テツオの供養

「テツオ、死んだらしいよ。」
なんとなく暇電した妹が、思い出したように言った。
「え、なんで?」
「知らん。母さんが買い物行っとる間に、死んどったらしいよ。」
「なにそれ、病気?」
「知らん。」

そこでまた違う話に移り、私たちはテツオが死んだことをあっさり忘れた。

テツオは、お母さんの彼氏で、なんか、田舎で取れるナスビみたいな顔をしていた。実家に帰った時に一度、会ったことがある。実家の玄関を開けると、黒いスウェットの髭と髪がもじゃもじゃの男が、洗濯物を取り込んでいた。
なにも言わずに一回扉を閉めた。
ため息が出た。
また戸を開けると、テツオはまだ、洗濯物を取り込んでいた。
「お母さんいますか。」
なんだこの質問は、私の実家だぞ。
「あぁ!きいちゃんの、娘さん?きいちゃん寝とるよ、起こしてくるよ。」
少し嬉しそうに笑い、階段を上がっていった。
母さんは真っ赤な顔をして降りてきて、
「ようきたな、上がりな。」
と言った。明らかに酔っている。テツオは、また洗濯物を取り込んでいた。

これが最初の出会いで、テツオと私は特に話すことをなく、そうして、テツオは数ヶ月して、突然私の実家で死んだらしい。



~22~ 終