見出し画像

「響け!ユーフォニアム」を通して見る、高校吹奏楽のおもしろさ

このあいだ開催された吹奏楽コンクールの九州大会を配信で観ていたんですが
これがおもしろい!

おもしろいんですよ。
ここで言う吹奏楽コンクール(以下吹コン)とは、一般社団法人全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社が主催してる大会で、とどのつまり「響け!ユーフォニアム」でやってるやつ
まぁ高校野球でいうところの甲子園ですわな。
(一応中学校の部や、大学・職場・一般の部もあるんですが今回はわかりやすく高校に絞った話をします)


あ、この記事は「響け!ユーフォニアム3」までのネタバレを大いに含むのと、
「響ユ」の内容は知られている前提で話が進みますので悪しからず…


私自身、高校時代はほぼ吹奏楽しかやっていなかったというくらい部活に打ち込んでいて、もちろん当事者としての吹奏楽もおもしろかったのですが何より競技としての吹奏楽に魅せられていたのです。

強豪校の存在を知り、強豪校の演奏にふれ、強豪校に夢中になっていた。
まぁほぼ川島緑輝ですね。

強豪校のライブ録音を買い漁る川島緑輝(画像中央右)

そんなわけで吹コン。
「響ユ」の人気によってその大会の存在自体は広く認知されることになったかと思うんですが、多分吹奏楽経験のない人にとってはルールのよくわからない「ラブライブ!のような大会」に見えてるんじゃないでしょうか。

もうルールとかはざっくりですが、出場団体の中で
・文句なしに上手かったところ→金賞
・わりと良かったところ→銀賞
・…来年がんばれ!→銅賞
という感じで点数順に割り振られて評価されます。割合とかは大会によってまちまち。ちなみに銅賞は全国以外だとそんなに出ない印象。
そして金賞の中から上位数校が代表となって次に進めるよ、という流れ。

私も前述の九州大会を観ながらヒソカのごとく試験官ごっこを楽しんでいました。

吹コンを観ている時の俺

要は演奏を評価する大会なわけなんで審査基準に好みやら趣向やらが影響してしまうのは当然なんですけど、
それにしたって「響ユ」を観ているだけでは主人公の黄前久美子が所属する北宇治高校が
なぜ1年目は全国で銅賞を穫り、
なぜ2年目は全国に行けず、
なぜ3年目は全国で金賞を獲ることができたのか、
物語的には理解できても理屈的にはよくわからないと思います。
まぁ私もよくわからないんですが

ただ、理屈でよくわかんなくてもおもしろいのが吹コンなのです。
じゃあ何がそんなにおもしろいのか
それを「響ユ」と絡めつつお伝えします。けっこう長いです。


1.指導者の影響力がデカすぎる

これは他のスポーツや芸術でも言えることかもしれないんですが、たぶん結構比重が違います。
どんなに優れた生徒がいたとしても、指導者に力がなければ結果には繋がらない。
わかりやすく言うと、指導者がナメられたら終わり。そういう競技なのです。
なぜそう言えるか?私の高校時代がそうだったからです

以前、鹿児島情報高校で下記のようなことが起きています。

吹奏楽コンクールデータベースより

もともと福岡県の名門、城東高校で長年指揮棒を振っていた屋比久勲氏が2007年より鹿児島情報高校に赴任してわずか1年目で九州大会銀賞。2年目には全国大会に出場しています
なんでこんなことが起きるかというと、優れた指導者が◯◯高校に赴任するという情報が世間に周知されるとその先生目当てで各地から優れた生徒が集まってくるから。

つまり「響ユ」でいうところの
滝昇(優れた指導者)目当てで入学してくる高坂麗奈(激ヤバ優秀生徒)
という現象が起きるわけです。

た、滝昇はフィクションじゃない!

「なんですか、これ」の人

ちなみに弱小校にある日とつぜん高坂麗奈レベルのトランペット奏者が入ってきたらそれだけで特別になれますからね

というか滝昇に関してはあの若さと経歴で赴任して1年目の弱小校を全国へ導いちゃってるわけだからそう考えると余裕でフィクションですね。顔も良いし。

ただ、それに近いことが現実でも起こり得るということなんですよ!!



…ついてこれてる?


というか北宇治高校ってもともと田中あすか(ユーフォ)だの鎧塚みぞれ(オーボエ)だの中世古香織(トランペット)だのっていう優秀な奏者が揃っていたわけだから人材には恵まれてるよなぁ…

“1年目で全国にいくポテンシャルは十分にあった"ということにしておくか…


2.選曲で感じる”指導者の戦略と意地"

吹コンは課題曲と自由曲をそれぞれ選択して演奏します。
課題曲は毎年連盟から提示される新曲が4,5曲あってその中から選択。
自由曲は規定に沿っている内容であればわりとなんでも許されます。

つまり、まったくの新曲でもアリということなんですよ!
こう書くとより「ラブライブ!」感が増してくる気がしますが…とにかく、常識とか品格とかは求められつつも基本的になんでもアリというわけです。
こういう競技ってあんま無くないですか?
そういうところも奥深さのひとつだったりします。

色んな例を挙げていきます。

大阪 淀川工科高等学校

吹奏楽コンクールデータベースより

自由曲を2曲だけで回しています。驚くべき効率性。
正確な事情はわかりませんが、おそらく指導者の丸谷氏にとって最も理解が深く、最も勝負できる2曲というわけです。
ちなみに2004年頃までは3曲でローテーションしていました。
まぁ生徒目線で考えると3曲でローテする分には1曲ずつ経験できるからいいけど
2曲で回すとなると3年目にはダブりが発生するから「今回もダフクロかぁ…」とか思ったりするんだろうか。

東京 東海大付属高輪台高等学校

吹奏楽コンクールデータベースより

作曲者で固めるパターン。ここ数年は福島弘和氏の曲を連発しています。
なんといっても2023年の「アウレア・レゲンダ」は高輪台高校による委嘱作品となっていて、つまり書き下ろしの新曲!
強豪校としての自信と、数年にわたり福島弘和作品を取り上げ続けたことによる信頼のなせる技でしょう。あと財力
こういった新曲が全国で披露されることで、翌年以降の流行曲になったりするんですよ。おもしろいでしょう。おもしろいよね?

福岡 精華女子高等学校

吹奏楽コンクールデータベースより

泣く子も黙る福岡最強校です。
「響ユ」では黒江真由が元々いたとされる"清良女子”のモデルにもなっています。

これまでにご紹介した2校のハイブリッドみたいな感じになってますが、特徴的なのは「華麗なる舞曲」も「フェスティヴァル・ヴァリエーション」も「ルイ・ブルジョア」も「宇宙の音楽」も金管楽器の高い技術をめちゃめちゃ要求してくる楽曲というところ。
つまり精華女子は金管楽器に非常に自信があるというわけで、これについては後述する北宇治高校にも同じようなことが当てはまります。
というか全セクションべらぼうに上手いんですが…まぁ聴いてもらえばいっか

「華麗なる舞曲」です。
「響ユ」で登場した1年目の自由曲「三日月の舞」の元となっている楽曲のひとつ。
「三日月の舞」では中間部にトランペットのソロがあり、その座を優秀な1年生である高坂麗奈と3年生の中世古香織の間で競うことになります。

まぁメタで見たらシナリオに沿ってそういう曲を書いているわけなんで(※すごい)
そうなるのは当然なんですが、私がおもしろがりたいのは作中の滝昇が何故その楽曲を選んだかという点なんですよ!

「響ユ」における滝昇の選曲の話


「三日月の舞」は明らかに優秀なトランペット奏者(というか金管セクション)を必要としていて、明らかに高坂麗奈を意識して選曲している…ぽく見えるわけです。
赴任したばかりの1年目、どのくらいの実力で、どのくらい成長するかわからない北宇治で勝負すると決めた滝昇の中での確実な要素は高坂麗奈がいることだけであり、高坂麗奈がいれば最悪勝負できると踏んでいたんじゃないでしょうか。

2年目にはオーボエとフルートの掛け合いがある「リズと青い鳥」を選曲していたり、3年目でトランペットとユーフォのソリがある「一年の詩」を生徒に託している点も同じようなことが言える。
そう思うと、滝昇は生徒のことをよく見ていたし、生徒の実力を信頼していたし、生徒の成長を信じていたというのがより感じられますよね。

という、選曲の視点で作品を観てみるとまた違った味わいがあるよね、という話でした。

俺はなんでこんなに滝昇の話をしてるんだ?

3.青春であるということ

…なんの話だっけ?吹コン吹コン!

吹奏楽コンクールが他の芸術と圧倒的に違うところは、それが青春であるということなのです。
優秀な指導者は長年その学校を担当していたりすることも多いですが、生徒はそうではない。

1年間、あるいは3年間の練習の成果をひと夏の舞台にぶつける。

3年間で一度も吹コンの舞台に立てない者もいるかもしれない。
3年間出られたとしても努力が結果に結びつかず、最終的に涙する者もいるかもしれない。

青春が放つ刹那の響き。そんな音楽だからこそ心を震わせるし、美しいのです

「上手いだけが全てじゃない」
その思想の全てが吹奏楽コンクールには詰まっています。
「響け!ユーフォニアム」が作中で描いているのは、そういう舞台。
勝ち負けだけじゃない、未成熟な音楽だからこそ描ける物語
だから私は吹奏楽コンクールに魅せられているし、「響け!ユーフォニアム」が好きなんですよね。


さて、どんな人間がここまで読んでいるんだという感じですが
来る2024年10月に今年の吹奏楽コンクール全国大会が開催されます。
吹奏楽コンクールの第1回目は1940年。
つまり戦前から行われている歴史的な大会にもかかわらず、そのわりに”やってた人”以外が触れる機会が限りなく少ない。TV放送とかもないし。

でも今はオンライン配信がある!
「響ユ」は好きだけど、吹奏楽自体はよくわからないなぁというそこの貴方!
青春の舞台、その最高峰の演奏をその耳で、こころで感じてみないか!?

…こんな締めでいいのかなぁ。。

参考:吹奏楽コンクールデータベース
https://www.musicabella.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?