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「Guinevere 〜白き妖精〜」について

私は最初のnoteで「楽曲解説をするつもりはない」みたいなことを書いた気がするんですが、これから楽曲解説をします。

理由はなぜか?やりたくなったからだ!

というか、この曲に関しては前々から記事を書こうと思っていた。
解説を書いたほうが楽しんでもらえそうだと思ったのと、書かないと伝わらない意図もあるなと思ったのと、多分もう書く機会は訪れないからだ。

「Guinevere 〜白き妖精〜」(以下Guinevere)とは株式会社コナミアミューズメントがおくるアーケード音楽ゲーム『SOUND VOLTEX EXCEED GEAR』(以下ボルテ)に提供させていただいた楽曲である。
というか厳密には2023年にリリースされたオリジナルサウンドトラックCD用に書き下ろした楽曲なのだが、予めゲームに収録されることを想定された内容になっている。

今回は結果としてアーサー王伝説に登場する「グィネヴィア」をテーマとした楽曲を書いたわけだが、もともとの依頼はもう少し違うものだった。ただ、私がどうしてもやりたかったのでお願いしてやらせて頂いた。

2020年頃に同ゲームにて「Lancelot 〜Flame of the Rebellion」(以下Lancelot)という楽曲を書き下ろした。こちらはその名のとおりアーサー王伝説の「ランスロット」をテーマにしている作品で、この楽曲を書いたときから「いつかグィネヴィアをイメージした楽曲を書きたいな〜〜」と思っていたのだが「Lancelot」は書き下ろし楽曲なので「Guinevere」を書くとすればこちらも書き下ろしの時だろうなと漠然と感じていた。
そして、その時がきた。

「Guinevere」は「Lancelot」の続編というよりは、「一方その頃」的な楽曲である。グィネヴィア視点という感じ。

そもそもアーサー王伝説とは中世後期に完成した騎士道物語で、なにかとフィクションで名前を引用されることが多いコンテンツだ。我々日本人からしたらギリシャ神話や北欧神話とかと同じような位置づけのように感じる、いわば元ネタの宝庫。
本作はその中でも後半で描かれる円卓の騎士たるランスロットと、アーサー王の妃であるグィネヴィアの不義の恋をテーマとしている。

(アーサー王伝説は色々と諸説が入り交じる部分もあるので、あくまで私の解釈とさせてください)


レオデグランス王の娘であったグィネヴィアは若い頃にアーサーと婚約するのだが、騎士ランスロットと出会った際に一目惚れしてしまう。
二人の不倫関係は長い間明るみになることはなかったがなんやかんやあってバレてしまい、同じく円卓の騎士であるアグラヴェイン(ガウェインの弟)や他の騎士達に詰められた結果その彼らを殺害する。
楽曲「Lancelot」の冒頭はこの場面から始まります。

そしてランスロットは逃亡し、グィネヴィアは処刑を宣告されることになる。
グィネヴィアが処刑されることを知ったランスロットは彼女を助け出すことを決意する。「Lancelot」の0:22〜辺りはこの場面。

そしてまさにグィネヴィアが処されようとしているところでランスロットが急襲し、その場の警護にあたっていた円卓の騎士達をめちゃくちゃ殺してグィネヴィアを救出する。「Lancelot」のサビ(0:43〜辺り)はこの場面を描いている。

そこから円卓の騎士がアーサー王派とランスロット派に分かれたり、アーサー王が死にかけているのをランスロットが助けたり、グィネヴィアがアーサー王のもとへ返されて一時休戦したり、やっぱりアーサー王が攻め込んできたり、ガウェインと一騎打ちになったり、アーサー王や円卓の騎士のほとんどが死んでしまったりした結果、戦乱を招いた罪の意識からランスロットは出家することになるが、グィネヴィアとはそれ以降生きて逢うことはなかった・・・
という話を2分のゲーム尺で展開するのは不可能なので、「Lancelot」の後半は展開ではなく心情の部分を描いている。

ランスロットはグィネヴィアと恋に落ち、最終的には大暴れして終末を迎えるわけだがこの人間臭い不器用さがランスロットの魅力なのだと思う。
アーサー王との友情や自らの騎士道精神、グィネヴィアへの想いの間で揺れ動きながらもがき苦しむ哀れさと、なんだかんだ悩みながら結局相対する敵をめちゃくちゃ撃退してしまうどうしようもないほどの強さ。
そしてお互いに想いを寄せながらも運命に翻弄され、最終的には結ばれることなく終わりを迎える終盤の切なさや寂しさ。
この辺りを後半の展開で描きつつ、「死後の世界では結ばれてたらいいね…」的な願いを込めてポジティブで栄光感のあるクライマックスを迎えて曲は終わる。


「Lancelot」はそんな感じです。で、一方その頃グィネヴィアの心情は…?というのが本作。

「Guinevere」の冒頭はグィネヴィアが火あぶりの刑を命じられる場面から始まる。
「Lancelot」は救いに行く側なので"その圧倒的な強さ”と"栄光感とポジティブさ”で男性らしさを表現しているが、対して「Guinevere」はとことん悲劇的に、女性的な弱さや心情の繊細さを描くことに終始している。
いや、女性が弱いと言いたいわけではないんだが音楽的には”心の弱さ”を表現することで女性的な雰囲気を出しやすくなる(と私は思っている)。線の細さといいますか。
楽器的にもストリングスやダルシマーのような西洋的な響きをプッシュすることで「Lancelot」とは雰囲気を変えていたりする。

というか夫であるアーサー王に不倫がバレて処刑を命じられたら誰だって心が弱くなるだろう。そういった場面から楽曲はスタートする。

不義への後悔の念、ランスロットへの想い、そしてもう死を受け入れているような色々な感情が混じった曲調のイントロから始まり、0:20辺りの「ザンッ!」で処刑場へ連行される。
そして今にも火を放たれようとしていたその時、ランスロットが周辺の騎士をぶちのめしながら救いに来てしまう。それが0:33〜辺り。

ランスロットからすれば、とにかく救いに来た感じなのでもういっぱいいっぱいである。
だが、グィネヴィアからすれば「あぁ、来てしまった…」と感じてしまうのではないか(あくまで私の解釈だが)。

そもそも普通に考えて非があるのはランスロット、グィネヴィアサイドである。
罰されるのも処刑されるのも当然の報いで、本来なら助かるはずもないのだがランスロットが周辺の騎士をぶちのめしてしまったせいで助かってしまい、その後の戦乱に繋がるきっかけを生み出してしまうのだ。

「Guinevere」の0:50〜のメロディは「Lancelot」の1:21〜のメロディを引用している。
このメロディは二人の想いが本心では一致していることを表していて、実際にグィネヴィア自身はランスロットが救ってくれたことに心の底では喜びを感じている。
ただ、それに反して良心の呵責に苛まれている様子やこれから起こる悲劇を予感しているような場面を1:05〜で描いている。

そこからなんやかんや戦が起こったり騎士が大勢亡くなったりする様子を1:23〜のサビで描いている。

最終的に、自分もランスロットも生き残ってしまう。戦乱で荒れ果てた風景を目にしながら、グィネヴィア王妃は何を想うのか。1:40〜の展開ではそんな場面をイメージしている。

そしてグィネヴィアもまた出家を決意し、迎えにきたランスロットのことも拒絶して二人の運命は分かたれたまま物語は終結する・・・という話。


歴史上でも一人の女性が発端となり戦が巻き起こったり政治が崩壊したりということがままあるが、グィネヴィアもそんな流れを踏んでしまった悲劇のヒロインの一人だ。

「白い妖精」と謳われた彼女の美しさは人々に何をもたらしたのか。
二人は出逢うべきだったのか。
そして死後の世界では結ばれたのか。。。

という疑問を提起して楽曲「Guinevere」は終わります。


この2作を通して実現したかったのは、心の奥底では結ばれている二人の想いをメロディーで表現し、その二人の状況や心情の違いを曲想や展開、コード進行で表現するということ。
結果楽曲的にも音楽ゲーム的にも良い作品になったと感じ、満足している。

作家として仕事で音楽を作っていると“自身の作品を創る”という機会がどうしても少なくなってしまうが、音楽ゲームという舞台でこういった作品を生み出す機会を与えてくれたボルテ、そしてコナミ関係者の皆様に今いちど感謝の意を表したい。

というわけで、もしよければゲームでも実際に遊んでみていただけると嬉しいです。解禁はめちゃくちゃ重いらしいけどな!!

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