【ふたりしずか・別話】 第二夜

# 十二月十六日 ——という夢を見ているらしい


⚫︎紗夜から夏海への手紙
 先輩、お返事ありがとうございます。形はどうあれ、普通に聞いたら怪しい事しかない私の話を疑わず、こうして先輩からの手紙を頂けることがとても嬉しいです。昨日の夢のことを考えるに、もしかしたらこのまま無視されて終わるんじゃないか、と思っていたので、少し安心しました。
 ところで、あの夢のあと。何か見ませんでしたか?


⚫︎夏海から紗夜への手紙
 別に、お礼を言われるようなことではありません。第一あんなことを貴方から言われたら、返事を書かないという選択はなくなってしまう。どうにも不思議なことですが、自分のなかにそんな感情があったことに気づけたのはなかなか興味深いことです。
 何かを見た、というのであれば、是なり、と言えるでしょう。正直、あなたの話を聞いていたら、本当に夢なのか? とは考えてしまいますが。ともあれ、気が向いたので続きかどうかわからない話をします。

 夜、いつも通りに寝たはずでした。しかし気がついたら道で倒れていて、目を開けたらうすぼんやりとした風景の中でした。おそらく、昨日落ちた場所なのでしょう。谷底に落ちたかと思ったら、どうやらさっきの鳥居の外側に戻ってきたらしい。体を起こしたら、私の横で古びたそれが静かに佇んでいました。
 特に身体が痛んだり動かなかったりする事はなく、五体満足で倒れていたようです。倒れていたのに五体満足が両立しているというのは、些か妙な話ではありますが。
 その私はじっとしている気にもなれず、とりあえずどこかに向かうことにしたようです。さっき落とされた風の通り道も気になりましたが、落ちたことを思い出して鳥居の内側に戻る気になれず、仕方なくまた歩き始めました。たださっきまでと違うことには、あたりの空気がやたら重たいこと。こんな短い間に大雨でも降ったのでしょうか、やたらにじっとりと重い空気に満たされ、且つ少し先がはっきりしないほどの濃い霧に覆われていました。私が鳥居の内側に居たのなんて、ほんの十数分だと思っていたのに。
 最初の夜に私の背中を押し続けていた声は止み、その代わりに波音が微かに聞こえてきます。どうやら海が近いようです。確かに霧の中に、潮の香りが混じっていました。
 それらを頼りに歩いていくと、不意に視界が開けました。どうやら展望公園の跡地のような場所です。錆びた手すりの向こう、重たい靄が沈む海と、その向こうに灯台がぼんやりと浮かんでいます。
 誰もいないはずなのに、灯台の灯りだけが頼りなく、ゆっくりと回っています。まるで、わたしはここにいる、と主張するかのように。
 海が近いから微かな波音が響いているのに、辺りはあまりに静か過ぎて耳が痛いほど。そのせいか、幻聴が聞こえてきました。
 ぼんやりと形を成さない、遠くから響く低い声。
 言葉がはっきりとわからないけれど、どうやら防災無線のような、機械的な放送の音みたいです。
 確かに誰かが話しているはずなのに、変な言い方ですが、それはこの世の者とは思えない声なき声。波音に代わって辺りを埋め尽くすその不気味に響く音に溶けるように、急速に風景が色褪せていきました。
 溶暗。夢は、そこでおしまいです。

 一夜限りの夢だと思ったら、まさか続きがあるなんて。抱えているにはあまりにも重く感じたので、今回は私が続きを話しました。もし、これをあなたが見ていたのなら、外側のわたしを教えてください。


いいなと思ったら応援しよう!