【ふたりしずか・別話】 第四夜

# 十二月十八日 先の見えない夢は夢なのか


⚫︎紗夜から夏海への手紙
 先輩からそんな言葉を聞けるなんて、きっと今後二度とないですよね。なんかとても嬉しいです。ええ、本当に嬉しいです。直截言わないまでも、ここで感謝を伝える分にはいいですよね?

 先輩が見ていたその風景、私も間違いなく見ていました。そして、誰かの手を引いて歩いていました。姿ははっきり見えなかったけれど、やっぱり先輩だったんですね。ただなぜか、私の方が大人になっていたようですが。
 あんな世界だけれど、あのまま先輩と一緒に歩けたらな、なんて考えてしまいました。しかも先輩の方が子どもになっている。とっても私得な状況ですよ。
 怖い夢、とわかってはいても、ちょっとだけ続きが楽しみです。あれ、なんか昨日と同じことを言ってる気がする。でも、本当にそう思います。
 だって、先輩が一緒にいてくれるなら。きっとどんな嵐も、こわくないです。


⚫︎夏海から紗夜への手紙
 どこかで聞いたようなセリフですが、まあそれは良しとします。それに随分失礼なことを言われたような気がしますが、半分くらいは当たっていそうなので特に言及はしません。ええ、こんな場所でくらいは、素直に認めるのもいいでしょう。
 さて、今日も夢の続きの話です。というか、なんで続いているのか、理由がまったくわかりません。いつまで続くのか。そして終わりはあるのか。今年が終わろうとしているからこそ、見る夢なのでしょうか。答えはないのかもしれない。でも、どんなつまらない答えでもいいから、知りたい、と思うのはいけないことでしょうか、ね。

 集落をしばらく歩いていたら、私は一人で置いていかれました。いつのまにか繋いでいた手は離れ、道の先、集落の外れに、大きな鉄橋がありました。
 どこかで見たような気がするけど、思い出せない。今はもう存在していないことだけはわかるけれど、それがどこのものだったかは思い出せない。
 かなり古びていて、朱色に塗られていたであろうそれはあちこち錆が浮かび、今にも崩れそうな見た目でした。でも、谷間を抜ける強い風に晒されながらも凛と立っているその姿は、それはもうずっと永い間、何か大きなものを支え続けてきた、という誇りある姿のようでした。
 不意に一段と強く風が吹き抜け、思わず目を閉じて、再び目を開けた時には、青い空をたくさんの白馬が駆けていました。まるで、谷を流れる風に乗って、空を駆け巡るような。その中の一頭に、見慣れた姿を見ました。燦々と輝く光を背にしてその顔は見えない。けれど、見間違えようもない。

 どうして、私を置いてそっちに行ってしまったの。手を離してしまったのは、私でしょうか。それとも。
 ごめんなさい、あまりに美しくて、はっきりと見えすぎていて、うまく言えません。
 正直、先に進むのが怖いけれど。
 それでも、見えたものを、教えて。

 自分でもよくわからなくなっています。夢は現か幻か、なんてよく言ったものですね。こっち側だけじゃなくて、あちら側でも話せたらいいのに。
 向こうで声を出せたら、あなたはなんて応えてくれるのか。ちょっとだけ、楽しみです。

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