吉野朔実『瞳子』に登場する音楽
はじめに
吉野朔実先生の著書に『瞳子』という作品があります。せっかくなので、試し読みが出来るページのリンクを貼っておきます。
(電子書籍の時点でわかる通り、装丁がめちゃくちゃかっこいい本です)
『瞳子』の世界設定は80年代後半くらいとあとがきで明かされており、作中にはこの時代を彩った音楽が登場します。それらをSpotifyのプレイリストに纏めてみました。こういう音楽を瞳子は聴いてたんだな~と思いながら読む『瞳子』が理解の一助になればいいなと思います。ていうかそもそもは自分がそうしたくてプレイリストに纏めたのが発端なんですが……
ただし、曲が明示されているものはそれをプレイリストに入れましたが、ほとんどがミュージシャン名の記載だったので、選曲に関しては自分の独断と偏見の比重が大きいことをご承知おきください。あと絹子さんが聴きに行ったというベルリンフィルは、自分の埒外でわからなかったので外しています。
プレイリストと曲に関するメモ
下記がそのプレイリストです。順序は大体作中の登場順になっています。
以下に曲に関するメモを書いていきます。
An ending / Brian Eno (1983)
「えっ、イーノの新譜!? 行く行く聴きたい。」(瞳子)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p8)
80年代後半設定の中で新譜として登場するのに83年発表を持ってきてしまうわけですが…でも一曲目が「An ending」だと面白いじゃないですか……
Baby's on fire / Brian Eno (1973)
「べーびずおんふぁいや~」(森澤)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p11)
森澤が口ずさんでいるのは73年の曲であることやその後のやりとりから、彼は瞳子とイーノの新譜を一緒に聴くためにレコードを買ってから彼女が来るまでの間、律儀に聴かないでいた可能性がとても高いです。森澤のそういうとこ好き。
Don’t stop the dance / Bryan Ferry (1985)
「ブライアン・フェリー……」(瞳子)
「なあ、森澤、聴いた?ブライアン・フェリーの新譜。いいぜえ!」(天王台)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p43,48)
ロキシー・ミュージックでなくブライアン・フェリー、それも新譜と言っていることから、80年代最初のソロ作品より選びました。
わたしの彼は左きき / 麻丘めぐみ (1973)
「わったしっの わったしっの 彼っはー ちゃっちゃっ 左…」(瞳子)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p75)
瞳子がつい口ずさんでしまうこの馴染みやすいメロディは筒美京平先生によるものです。
やさしい悪魔 / キャンディーズ (1977)
「それはまさか、キャンディーズじゃ…」(瞳子)
「あの人はーあーくまー。」(森澤)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p81)
実のところ今回はじめて真面目に聴いたんですが、結構凝ってて面白い曲なんですよね。クレジットを確認したら作曲・吉田拓郎、編曲・馬飼野康二でなるほど~となりました。
Once in a lifetime / Talking heads (1980)
p107の背景にあるトーキング・ヘッズのライブを収めた映画『Stop making sense』のポスターより。デヴィッド・バーンの名前もp75に出てきます。
Vapour Trail / Ride (1990)
『瞳子』で描かれる世界と直接の関連はないのですが、p114で瞳子が目の前を通り過ぎる店の屋号「RIDE」はこのバンドが元ネタになってる気がするんですよね。吉野先生の趣味にシューゲイザーは合っていたんじゃないかと思うのですがどうなんでしょうか。
Wire / U2 (1984)
「おおっ!! ここ!!このフレーズ!!オレの守ったエッジのギターだ、やっぱかっこいいね。」(天王台)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p143)
エッジのギターがかっこいいフレーズということでこの曲にしました。かっこいい。
Hold on / Santana (1982)
p153の新聞記事より。瞳子たちが聴いていたわけではないのですが、当時こういう音楽もあったと知っておくと彼女や彼らが聴いていた音楽がどういうラインだったのかがわかるのでよいです。
Three of a perfect pair / King crimson (1984)
「天王台!!新聞見た!? クリムゾン今日チケット発売開始!!」
「ねてる場合じゃないだろう!! NHKホール12月6・7日。」
「私、バイトで出らんないから、森澤とふたりで行ってよ……」
「電話?直接行け!!」(瞳子)
(吉野朔実『瞳子』、小学館、2001年、p154)
年代的にディシプリン期だし、その中で好きな曲をということで最初はディシプリンを選んでいたんですが、「Three of a perfect pair」っていうのがなんかいい気がしたのでこの曲にしました。鉄壁の3枚ブロック。よくバランスのとれた正三角形。(この曲での三位一体はそういう意味ではないと思いますが……) 84年は来日もしてますしね、まぁディシプリンの時(81年)も来日してますけど……
それはそうと引用元の固定電話でのやりとり、全てに時代って感じがしてなんかいいですよね。
Let’s dance / David Bowie (1983)
Avalon / Roxy music (1982)
Absolute ego dance / Yellow magic orchestra (1979)
全てp209のあとがきより。ボウイの曲はナイルと組んだ「Let's dance」よりイーノと作ったベルリン三部作やその流れを汲むスケアリー・モンスターズのほうを瞳子たちは特に愛聴していそうな気もしましたが、まぁあとがきの分ぐらいは自分の好きにさせてくれやと選びました。「Absolute ego dance」だけ年代が大分前ですけどこれも完全に自分の趣味です、めっちゃ好きな曲なので…ていうか作品中に出てくる映画「ビハインド・ザ・マスク」はYMOの同名曲由来っぽいからそっちの方がよいのでは……まぁこれは私のエゴということでお許しください。
おわりに
曲を選んだのが自分なので確証はないのですが、並んだ曲を眺めると80年代後半というよりは中盤っぽい感じがします。確実に明らかになっている音楽に関わる情報の中で年代が一番新しいのは映画『Stop making sense』で、これの日本公開が1985年ですし。さらに言えば、登場する音楽から見ると各話の時系列は直列でない感じもあります。でも、こういう年代の整合性が~とかは『瞳子』に関してはあんまり重視しなくていいのでしょう。
今回挙げたミュージシャン以外に、例えば作中に出てくるレコードのジャケットの元ネタはこれ!などがあればコメントなどで教えてくださると嬉しいです。よろしくお願いします。
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