45%値引きしてください。
先週の土曜日の昼下がり、昼食も終わって事務処理をしているとうちの店で一番若い女の子が「ペイさんいま空いてますか?」と聞いて来た。
「ああ大丈夫だけど」と返事をすると「◯◯の中古車を買いたいというお客様が来ているんですけど」と言われたので、出て行くとすでに定年を迎えて悠々自適な生活をしているんだろうな、という感じの年配のご夫婦がいらした。住まいは港区のタワーマンションでそれなりに余裕のあるご夫婦のようだった。
ご主人は少し角野卓造の毛髪が多い感じで、奥さんは沢田雅美を少し老けさせた感じの「渡る世間は鬼ばかり」のキャスティングのようなご夫婦だった。席に案内をして着席すると沢田雅美が開口いちばん「こちらに中古の◯◯が置いてあるってネットで見たんですけど」と、どこを探しても中古車が見当たらないのが不満そうに言い放った。
それはそうだ、ここは新車のディーラーのショールームでしかも場所は港区だ。輸入車を小規模で販売している中古車店ならともかく、ここは国産車の新車のショールームで国産の中古車販売は大規模な土地が必要なので、通常都心部には無いのが普通だ。
「申し訳ございません、こちらは新車のショールームですので中古車の展示はないんです」と言うと「でもネットでおたくの会社のホームページにここに有るって出ていたわよ」と食い下がる。こういう時のネットで見たほど当てにならないことは無い、値引きしかりどのホームページで見たか見せてくださいと言ってそのホームページにたどり着いた事は一度も無い。案の定、iPadを持ってきて、自社のホームページを開いて、中古車のページを開けてどのクルマか聞いても、「違うわ〜」というお決まりのセリフ。「じゃいいわ!」と言い、自分に都合のわるい事はこれで終了となる。これがお客様でなければ、もっと突っ込んで「すみませんわたしの勘違いでした」と言わせたいところだが、時間がもったいなので、こちらもこれ以上は突っ込まないようにしている。
中古車の実車が無いので、「このiPadで中古車店の在庫の中から好きなクルマをお選び頂ければ、当店で購入頂けますよ」と言うと、実物を見ないと決められないという、まあそれはそうだ。と気を取り直してまずは基本中の基本のヒアリングを行うと、娘さんが子供3人を幼稚園に送るのに自転車では危険なのでクルマを買って上げたいとのことだった。
予算を訪ねたところ、150万円の予算で検討しているとのことだったが、新車をすすめると、「案外安いのね」と言うので新車の見積もりをして、150万円を頭金にして残価設定クレジットで月々3,900円をお子さんが支払ったらいかがですか?とすすめると相当乗り気になってきた。が、当の娘さん夫婦が今日はいないので、この日はこれで帰宅された。
その翌日、前日とは名字は一緒だが違う名前で福利厚生団体から紹介が入ったので携帯へ連絡をしてみると昨日来店した角野卓造夫婦の息子さんだった。昨日の商談の流れを説明し、新車なら決算なので条件もがんばれると言うと一度話しを聞きたいので、夕方に来店したいと言うので17時に約束をする。
約束の時間に来店したのは、角野卓造と息子で沢田雅美は今日は居なかった。よくよく話しを聞くと、昨日話していた娘は息子さんのお嫁さんで現在3人目を出産するために実家へ里帰り中とのことだった。沢田雅美が居ないから今日は決まらないな、と思いつつも昨日の新車の見積もりを出して話しをする前に、中古の在庫をiPadで見せて、予算の150万円だと平成21年式か新しいクルマだと事故車だと言うと、やはり新車がいいかな?と言うので昨日の新車の見積もりを息子に説明すると、「あとは条件ですけどいくらになりますか?」と聞いて来た、こちらが新車なので150万円よりも相当予算をあげて頂かないと言い終わるまも無く、「150万円になりませんか?」ときた!あまりの要求にビックリしていると、「この条件なら今日決めて行きます」と畳み掛けるように言うではないか。車両本体価格が200万円のクルマで総額が240万円なのでつまりは車両価格から45%のディスカウントの要求をしている事になる。おいおいいくらクルマを買うのが初めてでも、言っていいことと悪いことがあるだろ?これがお客様じゃなかったら「おととい来やがれ!」と言いたい所だが、そこはぐっとこらえていた。自分だって誰もが知っている商社に勤務していて少しは商売を判っているだろと思い、「いくらなんでも7年落ちの中古車と同じ値段にはならないですよ」と優しく言うと、「じゃ200万円なら今日決める」ってどういう事だ?予算は150万円って言ってたのに、いきなり50万円の予算アップ。いまどき買い物をするときは便利なご時世だから価格.comとかネットの掲示板で値引きのリサーチをするのが当たり前で、相場を知ってから交渉する人が多いのに身銭を切らない分、条件交渉も相当に雑だった。そんなこんなで当然値引きの相場を知らないので、納得するはずも無いのでその日は検討持ち帰りとなった。
最初は、すぐにでも欲しいと紹介元の福利厚生団体にも話していたのに、結局3人目の出産の5月まででいいとか車庫がまだ無いとか、本当に知らないって事は、相手に対して超えてはならない一線が判らないだけに、軽々と一線を超えた事を言えてしまうんだな、さすがにこの商売を27年もしているけど45%の値引要求は初めてだったし知らないって破壊力のある事を言えてしまうんですね。クルマってメーカーに直接修理とか出せないので、その後のお付き合いも考えるとお互い気持ちよく交渉したほうが絶対にいいんだけどな。
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