展示会業界における「空間デザイン」考
展示会の世界に入ってブースデザインを行うようになってから、ずっと気になっていたことがあります。
それは、展示会業界では「空間デザイン」という言葉の意味、というか、使われ方が建築・インテリア業界のものとは違う、ということ。
展示会業界に入ってみると、この業界では建築・インテリア出身の人が空間デザインを行っているわけでは必ずしもなくて、2次元のデザインをしている人が3次元に手を伸ばしてデザインを行っていたり、そもそもデザインを学んでいない人がブースをデザインしている、そんな状況を多く見かけます。そのような人達にとって空間デザインとは、「3次元のものをデザインして作ること」という意味になります。
建築・インテリア系の学校で空間デザインを学んでいる人であれば共感していただけるかと思うのですが、学生時代、空間デザインとは「その場の空気をつくること」であったり、そこにいる「人」の心理をつくること、少なくともそのようなニュアンスのものとして教えられます。見た目のそれではなく、その場にある「質」や「空気感」のようなもの。
つまり、空間をつくる、とは、その場にいる人が「どのように感じてほしいか」を考え、その「心理」を作り出すために「どんな形状であればいいか」「どんな色であればいいか」「どんな照明であればいいか」など、空間を構成する様々な要素が決定してゆくのです。
しかし、展示会業界では、そのような空間デザインの考え方について学んできていない人が多いため、「空間デザイン=3次元のものをつくること」という単純な図式になるのだと思います。
もちろん、これは悪いことではありません。
空間デザイン「学」的に捉えれば「間違っている」ということになりますが、ビジネスの世界ではもちろん、それはそれ。
ですので、展示会業界の多くの人が空間デザインをそのように考えていること自体は悪いことではないのですが、私の考えとしては、展示会業界の方にも、この空間デザインの概念については、より多くの方に理解してもらいたいと考えています。
それは、なぜか。
展示会ブースにおいて、もっとも重要なことは、「たった3日間で、集客の結果を出さなければいけない」ことです。そのために、ブースデザインの役割は大きい、と言えます。
そのことを考えた時、「オブジェ思考」により考えられたブースと「空間デザイン思考」により考えられたブースでは、「集客の力」がまるで違うからです。
少し考えていただきたいのですが、「オブジェ思考」によってブースを考えた場合、どのように集客を考えるでしょうか。
多くの場合、ブースを考える時に、「形態操作」から入ることになることが容易に想像できます。「目立つようにしましょう」「インパクトあるようにしましょう」という内容です。実際に、多くの設営会社による提案はそのような手法を取っているようです。
クライアントである出展者に対して、「ブースは○○をモチーフとして、目立つようにこんな形状にします」、このようなプレゼンテーションになるでしょう。展示会出展社(クライアント)の多くは、「展示会に成功すること」を強く望み、そのためにブースはどうあればよいのかを考えています。そのクライアントに対し、これだけでは説得することは難しいでしょうし、そもそも集客は成功しないでしょう。
それに対して「空間デザイン思考」によりブースを考えた場合、そのブースを利用する主人公である来場者の目線・心理でブースを構築するので、「来場者が入りやすいように、この位置にこのような形状の壁を作りましょう」「この位置からのブースの見え方はこうなるので、この位置にサインを設けましょう」と言った発言内容になります。そうすると、ブースは極力無駄を省いたシンプルなものとなります。当社のブースがシンプルな形状をしているのは、このようにブースを構築しているからになります。
しかし、この「空間デザイン思考によるブース構築」。これだけでは、実は集客ができるわけではありません。このままでは、デザイナーの独りよがりな「作品」が出来てしまう可能性があります。
そこで、重要なことは、「空間デザイン思考」の中でも「アート系空間デザイン思考」と「ビジネス系空間デザイン思考」のバランスをとる、ということになります。
この2つのことはまた別の機会に深く書くこととしますが、あくまでも私個人の考えですが、「商業系空間デザイン」には「アート系空間デザイン」と「ビジネス系空間デザイン」の2つの要素があると考えています。そして、展示会ブースデザインという空間デザインは「ビジネス系空間デザイン」を重んじなければいけない最たるもの、だと。なんせ、3日間で「結果」を出すことを要求されるわけですから。
つまり、展示会ブースでは、単に「空間デザイン思考」で構築してもダメで、「ビジネス系空間デザイン」を比較的に重視したものでなければ「結果」は出ないものになってしまうのです。
少なくともその可能性が高い。
このような意味で、展示会業界において多くのデザイナーが集客の成果を上げるようになるためには、「空間デザイン思考」を学ぶこと、そして、中でも「ビジネス系空間デザイン」の手法をしっかり学ばなければいけない、と感じます。
一応念のために書いておくと、「アート系空間デザイン」が不要、と言っているわけではありません。むしろこれからの時代「アート系空間デザイン」の思考こそ強化していく必要がある、と私は考えています。このことについてもいずれ書いてみたいと思います。
そんなことで。今後、展示会業界のデザイナーの方々に「空間デザイン」について伝えていけたらな、と感じています。
展示会業界発展のために。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?