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ただ優しくされること

ペナンでのふるまい方というのは、いまだよく分からなくて私は「外国人」のままだ。

「何食べたい?」と友達のアイリーンにきかれ「中華」というと、車でひろわれ高級中華レストランに連れていかれた。

結婚式もできそうなファンシーなところだが、Tシャツ短パンというラフさで円卓を囲んでいる人が多いのが、ペナンらしい。

さて、注文だ。普段はのんびりした中華系マレーシア人の友人も、突然「キリっ」とする。これだけは、外国人の私の入る余地はない。

彼らは、ろくにメニューは見ない。福建語を話す上品そうなお店の人がやってくる。「今日のスペシャルはこれ」「メニューにはないがこれがある」と、友人のチュウの隣にたって相談しはじめた。頭を坊主にし、髭も白くなって落ち着きのあるチュウが、今日のホストだと思ったんだろう。

大皿料理だから、個々の注文ではない。「この店では何がマストか」「今日のスペシャルを注文するかしないか」肉、魚、エビ、野菜などのバランスに加え味つけのバラエティーも大事。「いい円卓」をつくることに熱心だから「キリっ」としてしまうのも仕方ない。

以前はそういうのが分からず、「エイミーはなにがいい?」ときかれて、まじめにメニューをみて返事をした。すると「ああ」といわれ、私以外のみんなで福建語で話し合ってるうちに、「他のチョイスがいいのでは」となってたみたいだった…

それ以来「何がいい?」は真剣にとらないことにしてる。

ーーー

今回も、こんなことがあった。

「久しぶりのペナンでしょ。エイミーが食べたいもの言ってね!」とシュウランが言う。

私は、(うーん。これはデジャブだな)と思いながらメニューを開いた。

「あ、カイラン炒めを食べたいかなあ」
「何味にする?」とシュウランがきく。

「スパイシーかな。辛いの好きだし」

チュウがそれを聞きつけて言う。「もうプラウンカレー頼んだよ。スパイシーなのはカレーがあるよ、エイミー」

みんなが私を見た。

(ほ、ほら。。)

「ガ、ガーリック味にするわ」私は言う。
「そうだね!それがいい」

みんながほっとしたように笑う。

う、うむむ。

ーーー

でも、確かに全部美味しいのだ。この日、一番おいしかったのは、エビのカレー。甘くて辛くてすっぱくてフレッシュな香辛料を使ってるのが分かる。甘めのパンにつけて食べる。

カニの身をレタスにいれて食べるのもよかったし、全部美味しい。しゃっきっとしたカイランも、やっぱりガーリック味でよかった。


いつも、私は、どうしたらいいのか分からないし、友達に甘えてばっかりで、優しくしてもらってる。

アイリーンは、家の鍵や車を預かり、いろいろ引き受けてくれた。エージェントがしょっちゅう鍵をかりにきても面倒がらず全部やってくれた。お掃除の人を手配してくれたりまでだ。

私が日本にいくとなったら「やってあげるよ」と向こうから言ってくれたのだ。

考えてみれば、ペナンでの友達は、私がちゃんとした人だという保証は何もなくて、私の本名も住所もしらないのだ。私が悪い人だったらどうするんだろう?

ーーー

食事のあと、私は離れがたくなっていた。

「ねえ、このあとコーヒーのもうよ」と私がいうと、私に場所を相談せずに「あそこでいいね」とまた連れていかれた。

コーヒーを飲みながら私は言う。

「ねえ、私、いまペナンですごくハッピー。あなたたちとこうやってお茶のんで、すごくハッピーだわ」

「もっとペナンにしょっちゅう来なよ」

そう笑っていうけど、たぶん、彼らには、私のこの気持ちがわからないと思う。

私は、素性もわからない外国人で、彼らの文化も共有してなくて、なんの役にも立たなくて。

それなのに優しくしてもらって、どれだけありがたいかということが。




(終わり)



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青海エイミー(作家/クンダリーニヨガ講師)時々ペナン
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