【ふたりしずか・別話】 年の瀬往復書簡。
# 登場人物紹介
このお話は、とても不可思議で私的な文通記録のようなものです。
今回は、とある二人が年の瀬に交わした手紙をお目にかけ、彼女たちの心象風景のようなものを、皆様と一緒に垣間見ていきたいと思います。
彼女たちはそれぞれの生活において、泣いたり笑ったり、ネコをかぶって悪戯を仕掛けていたり、かと思えばやり返されたり、社交的な付き合い方を見せたと思えば、まさかそんなこと、というようなことでケンカなぞしてみたりと、いかにも思春期の高校生らしい働きをしておりました。しかし一度手紙に文章を認めればあら不思議、普段は言えないこともすらすらと。おしまいには絡れてこんがらがって、解くに解けぬ縁の糸、ああ、これ以上を語るは野暮というものでありましょう。
所詮、手紙は手紙。それぞれの一通は、それぞれの完結したお話です。しかしきっと彼女たちは、現実でもそんな小さな世界であったとしても、丁々発止のやり取りを愉しんでいたことでしょう。
さて、そろそろ、この二人を紹介したいと存じます。
⚫︎ 山城 夏海(十七歳)
どこにでもいる普通の高校二年生、と言ってあげたいけれども、そこはやっぱり思春期のお嬢さん。世事に対して聡いつもりでやっぱりどこか年相応の初心なところが抜けきれず、確かに同年代の娘さん方に比べれば大人びていると周囲から言わしめど、どうしてもまだまだ大人にはなれない斜に構えたところのある、年相応の娘さんの姿がそこに在ったりなかったり。
御趣味は、と問われれば何を差し置いても読書。本を読むことがなによりも好きで、そこは周囲の知るところではあるのですが、実は誰にも言っていないそして知られていないことに、ちょっとした雑文を書くのも好きだったりする。
別に小説家志望というわけではないのだが、ノートの白いページを自分の言葉で埋めていくのはやはり愉しいらしい。そこそこの筆力がありまた筆まめであるので、それなりに読めるものがいくつか仕上がっている。もっとも、誰にも読ませたことがないし彼女自身にその気がないのでそれは誰の知ることもなく、机の抽斗に仕舞われたまま。きっとこんなことがなければ日の目を見ることすらなかったであろう。
猫を一匹飼っていて、その子を何よりも溺愛している。その猫は、彼女と常に一緒にいるほど一番懐いていると同時に、機嫌が悪い時は一番疎んでいるらしい。やはりそこは飼い主に似て気まぐれなのだろう。まさにお互い猫である。
⚫︎ 浅井 紗夜(十六歳)
どこにでもいる普通の高校一年生、である。もっとも夏海と出逢ってからは、どこにでもいる、という範疇からは少し外れつつあるがそこはそれ。
基本的には年相応に明るく無邪気で怖いもの知らず。社交性もそれなりであり、普通に生活をする分には全く困らない程度には会話力も高い。
しかし実は人見知りであり、明るく振る舞っているのは彼女なりの処世術。一定の防御線を引くことで、自身の深いところまで踏み込ませないということを無意識に行なっている。故に、夏海と出逢った時にその線引きが役に立たなかったことに驚き、彼女に深く興味を持つようになる。
夏海に影響されて本を今まで以上に読むようになってから、言葉に対する興味が強くなったので、日記の真似事のように手紙じみたものを、時々書いては捨ててなどということを始めたらしい。どこぞの偉人のように夜に書いて翌日読み返し、その内容に一喜一憂して破り捨てるということを(彼女はその故事を知らないが)繰り返している。そんなことをしているせいか、割と文章を書くのが巧くなってきているらしい。当然、本人は知る由もないことである。
先輩の家の猫が可愛くて仕方ないものの、基本的に触らせてくれても気まぐれにしか懐いてくれないのが不満である。言葉にこそしないが、やはり飼い主に似るのだな、と常に思っている。
二人の紹介を簡単にするならこんな感じですが、こんな正反対にも見える性格と年齢の差をこえて、彼女らが、「惹き合うものがある」という点では特に共通している、ということがおわかりになったでしょう。
スマートフォンが全盛の世の中でアナログなものは敬遠されがちではありますが、手紙の効用はやはりあるもの。このキチンと封をされた紙の密室の中では、人々は、ゆっくりあぐらをかいて語ることもできれば、寝そべって語ることもでき、相手かまわず、五時間の独白をきかせることもできるのです。
そこでは、まるで大きなホテルの各室のように、もっともお行儀のいい格式張った会話から、閨の睦言にいたるまで、余人にきかれずにかわすことができるのです。
……今、紗夜が手紙を書きだしました。
彼女の便箋は年相応に可愛らしいそれだが、何度も頬杖をつきながら、考え考え書いているところをみると、何か大切な内心の告白をやっているようにも見えます。……