピアノ奏者ベンヤミン・ヌス氏と始めたコンサートシリーズで、今回はその4回目。
第3回は2023年10月14日に自由学園明日館講堂(東京)で開催されたのだが、私はその公演も現地で観ていた。せっかくなのでその時の映像を貼っておきます。
T_Comp1大好き。
その時はアンコール以外はピアノのみだったが今回はヴァイオリンとチェロも加えたピアノ・トリオ形式で、プログラムもそのぶん華やかな曲が並んでいた。
コンサートは二部構成。第一部は「Etude Op.4」「Sanzui」といったピアノソロ曲から始まり、「Atmosphären」でヴァイオリンが加わり、そこからチェロも加えて「台風のノルダ」「Giant」と続く。
ちなみに今回はツアー公演となっていて兵庫、北海道ときて3公演め。
「Etude Op.4」なんかは1曲目に演奏するにはかなり難易度の高い曲なわけだが、千穐楽ということもありかなり洗練されていたように見えた。
個人的に第一部は「台風のノルダ」が特に印象に残った。
この作品は2014年に劇場アニメ用の楽曲として書き下ろされたのだが、浜渦楽曲の中では比較的日の目を見る機会が少なかったように思う。私も生で聴くのは約8年ぶりである。
浜渦正志氏は複雑なコード進行や前衛的なサウンドメイクが評されることが多いが浜渦楽曲の真髄はその旋律の美しさにこそあると思っていて、「台風のノルダ」や「ポレットのイス」といった小規模の作品にはそれがよく表れている。
今回はピアノ・トリオ用に抜粋、編曲されていてその美しさを存分に味わうことができた。特に「走り出す少年達」の盛り上がりは最高潮で、心打たれるものがあった。めちゃ良かったなぁ。
第二部はそのままピアノ・トリオの編成で「緒<てがかり>」、「クラシカロイド」、「ポレットのイス」と続き、チェロとピアノで「極北の民」、ピアノソロで「襲撃」「Feldschlacht V」「希望与えし「戌吠の神楽」」を続けて披露した後「不滅のあなたへ」からの「閃光」という流れ。
個人的には「極北の民」が思い出深い曲で、『Piano Collections FINAL FANTASY X』でもアレンジされている。
今回はそのときのアレンジがベースになっていてそこにチェロを交えつつIntroを追加したような構成になっていた。
前回の記事では「ビサイド島」の衝撃にふれたが当時は同じような衝撃をこの「極北の民」にも感じていた。
ピアノソロでは原曲の冷たさや寂しさを残しつつ情熱的に盛り上がる素晴らしいアレンジだったのだが、そこにチェロが加わることで雪山ならではの険しさのようなものがより際立っていた気がする。
2001年に発売されたゲームの中の1曲が2002年にピアノソロ曲としてアレンジされ、22年のときを経て新たな解釈のもと披露されることになるとは思っていなかった。生きていればこんなこともあるんだなぁ。当時中学生だった頃の自分に教えてやりたいよ。
そこから演奏された「襲撃」も「Feldschlacht V」も「戌吠の神楽」も、どれもが思い出深く、追想しながら聴いていた。
「襲撃」はFFXの中でも人気曲であり、屈指の名シーンで使用された曲だが当時FFXが発売された頃地元の長崎屋でそのプロモ映像を眺めていたなぁ とか
「Feldschlacht V」はサガフロ2の名曲だが『Vielen Dank』というアルバムで施されたアレンジで、おそらく私がもっとも多く聴いたであろうアルバムの一つだ。どのくらい聴いたかというと「vielen dank」という文字列を学生時代のメアドに使用していたくらいである。メアドって死語なのかなぁ とか
「戌吠の神楽」は『シグマハーモニクス』というゲームのために書き下ろされた楽曲で、作中の曲では特に有名な1曲だ。前回の『ピアノシュラハトIII』で初披露されたピアノソロver.となっている。『シグマハーモニクス』は2008年のゲームで、ということは16年前である。
16年前の自分は音楽家としてはまだ物心もついてなかったなぁ とか
そんなことを考えていた。
そこから初披露の「不滅のあなたへ」と続き、最後はピアノ・トリオで「閃光」で締め。「閃光」の盛り上がりはもはや言うまでもない。
参考として過去(Pianoschlacht II)の映像を置いておきます。
アンコールはピアノソロで「Mißgestalt」、そしてトリオで「ルフルール」を披露してコンサートは終了した。
思い返すと私のこれまでの音楽人生は浜渦氏の音楽とともにあったように思う。
多くの楽曲に思い出が宿っている。
今の自分はあの頃思い描いていたような音楽家にはなっていない。
きっと数年後の自分もまた今思い描いている自分とは異なっているだろう。
ただまぁ、人生とはそんなことばかりである。
浜渦氏は私にとっては憧れや目標というよりは大地母神のような存在で、ときおり祈りを捧げる信仰対象のようなものなのだが、そんな作曲家が今もなお現役で活動していて、思い出の曲を取り上げてくれて、その音楽を間近で感じることができるという幸運に感謝している。
譜面も買ったし、Etude練習しようかなぁ。。