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23.構造力学

いくら美術大学とはいえ、建築を学ぶ上で、構造力学は切っても切れない関係である。構造力学は連続体力学の一分野であり、橋梁、建築物、ヴィークル類などの構造物が荷重を受けたときに生じる応力や変形などを解析するための力学だ。美術大学で学ぶ建築の設計は、あくまでも意匠設計であり、建築構造物・土木構造物などが、固定荷重・積載荷重・積雪荷重・風荷重・地震荷重などに対して、構造物がどのように変形し、構造物にどのような応力が発生するのかを計算する本格的な構造計算は、それ専門の構造設計者に任せてしまうのだが、その基礎的な知識は必要であり、また、建築士試験にも必要なので、専門科目として必修になっている。ただし、工学部の建築学科に比べたらさわりのような分野しか学ばない。ただ、美術大学の建築学生は、ほとんどと言っていいほど、構造力学は苦手分野である。ここでは、美大の建築科の構造力学の試験に出た問題について触れたい。
まず、力のモーメントが何たるか理解できない学生がほとんどである。力のモーメントとは、力学において、物体に回転を生じさせるような力の性質を表す量であり、力の能率とも呼ばれる。機械などで固定された回転軸をもつ場合、その回転軸のまわりの力のモーメントをトルク、またはねじりモーメントと呼び、単位として通常はニュートンメートル(N m)が用いられる。
例えば、物体に2つの力が作用するとき、2つの力が釣り合う条件は
1.2つの力の大きさが等しい
2.2つの力の方向が反対
3.2つの力の作用線が一致する
1と2の条件は、力をベクトルとして表したとき、力のベクトル和がゼロと表される。 3の条件は、力のモーメントを導入することで、モーメントの和がゼロと表される。2つの力の作用線が一致していないとき、つまり、力のモーメントの和がゼロでないとき、物体は作用線を一致させるように回転する。 言い換えれば、力のモーメントは物体を回転させるような力の性質である。 物体を回転させるために必要な力の大きさは、力が作用する位置によって異なり、回転中心からの作用線の距離に反比例する(てこの原理)。 力のモーメントを作用線の距離に比例するように定義することで、等しい力のモーメントに対して物体は同じように回転する。 従って、力のモーメントは一次のモーメントである。
物体に3つ以上の力が作用するとき、それらの力が釣り合う条件は、力のベクトル和とモーメントの和がそれぞれにゼロとなることである。 力のベクトル和がゼロであるが、モーメントがゼロでないような力はとくに偶力と呼ばれる。 一般に、力のモーメントは中心をどこに選ぶかによって変わる。 しかし、作用する力のベクトルの和がゼロであるときは中心の選び方によらない。 つまり、釣り合い条件はモーメントの中心の選び方によらない。 また、偶力はモーメントの中心の選び方によらない。
物体に作用する2つの力の系で、力のベクトルの和とモーメントの和がそれぞれに等しいとき、それらは等価である。 変形が無視できる剛体に作用する等価な力の系は同等で、それぞれ置き換えることができる。 特に、一点に集中して作用する力と偶力の系に置き換えることができる。
次に、曲げ応力、せん断応力などの応力。応力とは、外力を受けた部材内部に発生する内力のことで、応力は、部材内部に働く抵抗力であり、この抵抗力が外力と釣り合い状態にあることで部材は壊れることがなく、安全な状態を保つ。とくに、せん断応力がわかりにくい。まず「せん断」とは、物の内部に生じる、物をずらすような力のことで、物体をはさみ切るような作用をいう。 物体のある断面に平行に、互いに反対向きの一対の力を作用させると物体はその面に沿って滑り切られるような作用を受ける。これがせん断作用で、このような作用を与える力を「せん断力」といい、このせん断力により物体の断面に生じる内力を「せん断応力」という。
モーメントや応力を考えるとき、支点が重要になってくる。構造力学で支点は、構造物と地盤あるいは構造物と構造物を結合し、構造物を静止させ安定させる支持点のことで、ピン、ローラー、固定端の3種類がある。
ピンは、鉛直方向の変位だけを拘束し、回転や水平方向に移動が可能な支点で、実際には、回転可能なピンと水平方向の移動が可能なローラーで構成される。
ローラーは、水平方向と鉛直方向の変位を拘束し、回転が可能な支点で、ヒンジ支点とも呼ばれる。実際には、可動支点から、ローラーを除去し、地盤に固定したものとなっている。
固定端は、水平・鉛直・回転すべての変位を拘束し、どのようにも移動ができない支点であり、実際には、地盤や壁などに直接埋めこまれた状態にある支点となっている。
このほかにも中間ヒンジというものがあり、支点(構造物と地盤や構造物と構造物を結語する点)ではないが、構造物を構成する部材同士を結合する装置に、中間ヒンジがある。中間ヒンジは、部材と部材の間に蝶つがいを用いたようなもので、この点で部材は回転する(折れ曲がる)ことが可能となる。よって、中間ヒンジ点では曲げモーメントが伝達されない(中間ヒンジ点周りの曲げモーメント総和がゼロとなる)、たわみ角が不連続となる
という性質をもつ。
最後に座屈を説明しよう。座屈は、構造物に加える荷重を次第に増加すると、ある荷重で急に変形の模様が変化し、大きなたわみを生ずることをいう。構造に座屈現象を引き起こす荷重をその構造の座屈荷重という。座屈荷重はその構造の剛性および形状に依存し、材料の強度以下で起こることもある。圧縮荷重を受ける柱の場合、材料、断面形状、荷重の条件が同じであっても、座屈荷重は柱の長さに依存するため、短い柱では座屈を起こさず、長い柱のみに発生する。座屈現象は構造の不安定現象のひとつである。例えば、圧縮荷重を受ける長柱が、擾乱(例えば、風による圧力など)を受けて横方向に変形しても、圧縮荷重が座屈荷重以下であれば、長柱の横剛性(曲げ剛性)により擾乱が消えればもとに戻る。しかし、荷重が座屈荷重ちょうどであると、それに対する長柱の横剛性は十分でなく、擾乱を受けて生じた変形は元に戻らない(変形した状態で安定する)。荷重が座屈荷重よりも少しでも大きいと、小さな擾乱でも長柱は倒壊する。このように、座屈荷重を超える圧縮荷重を受ける構造は不安定な状態にあり、座屈による破壊とは、不安定な状態から倒壊というもう一つの安定状態に飛び移ることである。圧縮荷重を分担する部材の設計では、座屈強度に対する注意が必要である。
建築における座屈の種類は以下のとおりである。
横座屈
背の高いH形断面梁に曲げモーメントが加わると、ねじれながら(弱軸に向かって)横に倒れて崩壊することがある。このような座屈形式を横座屈または曲げ捩れ座屈という。対処法としては、横補剛材を入れることが考えられる。
局部座屈
梁端部の曲げが終局強度に達し、梁端部圧縮側のフランジが波をうつように座屈することを局部座屈という。対処法としては幅厚比を変えることが考えられる。
力学的分類
力学的には、座屈は構造の変形による幾何学的非線形性に起因して、構造物に不安定な平衡状態が発生することである。この観点からは、以下のように分類される。
分岐座屈
荷重-変位曲線が2つ以上の解に分岐し、分岐点でそれまでの安定な平衡状態から不安定な平衡状態に急激に移行する現象。オイラー座屈(直立した柱を軸方向に圧縮するときの座屈)などに見られる。
飛び移り座屈(スナップスルー)
荷重-変位曲線が極値を持つ場合に、安定な経路をたどる構造物の応答がその極値に達したあと、不安定な経路を跳び越し安定な経路上の別の平衡点に動的に移行する現象。外圧を受けるアーチや球殻などに見られる。
美術大学の建築科の学生は、構造力学などの理系科目はめっきり苦手である。ただ、テストの時に教科書持込みOKだったので、かなり助かった。

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