羽海野チカ先生のぶ~け掲載作が読みたかったので探した
お断り:
これは羽海野チカ先生のぶ~け掲載作が読みたくて探したが、対象を絞りきれず結局どれが当たりなのかはわからずじまいという話です。自分の中ではこれかなと思った作品を本文に記載していますが、それが羽海野先生の作品でない場合は大いにあります。それでも構わなければどうぞお読みくださればと思います。その上で興味が出た方がおりましたら、ぜひとも追試をして各位なりの結論を出して欲しいです。
1.はじめに
羽海野チカ先生の商業誌掲載作は『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』、『初期短編集 スピカ』の単行本群におおよそ網羅されています。しかしながら、羽海野先生が過去『月刊ぶ~け』に投稿し掲載されたという作品はこの内に含まれておらず、読むことが出来ません。インターネットで調べても、高校時代に『ぶ~け』に掲載されたという情報しか見つかりませんでした。そのため、読みたかったので調べました。
2.調査対象・条件付け
『萩尾望都 対談集 1979年代編 マンガのあなた SFのわたし』(河出書房新社)という萩尾望都先生の対談集があり、萩尾先生と羽海野先生が対談しています。その中に以下の記述がありました。
萩尾 あと、サンリオにも勤めてらしたの?
羽海野 はい。17歳の時、一度「ぶ~け」に載ったんですけど、でもその後サンリオに勤めて。
(萩尾望都、『萩尾望都 対談集 1979年代編 マンガのあなた SFのわたし』、河出書房新社、2012年、p230)
これにより投稿時の年齢が17歳ということがわかりました。
次に調査対象期間の始まりを検討したところ、羽海野先生がtwitterにて下記の通りツイートをしていらっしゃいました。
ここに書かれている「吉野先生」とは吉野朔実先生のことです。これにより、調査対象期間の始まりは、吉野朔実先生のデビュー作『ウツよりソウがよろしいの!』が『月刊ぶ~け1980年1月号』に掲載された以降、つまり1980年2月号からとします。
※『ぶ~け』にはまんが家養成コースというマンガ投稿コーナーがありました。そのコーナーでは各投稿作の点数付けや講評のみならず、各月1作品の全ページの縮小版が掲載されていました。吉野先生はそのまんが家養成コース出身で、デビュー作掲載の前号(1979年12月号)で1席(要するに1位です)になりましたが、掲載は2席の人の作品でした。吉野先生のファンである自分としては読みたかったなぁ~という気持ちです。
最後に調査対象期間の終わりですが、『マンガのあなた SFのわたし』にて萩尾先生が『続・11人いる! 東の地平 西の永遠』の連載されている際に最終回を羽海野先生が読んだ旨の記述があり、その後でこう言われています。
萩尾 それはいくつくらいの時でした?
羽海野 中学生ぐらいだったかと思うのですが……。
(萩尾望都、『萩尾望都 対談集 1979年代編 マンガのあなた SFのわたし』、河出書房新社、2012年、p197)
この中学生「ぐらい」をどう考えるかですが、なんとなくですが小学校5年までとします。『東の地平 西の永遠』は『別冊少女コミック』の1976年12月号から1977年2月号に掲載されており羽海野先生の誕生日は8月30日とのことなので、17歳-11歳=6年とすると1977年+6年=1983年となります。よって調査期間の終わりは1983年度最後の刊行である1984年3月号までとします。(このように調査期間の終わりの決め方が曖昧であり、これが確信に至れない理由の一つです)
上記より、調査対象は『ぶ~け』1980年2月号~1984年3月号となりました。
次に条件付けです。
先で引用した通り、『ぶ~け』に羽海野先生のマンガが載ったのは「一度」とのことです。そのため、『ぶ~け』に一度のみ掲載(投稿コーナー含む)され、その後他媒体も含め掲載の履歴が確認出来なかった作者をリストアップし、その中から「17歳」でなかったり当時の住まいが「東京都」(羽海野先生は東京都出身)でなかったりする人を除外していきました。
3.調査結果
調査の結果、下記の作品が残りました。
※1980年6月第43回まんが家養成コース1席である竹坂路加さんも俎上に上がりましたが、ペンネームを竹坂かほりに変えてデビューしているというインターネット情報があったので除外しました。
4.考察というか推察
上記リストの作品を読んで自分なりに羽海野チカ先生のマンガとの類似を感じられるものを選びました。それが下記です。
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p421)
『月刊ぶ~け』1983年8月号に掲載されておりました、小田衿子さんのパイナップル・エンジェルです。
ちょっとネタバレになるのですが、個人的な決め手を列記します。お手持ちの羽海野作品と比べながら見てほしいと思います。
1. 注釈
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p429)
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p430)
矢印で示してあったり、補足の内容が細かいあたりが羽海野先生っぽいと思います。また字体も似ていると思います、「で」とか「す」とか……
2.モノローグ
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p431)
語り口や縦・横モノローグが混在するあたりとかどうでしょうか。
3.描き文字
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p429)
「ピンポーン」のざっくばらんとした感じなんかはすごいぽいと思うのですが……
4.人物の描き方
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p430)
(『月刊ぶ~け』8月号、集英社、1983年、p432)
絵柄で考えると断絶があるようにも思えますが、キャラクターのポーズの付け方に羽海野先生感がある気がします。
また、設定・ストーリーも羽海野作品に通底するところがあると思っています。ネタバレ防止のため下の方に書いておきましたので、興味がある方は御覧ください。
5.おわりに
最初に書いたとおりですが、結局作品を一つに絞り込むことができず主観で選ぶことになったので、断定することはできませんでした。興味を持った方がいらしたら是非とも調べて欲しいですし、その結果を教えて欲しいです。
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<登場人物・ストーリーについて>
登場人物は下記の通りです。
けーじ:主人公、社会人。義理の妹・みやと暮らしている。
みや:けーじの義理の妹、14歳。5年前から母・えり子とともにけーじの家に住んでいたが、3年前に母とけーじの父が亡くなり、けーじと二人暮らしになる。
冴子:けーじの高校の時の先輩。密かにけーじを想っている。
次にストーリーですが、かいつまんで書くと、
けーじは冴子が同僚から求婚されたことを知る。けーじは冴子に「引き止めて」と言われるが断る。けーじはみやを愛していることを冴子に指摘され、気づく。
というものです。
文章で書くとニュアンスが出ないので分かりにくいのですが、作中で描かれる時間の前に喪失(親族を亡くすなど)があるという点や、義理の妹を愛するようになるという点に『ハチクロ』や『3月のライオン』との近似が見られると思うのですが、どうでしょうか……
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